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第四章 帰りたいのに帰れない
七十年後のど田舎村
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しばらくの後、俺は夢見の術で、夢の中でならアケロニア王国に行けるようになった。
ど田舎村にいたとき、王様と会ったのと同じだ。夢の中だけなので、人から姿が見えたり、見えなかったり。
そして衝撃の事実が発覚する。
もうど田舎村には、ばあちゃんも他の二人も、ピナレラもユキりんもいなかったのだ。
男爵や部下の薬師、屋敷の料理人さんや使用人たち、村人たちも皆、俺の知る人たちは亡くなっていた。
世界の次元間の時間のズレがもろに出たのだ。
覚悟はしていたはずだった。
でも、その事実に俺は涙が枯れ果てるほど泣いた。
何度目かのど田舎村への来訪で、俺は現地の村人たちの前に姿を現すことができた。
俺の黒髪と黒目を見て驚いた村人が、慌てて領主のもとに連れて行ってくれた。
ど田舎村の今の領主は、俺の知ってるブランチウッド男爵の孫だった。
彼は俺の容姿を見て、事情を悟ったようだ。
「ユウキ・オコメダ様で間違いありませんか?」
「……ああ。本人だ」
「やはり。お帰りなさい、ユウキさん」
現領主は頷くと、亡くなった祖父から受け継いだ手紙を俺に寄越した。
男爵のモーリスさんから俺宛の手紙だ。
そこには俺ともなか村が消えた後のことが、簡潔にまとめられていた。
俺が消えた後、間もなくばあちゃんが亡くなったこと。
ユキりんやピナレラちゃんは男爵が後見人となったこと。
唯一残ったもなか酒造の建物と施設は、村人たちが保守していたが十数年後に経年劣化と冬の大雪で倒壊の危険性があったことから解体処分したことなどだ。
醸造設備はもう残っていない。
俺がまとめた酒造りノートや、日本酒最中の麹菌や酵母は保存のため、調理師ギルドに譲渡したと書かれてある。
俺は夢見の術が切れるまで、しばらくど田舎村に滞在して村の中を歩いて回った。
今のど田舎村には、建造物や施設のあちこちにユキリーンの名前がある。
得意の魔法樹脂を生かして職人として生きたと村の記録に残っていた。
「ユキりん……ピナレラちゃん……」
二人がいないってことは、彼らももう……
本当なら亡くなったばあちゃんの墓参りに行くべきだったが、俺は……怖くて、ど田舎村に残された、もなか村の墓地へは近づけなかった。
この墓地に、先祖代々の墓があるみどりさんから頼まれてはいたが……もう少しだけ待っててけろ、おばちゃん……
一度ど田舎村に行くと、夢の中でアケロニア王国に行きやすくなった。
俺にとっては夢の中だから、場所移動も地図さえ把握していれば難しくない。
けど、試しに王都に行ってもあの王様はいない。まだ生まれていないのだ。
夢見のたびに辿り着く時期もまちまちだ。
今回は王様の曾祖父が即位している時代だった。
「うわ。うちの親父そっくりじゃん」
たまたま国家行事で王宮のバルコニーからお手振りしてる王族たちを見る機会があった。
中央にいた当代国王は大柄で、顔つきといい体格といい、俺の親父ゲンキそのもの。
俺たち本当にアケロニア王族の血を引いてるんだなと実感したもんだ。
しばらく国内を見て回ったけど、あまり興味を惹かれるものはなかった。
国外には出られない。御米田ユウキとしての俺が、異世界転移したときに一度も出てないから、縁がないようだ。
となると、またど田舎村に戻ってくるしかないわけだが。
最初に村ごと異世界転移した時点から七十年ほど後のど田舎村だ。
もなか村はまた俺と一緒に日本に戻ってしまったけど、ど田舎村特有の景色はほとんど変わっていない。
男爵の屋敷や村人たちの家々もだいたい当時のままだ。木造より煉瓦作りの建物が多いから、建て替えも少ないんだな。
夢の中だから飲み食いも必要ない。
疲労もないから睡眠も不要。
夢から醒めようと思えばいつでも目覚めは可能だ。
何となくど田舎村にいるときは、村や山の中を歩いて回っている。元々いた頃の見回り感覚がまだ抜けてないんだ。
「もなか村の転移跡は……少し変わったか」
ちらほらと民家が建つようになってるが、さすがに山側の墓地とは少し離れている。
俺の日本への帰還のとき、墓地やもなか酒造はこっちの世界に残ってしまったやつだ。
「……仕方ない。一度、確認してくるか」
頭を掻いて俺は覚悟を決めた。
こっちで亡くなったばあちゃんは、多分じいちゃんと同じ御米田の墓に遺骨が納められたはずだ。
それに、ユキりんやピナレラちゃんも……
重かった足を墓に向けてやってくると、昔は墓参り客用の休憩所だったものがアケロニア様式の建物に変わっていた。
「お。裏手に祠……って、ごめん。邪魔したか」
建物は煉瓦だったが、祠は木製の小さな小屋タイプだった。よくある小さなお社みたいなやつ。
そこに中一か中二くらいの男の子が建物にもたれかかって昼寝してたんだが……起こしちまったようだ。
「どちらさんで?」
「あ、えーと。御米田ユウキっていうんだけど」
「……噂の帰還した王族様けぇ」
軽く頭を振って立ち上がったその子の髪は、見事な青銀。欠伸して涙を拭った目は、薄い青緑のティールカラー。
「ども、ユキレラ・オコメダです。ユウキ伯父さん、はじめまして」
こ、この顔は……竜殺しのべっぴん……いや、――ユキりんに瓜二つだべ!?
ど田舎村にいたとき、王様と会ったのと同じだ。夢の中だけなので、人から姿が見えたり、見えなかったり。
そして衝撃の事実が発覚する。
もうど田舎村には、ばあちゃんも他の二人も、ピナレラもユキりんもいなかったのだ。
男爵や部下の薬師、屋敷の料理人さんや使用人たち、村人たちも皆、俺の知る人たちは亡くなっていた。
世界の次元間の時間のズレがもろに出たのだ。
覚悟はしていたはずだった。
でも、その事実に俺は涙が枯れ果てるほど泣いた。
何度目かのど田舎村への来訪で、俺は現地の村人たちの前に姿を現すことができた。
俺の黒髪と黒目を見て驚いた村人が、慌てて領主のもとに連れて行ってくれた。
ど田舎村の今の領主は、俺の知ってるブランチウッド男爵の孫だった。
彼は俺の容姿を見て、事情を悟ったようだ。
「ユウキ・オコメダ様で間違いありませんか?」
「……ああ。本人だ」
「やはり。お帰りなさい、ユウキさん」
現領主は頷くと、亡くなった祖父から受け継いだ手紙を俺に寄越した。
男爵のモーリスさんから俺宛の手紙だ。
そこには俺ともなか村が消えた後のことが、簡潔にまとめられていた。
俺が消えた後、間もなくばあちゃんが亡くなったこと。
ユキりんやピナレラちゃんは男爵が後見人となったこと。
唯一残ったもなか酒造の建物と施設は、村人たちが保守していたが十数年後に経年劣化と冬の大雪で倒壊の危険性があったことから解体処分したことなどだ。
醸造設備はもう残っていない。
俺がまとめた酒造りノートや、日本酒最中の麹菌や酵母は保存のため、調理師ギルドに譲渡したと書かれてある。
俺は夢見の術が切れるまで、しばらくど田舎村に滞在して村の中を歩いて回った。
今のど田舎村には、建造物や施設のあちこちにユキリーンの名前がある。
得意の魔法樹脂を生かして職人として生きたと村の記録に残っていた。
「ユキりん……ピナレラちゃん……」
二人がいないってことは、彼らももう……
本当なら亡くなったばあちゃんの墓参りに行くべきだったが、俺は……怖くて、ど田舎村に残された、もなか村の墓地へは近づけなかった。
この墓地に、先祖代々の墓があるみどりさんから頼まれてはいたが……もう少しだけ待っててけろ、おばちゃん……
一度ど田舎村に行くと、夢の中でアケロニア王国に行きやすくなった。
俺にとっては夢の中だから、場所移動も地図さえ把握していれば難しくない。
けど、試しに王都に行ってもあの王様はいない。まだ生まれていないのだ。
夢見のたびに辿り着く時期もまちまちだ。
今回は王様の曾祖父が即位している時代だった。
「うわ。うちの親父そっくりじゃん」
たまたま国家行事で王宮のバルコニーからお手振りしてる王族たちを見る機会があった。
中央にいた当代国王は大柄で、顔つきといい体格といい、俺の親父ゲンキそのもの。
俺たち本当にアケロニア王族の血を引いてるんだなと実感したもんだ。
しばらく国内を見て回ったけど、あまり興味を惹かれるものはなかった。
国外には出られない。御米田ユウキとしての俺が、異世界転移したときに一度も出てないから、縁がないようだ。
となると、またど田舎村に戻ってくるしかないわけだが。
最初に村ごと異世界転移した時点から七十年ほど後のど田舎村だ。
もなか村はまた俺と一緒に日本に戻ってしまったけど、ど田舎村特有の景色はほとんど変わっていない。
男爵の屋敷や村人たちの家々もだいたい当時のままだ。木造より煉瓦作りの建物が多いから、建て替えも少ないんだな。
夢の中だから飲み食いも必要ない。
疲労もないから睡眠も不要。
夢から醒めようと思えばいつでも目覚めは可能だ。
何となくど田舎村にいるときは、村や山の中を歩いて回っている。元々いた頃の見回り感覚がまだ抜けてないんだ。
「もなか村の転移跡は……少し変わったか」
ちらほらと民家が建つようになってるが、さすがに山側の墓地とは少し離れている。
俺の日本への帰還のとき、墓地やもなか酒造はこっちの世界に残ってしまったやつだ。
「……仕方ない。一度、確認してくるか」
頭を掻いて俺は覚悟を決めた。
こっちで亡くなったばあちゃんは、多分じいちゃんと同じ御米田の墓に遺骨が納められたはずだ。
それに、ユキりんやピナレラちゃんも……
重かった足を墓に向けてやってくると、昔は墓参り客用の休憩所だったものがアケロニア様式の建物に変わっていた。
「お。裏手に祠……って、ごめん。邪魔したか」
建物は煉瓦だったが、祠は木製の小さな小屋タイプだった。よくある小さなお社みたいなやつ。
そこに中一か中二くらいの男の子が建物にもたれかかって昼寝してたんだが……起こしちまったようだ。
「どちらさんで?」
「あ、えーと。御米田ユウキっていうんだけど」
「……噂の帰還した王族様けぇ」
軽く頭を振って立ち上がったその子の髪は、見事な青銀。欠伸して涙を拭った目は、薄い青緑のティールカラー。
「ども、ユキレラ・オコメダです。ユウキ伯父さん、はじめまして」
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