ゲームランカーのスパダリ彼氏

真義あさひ

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第一章「最強ランカーのリアル彼氏はスパダリ覚醒する」高瀬怜司編

僕の彼氏は人気者

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 会議室の重厚な椅子に座った怜司は、心の底で苛立ちを押し殺していた。

「いやあ、泰然君のあの脚線美、実に見事だね」

 幹部の男たちが楽しげに交わす会話に、怜司は眉間のしわを深める。

(……今日は銀行のシステム対策会議じゃなかったのか?)

 怜司が今日、この場に呼ばれたのは銀行のシステム刷新案について説明をするためだったはずだ。
 しかし今この瞬間、怜司の専門性など誰も求めていない。
 この国際色豊かな幹部たちは、世界的人気のVRMMORPG〝Legend of Infinity〟、通称LOIの話題──いや、正確にはそのトップランカー、泰然の話題に夢中だった。

 泰然はこのゲームのトッププレイヤーだ。
 大規模ギルド〝地天泰〟を率いるギルドマスターにして、大君主オーバーロードという最高級クラスを持つ。

 ――怜司の最愛の恋人でもある。

「この間のギルド戦、泰然君が敵のボスをあの長い脚で蹴り倒したシーンは最高だったな」
「わかる。あのボディラインにピッタリの新装備も最高だったね」
「私、あの子に『おじさん、命令に従いなさい』なんて言われたら喜んでクォンタムコイン払うよ」

 ギリギリ上品さを保った笑いが響く中、怜司は無言でカップを握り締める。

(……何を言ってるんだ、こいつら)

 幹部たちにとって、泰然はアイドルのような存在だ。
 彼の魅力的な容貌、華麗な戦闘スタイル、ハイセンスな装備、強いリーダーシップ──すべてが完璧で魅力的なのだろう。

 だが、怜司にとって泰然は偶像アイドルなんかではない。怜司が愛する唯一の男だ。

 二人は幼馴染で、同じ学校に通い、同じ街で育った。
 子供の頃から一緒で、いつしか友人関係を超え、恋人になった。
 泰然が有名になるずっと前から、怜司は彼を守り、愛してきた。その自負がある。

(でも、僕は泰然に相応しいのか?)

 最近その不安が怜司を襲う。
 泰然は世界的なスターとなって、日々スポットライトを浴びている。
 対して怜司は、まだ23の、ただの銀行のシステムエンジニアに過ぎない。

 幹部たちが無遠慮に交わす泰然への賞賛に、怜司は嫉妬以上の焦燥を感じる。

(うちは外資の大手銀行じゃなかったのか。何でこんなオッサンばかりなんだ!

 外資らしいところは幹部が外国人なところだけだ。日本人は今ここには怜司だけ。

 銀行役員たちがなぜVRゲームを語っているのか?
 単純な話で、LOIは昨今ブームのブロックチェーンを組み込んだ業界最古参ゲームだからだ。

 今やLOIのユーザー数は全世界で数億とも言われている。

 LOIのゲーム内通貨だったクォンタムコインは、今や暗号通貨(仮想通貨)として金融市場でも注目されているし、街中でもコード決済として普通に使える。
 だからこそ、銀行幹部もLOIの話を避けられない。

 それ以外にも、泰然はとにかく見た目が良い。今では下手な芸能人より人気がある。

(泰然は凛々しくて格好いいからな……黒髪も赤い目もインパクトが強くて)

 かつて、LOIのプロゲーマーで生きていくと決めて、泰然は怜司と通っていた高校を中退してしまった。
 元は美術系の大学に進学したがっていた泰然は、本来ならクリエイター気質だ。大君主オーバーロードの黒と真紅を基調とした衣装や装備も全部本人がデザインしたもので、今ではリアルのショップで販売もされている。

 センスの良い衣装で凛々しく戦う泰然は、ストイックなプレイスタンスが国内外で受けた。
 初期ジョブが〝サムライ〟や〝武将〟だったのもあって、ジャパンクールサムライで大バズり。
 以来ずっとLOIの人気プレイヤーである。

 幹部たちの泰然語りはまだ続いている。

(……ああ、うるさい)

 泰然は怜司の恋人だ。リアルで最も近くにいて、共に夜を過ごし、朝には髪を拭いてやるほど親密な存在。

 なのに、こんな場所で泰然の魅力をあけすけに語られ、何も言えない自分がいる。

 幹部たちはただのファンだ。ゲームの中の泰然に興奮しているだけ。それはわかっているが……

 会議は結局始まることなく、泰然の話題だけで終了した。
 怜司は重い気持ちを抱えたまま席を立った。



 システム部へ戻ると、同僚が軽く怜司をからかった。

「また幹部のおっさんたちに泰然の話で会議潰されたのか?」
「まあ怜司がリアルで本命なんだし、そんなムキになるなよ」

『リアルでは本命』。
 その言葉が怜司の胸を刺す。
 ──リアルでは本命だとして、ゲームの中ではどうなのだ?

 そんな怜司の不安をさらに煽るように、別の同僚が追い打ちをかけた。

「でもゲームではジェイクがいるだろ? 最近、あっちの方が本命なんじゃねって思う時あるよ」
「だよなあ。怜司、リアルでもそのうち捨てられんじゃね?」

 怜司の神経がプツンと切れた。

「……黙れ」

 静かな怒気にシステム部が凍りつく。
 冷静な怜司がこんな反応をすることは珍しい。

 しかし、怜司自身も戸惑っていた。

(僕は確かに泰然に愛されてるはずだ。なのになぜ、こんなに自信が持てないんだ?)

 この疑問こそが、怜司が直面すべきテーマだった。
 誰もが羨む人気者に愛されているのに、自分に自信がない。

「……セキュリティ部に行ってきます」

 この場にいたら、耐えきれなくなる。
 泰然を巡る話題が続く限り、誰かが勝手に泰然を〝所有物〟のように語り、怜司の存在を軽んじる。それが我慢ならなかった。

 だが、逃げることしかできない自分が、さらに惨めに思えた。

(泰然。帰ったら電話して問い詰めよう)

 本人はゲームとリアルは別物だと考えているようだが、この事態は恋人の自分に対してあまりにも不誠実だ。

 じっくり問い詰めてやる、と思いながら怜司は仕事へと戻ろうとして、……スマホが通知音を鳴らした。
 泰然からのメッセージだった。

『怜司、ごめん。今日も遅くなる。打ち合わせが長引いてる』

 小さな溜息が漏れる。またか。

(僕は本当に、泰然に相応しいのだろうか──)

 この答えの見えない問いが、怜司の胸を苦しく締めつけて離さなかった。



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