ゲームランカーのスパダリ彼氏

真義あさひ

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第一章「最強ランカーのリアル彼氏はスパダリ覚醒する」二条泰然編

同情配信

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 怜司の待つホテルにすぐ行く覚悟は、まだない。

 時計を見ると、まだ午後二時を少し過ぎたところだった。

「……少しだけ、配信するか」

 LOIに怜司が来た衝撃が強すぎてすっかり忘れていたが、自分はデスメリーの囁きに屈して今回のランキング戦では準決勝で敗退している。

 ログインして、配信を開始する。

「さっきのランキング戦、観てくれたか? 俺は負けたが……次は勝つさ。1位の座を取り返す」

『ギルマス、お疲れさま!』  
『今日も推しが尊い!』  
「世界ランカー様のリベンジ、楽しみすぎる!」
『怜司くんと話した?』  

 いつものように、テンションの高いコメントが流れてくる。
 しかし、その中に不穏なコメントが紛れ込んできた。

『ランキング戦でリアル彼氏いたけど。泰然、ゲーム恋人のことで揉めたんだろ?』 
『それ自分も気になってた。泰然そこのとこどうなのー?』
『彼氏の愛を試したんだよね?』  
『あんな金持ちスパダリが彼氏なんだ、そりゃ不安にもなるって』
『愛されてるか不安だった?』  

「………………っ」

 図星すぎて、言葉に詰まった。

『泰然、彼氏のこと試してたってマジ?』
『本当は不安だったの?』
『……泰然、かわいそうな子……』

「えっ?」

 泰然は思わず、装備の調整をしていた手を止めた。

「……何を、言ってるんだ?」

 コメント欄を見ると、すっかり「泰然かわいそう」の流れができていた。

「い、いや、別に俺はそんなつもりじゃ……」

 慌てて誤魔化そうとしたが、失敗した。
 動揺する泰然に「やっぱり」とコメント欄は納得の嵐だ。

『泰然、ずっと彼氏を試してたんだね』
『そんなに不安だったんだ……13人もゲーム恋人作るほどw』
『でもそうしちゃうぐらい、彼氏のこと、本当に好きなんだね』

「ち、ちょっと待て。お前たち、勝手に同情モードに入るんじゃない!」

 しかし視聴者たちは止まらない。いつも毅然としたLOIのカリスマを弄れる格好の機会を逃すわけもなかった。

(……オレは、怜司に愛を証明して……欲しかった)

 本当のことだけに取り繕うこともできず、泰然は途方に暮れた。

 怖かったのだ。自分には両親がいない。
 母親は名家の令嬢だったと聞く。両親は駆け落ち結婚して泰然を産んだ。
 泰然が小学校低学年の頃、母は強制的に実家に連れ戻された。以来一度も会っていない。
 父は母の実家から海外出向を命じられたまま、音信不通となってしまった。仕送りもぱったり途絶えてどれだけ苦労したことか。

 そんな自分に、いつか怜司までいなくなったら……?

(俺は、壊れてしまう)

(愛を思い知らせてほしかった。満たして欲しかった。……安心が、欲しかったんだ)

 ああそうか、と自分の中で何かが嵌まった感触があった。

 あれだけ愛を注いでくれる男がいるのに、いつも不安が消えなかった。
 自分はずっと怖くて、不安で、……怜司の愛が消えないかどうか、必死で確認したくて仕方がなかったのだ。

 けれどそんなこと、配信中に口にできるわけがない。

 でも、視聴者たちはお構いなしだった。

『泰然が幸せになりますように!!』(投げ銭10000円)
『この後二人で話し合いなんでしょ? 美味しいものでも食べてきて』(投げ銭20000円)
『泰然をよしよしする』(投げ銭4444円)
『愚痴でも惚気でもウェルカムですぞ』(投げ銭5000円
『今夜、怜司くんに甘やかしてもらってね(はあと)』(投げ銭12000円)  

 どっさり、投げ銭と同情と慰めが次々降ってきた。

 投げ銭は嬉しい。ダイレクトな収益だから喜ばしいことだ。しかしこれは素直に喜べない……!

「な、なんでお前たちが同情モードなんだ……!」

 視聴者たちの「泰然かわいそう」「泰然を励まさなきゃ」ムードはもう止まらなかった。

 更に、こんなコメントも流れてくる。

『リアル彼氏に振られたら、ボクが泰然を幸せにします』
『リアルでも泰然を守りたい』
『泰然のリアル恋人になれるなら悪魔にも魂を売れる』
『デスメリーが恋人になれるならボクだって!』

「はは。何言ってるんだか」

 泰然はコメントを笑い飛ばした。

(俺が自分から怜司と別れるなんで、ありえない)

 だが、泰然はこれらのコメントにもっと注意しておくべきだった。
 そう気づかされるのは数日後のことである。



 もう収拾をつけるのは無理だな、と泰然が諦めて配信を切り上げた直後。

 ピコン!

『泰然。配信が終わったならそろそろ家を出て。ラッシュ前に電車に乗りなさい』

 やんわりとだが、滅多に使わない命令口調で怜司からLI◯Eが来た。

(……これ、絶対怒られるやつだ)

 間違いなくこの配信を怜司も見ている。
 視聴者たちが散々、泰然が彼氏を試しただの不安だのとからかっているのを見ているわけだ。
 怜司も当然、それが図星だと気づいただろう。

 泰然は頭を振って、怜司への返信を書いた。

「行くのはいいけど、なんでホテル?」

『君と静かに話したくて』

(話すだけなら、お前の家やカフェでもいいだろ……)

 泰然はスマホを握り潰しそうになった。
 これはもう間違いない。怜司は泰然を抱く気満々だ。

 別にカマトトぶってるわけじゃない。付き合いは長いし、それなりに身体の関係もある。
 それに一ヶ月近く怜司と会っていない。泰然だって欲求不満だ。

「俺だって言いたいことは山ほどあるぞ。LOI始めたのも知らなかったし、VR酔いどうしたんだよって話だし、……こんな短期間で俺を倒すほどのレベリングとか正気の沙汰じゃない……ほんとどんだけ金使ったんだよ……」

 いつもの習慣で、今日の収益を確認する。今日の暗号通貨クォンタムコインの収支は……
 動画配信による広告や投げ銭の収入は……

「………………」

 泰然は深い溜め息を吐いて、資産管理アプリを閉じた。

「……行くか」

 スマホの時刻は16時を過ぎている。
 夕方の混雑が始まる前に駅へ向かわなければ。

 足取りはまだ少し重い。

 でも、心のどこかでは、早く自分の男に会いたくて仕方がなかった。


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