ゲームランカーのスパダリ彼氏

真義あさひ

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第一章「最強ランカーのリアル彼氏はスパダリ覚醒する」二条泰然編

王が崩れた瞬間

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 もう日もすっかり暮れた。公園には街灯がともり始めた。

 泰然はデスメリーに腕を掴まれたまま、窮地に陥っていた。
 デスメリーはどこか戯けた様子で、肩をすくめるように笑っている。

「バーチャルセックスの許可すらくれないなら、アタシ、あなたのLOI資産ぜ~んぶいただいちゃおうかしらぁ?」

 その一言で、鼓膜の奥がキン、と鳴った。
 冗談ではないと直感した。
 この男が言うことに、ユーモアの成分は一ミリも含まれていない。

「……どういう意味だ、それ」

「まだ気づいてなかったの? もぉ~、おバカさんねぇ♪」

 くねるような動きとともに、デスメリーはより泰然へと近づいた。

「〝資産の不調〟の原因……ワ・タ・シ☆」

 言葉の刃が、胸の奥を切り裂いた。

「……やはりな」

「正解。あなたの資産ステータス、裏からずぅ~っと、見放題。いじり放題。だって最初にギルド構築を手伝ってあげたの、ワタシでしょ? 管理コードも暗号コードも、丸ごと覚えちゃってるもん」
「……そうだったな。お前とはもう十年の付き合いだ」
「でしょお~?」

 ぐるりと一周するように、デスメリーは泰然の周りを回った。

「リアル恋人になってくれたら、全部元通りにしてあげるわよぅ?」
「ふざけるな……!」

 泰然はベンチから立ち上がり、睨みつけた。
 拳を握る手が震えている。

「お前が……ずっと俺の足を引っ張ってたのか」
「そうよぅ? ワタシはあなたが壊れる瞬間が見たいの。だからあなたを助けてきたの」
「……なっ」

 デスメリーの言い分は泰然の理解の範疇を超えていた。

「強くて美しくて、誰よりLOIで輝いているあなたが脆く崩れるところ……ずっとずっと想像してたわぁ」
「………………」
「そしてあなたは王になった。その王冠、ワタシが奪ったら周りは皆、どう思うかしらぁ?」

 その瞬間、泰然のスマホが震えた。

《通知:A社スポンサー契約見直し要請》
《通知:フォロワー数 ▲13,805》
《通知:ギルドメンバー 脱退申請208件》

「な、何だこれ……?」

 まるで、世界が崩壊していくような音が、現実から聞こえてくるようだった。

「ここに来る前、SNSに仕込んできたのよぅ~。泰然大君主のビッチ説。ゲーム恋人13人はやっぱりヤりすぎだったわねえ~?」

 デスメリーがくるりと手首を回す。
 泰然はそれ以上、スマホのSNS通知を開けなかった。
 怖かった。いや、もう、開かなくても内容はわかっている。

『♯泰然リアル修羅場』
『♯リアルビッチ泰然』
『泰然ギルマス、13股だった説』
『怜司くん不憫すぎる……』

 いまこの瞬間も、好き勝手なコメントが無数に飛び交っているのだろう。
 泰然がその目で見ていないのをいいことに、誰もが無責任に、嘲笑を繰り返す。ネットとはそういう場所だ。

「これが〝王の代償〟よぅ。愛されすぎたあなたが、全員を管理できなかった罰♪」

「俺は……そんなつもりじゃなかった……」
「でも、現実はこう☆」

 またひとつ、通知が震えた。直近の一番大きな契約スポンサーからの……

《通知:企業タイアップキャンペーン予定中止》

「もう……いい……」

 泰然は俯いたまま呟いた。

「全部失うぐらいなら……」

(せめて怜司を……巻き込まないように、しねえと)

「うふふっ、優しすぎぃ。だからこそ壊したくなるのよね~。ワタシ、思ってたの。あなたが泣き出すまで、どれくらいかかるかなって♪」
「やめろ……!」
「ずっと、ずぅぅっと、あなたのこと見てきたのよ? 推しとして、王として。だからこそ、その王冠を……剥ぎ取って、踏み潰して、嗤いたいの♪」
「やめろぉぉっ!!」

 叫んだ声は、虚空へ消えていった。
 周囲はただ静かで、誰も、彼を助けてはくれなかった。

 そのとき、通知が鳴る。

《通知:ジェイクよりメッセージ》

 それは、かろうじて繋がっていた仲間からの短い一文だった。

『周囲に怪しい動きあり。ほかの恋人たちがそっちに向かってる。逃げろ泰然!』

 泰然は顔を上げる。

「他の……恋人たち……?」

 デスメリーは肩をすくめ、口角を上げる。

「うふふ☆ 集合って言っといたの。現地集合、ってやつ? あの子たちには、DMで場所だけ送ってあるからぁ」

 風が吹いた。遠くから何人かの足音が近づいてきている。

「さぁ、お楽しみはこれからよ。ワタシと、あなたと……ワタシたち全員でねぇ♪」

 遠く、木立の隙間から見える影。

 その瞬間、泰然のスマホにまた一件、通知が来た。

《通知:ギルド拠点への攻撃予告、フォーラムにて確認》

 LOIの地天泰が今まさに攻撃されようとしている。
 この状態では泰然のログインをデスメリーが許すことはないだろう。

「なあ、デスメリー……」

 泰然は震える声で訊いた。

「なんで……俺なんだ?」

 デスメリーが口の両端を大きく釣り上げて、嗤う。

「ワタシ、あなたと初めて会ったときからわかってたわぁ。『この子は絶対、王になる』って。あんなちっぽけな中学生にね、直感したの」
「中学生のときって」

 泰然がLOIを始めた頃だ。

「王様の一番輝くときって知ってる? 玉座に座って王冠を被ってるときじゃないのよ」
「………………」
「自分の国が滅びるとき。そこが一番美しいの。映えるのよぅ~♪」

 だから育てた。そして子供は王になった。
 もうあとは壊すだけだ、とデスメリーは嬉々としている。

「お前……狂ってるよ」

 デスメリーは笑っていた。
 この世のすべてを嘲るように。
 泰然のその言葉こそが、最大の褒め言葉だとでも言うように――


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