ゲームランカーのスパダリ彼氏

真義あさひ

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第一章「最強ランカーのリアル彼氏はスパダリ覚醒する」二条泰然編

王の絶望

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 スマホに届く通知音が止まらなかった。
 スポンサーからの契約解除通知、ギルドメンバーからの脱退連絡、ギルド拠点の危機を知らせる警告アラーム──そのどれもが、泰然の胸を鋭く抉った。

 通知を確認するのに必死で、SNSや自分に関するネットニュース、他のライバーの配信を確認する暇もないほどだった。

 デスメリーは少し離れたベンチでくつろいでいる。
 まるでこの状況を楽しむかのように、足を組み、派手なネイルの指でキャンディをくるくる回していた。

「やだぁ、通知がいっぱい来てるぅ? もう、人気者ってつらいわよねぇ」

 何気ないその一言にも、刺すような悪意が滲んでいる。

 泰然はスマホを握りしめ、震える指で通知を閉じた。
 画面を見ていると、自分がひとりで崩れていく音がする。
 いや、もしかしたら──もう壊れてしまったのかもしれない。

 怜司の顔が、ふっと脳裏に浮かぶ。
 優しくて、賢くて、自分のすべてを見通すようなあの目。
 あいつがいてくれれば、きっとこの状況も打破できる。
 でも。

「……巻き込めない」

 泰然は、小さくつぶやいた。

 怜司の笑顔を、汚したくなかった。
 あの温もりを、あのまっすぐな愛を、こんな薄汚れた現実で穢したくなかった。

(俺の問題だ。俺が選んできたことだ。俺が……間違ってたんだ)

 俯いたまま、強く唇を噛む。
 見上げれば空はもう暗い。泰然の胸の中には夜の闇より深い曇天が広がっていた。
 そして、泰然は自分の中で決意した。

(怜司には……何も言わない。言っちゃいけない)

 自分を守るためなら、あいつはまた何だってする。
 王としての自分も、男としてのプライドも、すべてを背負って突き進もうとする。
 ……だからこそ、これは、自分ひとりで終わらせなければならない。

(そうだ。俺が……俺が背負うべきなんだ)

 その瞬間、誰も見ていない場所で、泰然の肩がそっと落ちた。

 強がりの仮面を、そっと剥がすように。

 そして、次の瞬間。
 遠くから、こちらに向かってくる見覚えのある影があった。

 デスメリーの仲間たち。
 LOIの中で〝恋人〟として認証されたゲームユーザーたちが、ぞろぞろと現実の公園に集まり始めていた。

 だが、泰然はそれを見ても動かなかった。

(怜司だけは……絶対に、巻き込まない)

 静かに、心の中で線を引いた。



「アッ。皆、こっち、こっちよぉ~♪」

 公園の奥まった東屋にいた泰然のもとへ、賑やかな一団が現れた。
 デスメリーを筆頭に、LOIで泰然の〝ゲーム恋人〟として登録されているプレイヤーたち。
 中にはオフラインイベントで顔見知りになった者もいれば、顔も知らないはずの相手までがいた。

「えっ、うそだろ……5人も来たのかよ……」

 泰然の声が震える。

 まるで〝王の処刑〟を見に来たような、期待と歪んだ愛情を滲ませる視線たち。
 その中に、真っ直ぐな好意など一切なかった。あるのは、ただ──欲望だけだ。

「ほら泰然くん。リアルでも私たちと〝恋人〟になってよ。なんならこの後、ホテル行こっ☆」
「おまえ……ふざけんなよ。冗談じゃ──」
「冗談じゃないってばぁ」

 艶っぽい笑みを浮かべて、デスメリーが泰然の腕に手を絡ませてくる。
 それを合図にしたかのように、他のプレイヤーたちも一斉にスマホを取り出した。

「ほらぁ、ここでバーチャルセックス許可くれたら、もっといっぱい貢げるのにぃ?」
「君のために課金してきたんだよ? 愛でしょ?」
「許可さえくれれば、もっと、もっと君のこと……〝支えられる〟……よ?」

 その言葉に、泰然は身体を強張らせた。

「……違う。俺には、怜司が……」

「なーに言ってんのぉ?」
「リアル彼氏がいるってだけで、オレたちの想いが否定されるわけ?」
「君、みんなの気持ち踏みにじるつもり?」

「やめろ……! やめろって……っ!」

 拒絶の声は、誰の耳にも届かない。
 まるでノイズのように扱われ、彼らの〝期待〟だけが加速していく。

 そして──

「アッ、タクシーそこの通りに停めてあるんで!」
「さっすがアルヴィン君、仕事が早い♪」

 デスメリーが再び泰然の腕を掴む。

「え……ちょ、ちょっと待て、本気で……? 俺は行かない! 絶対に……!」

 逃げようとした泰然の腕を、反対側から誰かが掴んだ。
 ぞっとするほど冷たい手だった。

「なに怖がってんの? 今さらじゃん? ゲームの中ではもう、あんなに仲良くしてくれたのに……」
「そうだよ。あれ、ウソだったの?」
「あんなに貢がせておいて……期待だけさせて逃げるの? ギルマス」

 責めるようなゲーム恋人たちの目は、かつての温かなギルドの仲間たちとはまるで別人だった。

「やめろ……やめてくれ……」

 小さな声で呟いたその一言も、嘲笑とともに飲み込まれる。

「さ、移動しよっか。すぐそこだよ。ねぇ、泰然くん」
「ホテル、大きな部屋、取ったから。全員一緒でもだいじょうぶ☆」

(誰も──助けてくれない)

 それが、いちばん恐ろしかった。
 いつもなら怜司が手を伸ばしてくれた。でも、今は。

 気づけば、自分の手が震えていた。
 呼吸が浅くなる。目の前の景色がぼやけていく。

 怜司の顔が浮かぶ。
 あの穏やかな目。あの温もり。あの〝光〟。

(……こんな姿、見られたくない。怜司だけは……)

 ああ、報いを受けている、と泰然は自分の行いが返ってきたと思い知らされた。

(愛されたい。守られたい。愛を、確かめたい……でも、こんな俺には、それを受け取る資格なんて――)

 涙が一筋、頬を伝った。
 それは気づけば、ぽたり、とスマホの画面に落ちて弾けた。

 自分の腕を掴む男たちへの抵抗を、泰然はやめた。


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