ゲームランカーのスパダリ彼氏

真義あさひ

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第一章「最強ランカーのリアル彼氏はスパダリ覚醒する」二条泰然編

怜司、泰然リアル修羅場を知る

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「泰然くん。もう諦めてワタシたちのモノになっちゃいなさいよぉ♪」

「おい、離せって!」

 諦めかけた泰然は、だがハッとなって我を取り戻した。
 手首を掴む男の手を振り払おうとした。
 だが、力では敵わない。見た目は細い優男なのに、思ったより力が強かった。

 街中とはいえ、人通りのない奥まった場所の公園だ。
 すぐそこには大通りに面したコンビニもある。大声を出せば助かるかもしれないが、自分の知名度を考えると面倒な事態になる。

(普通に、やばい)

「泰然くん、まずはお話しましょうよぉ。リアルでもお付き合いするなら、お互いを知る必要があるじゃない~?」
「いや、お前たちとはゲーム内だけの付き合いなんだが……」

 もう困惑しかない。ゲーム内の付き合いしかないのに、自分の居場所を調べてやってくるこの言動は恐怖の一言に尽きた。

「でも私たち、〝恋人〟でしょお?」

 その言葉に背筋が凍った。
 デスメリーの眼鏡の奥の目が、ギラギラと欲望に輝いている。この男は本気でゲームとリアルを混同させようとしているのだ。



「おいおい、デスメリー。お前、抜け駆けは許さないぞ」

 遅れてやってきた五人の男たち、――泰然とLOIで恋人契約したプレイヤーたちも好き勝手なことを言い始めた。

「泰然は〝みんなの〟ギルマスなんだからな」
「私たち皆に付き合う権利あるだろ」
「ここまで来たんだ。ゲーム内だけじゃなく、リアルでも楽しみたいよな?」
「やれやれねぇ……まあ仕方ないかしらぁ☆」

「……は?」

 泰然は耳を疑った。

「バーチャルセックスに同意すると解放される、専用スキン、アイテム、スキル……試さない手はないだろ?」
「お前ら、どんなコスチューム着せたい? 僕はシースルーランジェリーだな」
「ポーションで感度上げて、まずは〝お試し〟から……」

(何なんだ!? こいつら……バーチャルセックスって、まさか本気で!?)



 通りすがりのモブによる、実況配信のコメントが流れ始める。

『何この会話、怖いんだけど……』
『性犯罪計画みたいでキツい』
『運営に通報しとく』
『いや警察だ、ヤバイぞこれ』

 だが、コメントにはふざけた声も混じる。

『犯される泰然たん配信を全裸待機w』(投げ銭100000円)

『は!? お前消えろ』
『通報した、震えて眠れ』


 デスメリーを含む六人の男たちに迫られ、泰然は必死に逃げようとした。
 だが、囲まれて動けない。

(くそっ、逃げられない……!)

「じゃあこのまま皆でホテルへ行きましょう~♪」



  ☆ ☆ ☆



「高瀬くん、至急このシステム管理の書類をアメリカの本社へ――」
「了解しました、今すぐ対応します」

 怜司は淡々と勤め先の外資系銀行仕事をこなし、パソコン画面に集中していた。

(くそ、今日も残業か)

 先日のホテルでの逢瀬からこっち、忙しすぎてデートどころかLOIにログインする時間を捻出するにも一苦労だった。

 ギルド地天泰に二条王国。そちらの管理と配信での報告だけは何とかこなせていたが……

(せっかく1位になったランキングもあっという間に圏外まで落ちてしまった。……くっ、泰然の隣に立つには、次のランキング戦までには持ち直さないと!)

 だが、そのときだった。

 ピロンピロンピロンッ♪

 緊急速報を伝えるアラームが鳴り、オフィスのテレビが自動点灯した。
 これは、銀行を始めとした金融業関連の、緊急事態が起こったときのアラーム音だ。

『速報! 人気VRゲーム『Legend of Infinity』のトップランカー、泰然がリアルで襲われている模様!』

 オフィスが一瞬でざわついた。

「……は?」

 メールを作成していた怜司の手が止まる。
 隣の同僚が、ネット接続専用のパソコン画面を見ながら叫んだ。

「おい、なんだこれ!? 泰然くん、リアルでやばいことになってる!」
「は? 何が起こってる?」
「急上昇トレンドに『#泰然リアル修羅場』が入ってるぞ!」

 テレビニュースが流れる。

『現在、SNS上で世代を問わず人気の『VRプロゲーマー泰然がリアルで拉致されそうになっている』との情報が急拡散中です』

『視聴者数は50万人を突破し、警察や運営への通報も相次いでいます』

『泰然の〝リアル彼氏〟とされる高瀬怜司氏への連絡を求める声が多数上がっています』


「………………!!」

 怜司は自分の血の気が下がるのを感じた。
 そのまま無言で、この場の責任者である支店長を見た。

「支店長。私用スマホの使用許可をください」
「……許可しよう」

 銀行はセキュリティの厳しい職場だ。スマホもネット閲覧も厳しく管理されていて、使用にはこうして上司の許可が必要になる。

 震える指でスマホを確認すると、DMが殺到していた。
 主にこのような内容だ。


「怜司さん!! 至急助けに行ってください!!」
「泰然ギルマスがヤバいです!!!」
「場所特定班が座標を割り出しました! マップのここにすぐ行けー!!!」


 あまりの事態に、わなわなと震える怜司の肩に、手が置かれた。

 振り返ると、銀行の支店長が立っていた。

「行きなさい、高瀬くん」
「……え?」
「今日はもう、残業しなくていいから」

 支店長は真顔で頷いて、怜司の背中を押した。

「行って、私の泰然きゅんを救ってこい!!!」
「……!?」

(支店長、そういえば泰然の信者だったか!)

 よく〝気前のいいおじさん枠〟で泰然の配信に投げ銭しているとは聞いていた。

 同僚たちも騒ぎ出す。

「怜司、ボケっとしてるな、彼氏を助けに行けよ!」
「おい、早く行け!!」

 怜司は無言でスマホを握りしめ、視線を落とした。
 配信画面では、泰然がまだ囲まれている。
 視聴者コメントも混乱を極めている。

「怜司、早く来て!!!」
「アッ、ジェイクまで参戦!?」
「おい、ジェイクが泰然をお持ち帰り決定か!?」


「ジェイク・マクナゲットォ……!」

 腹の底から響かせた怜司の低い声に、オフィスの面々はぎょっとした顔でビクつき、咄嗟に距離を取った。
 いつも穏やかな表情と物腰でシステム管理する男の、こんな物騒な声は初めて聞く。

(泰然に近づく奴は許さない! やはりお前は泰然を狙っていたのか、ジェイク・マクナゲット!)

 怜司の中で、最近は安定していたはずの理性がぶっつり切れた瞬間だった。
 ジェイクにとっては見当違いの逆恨みも甚だしかったが。

「すみません、行ってきます」

 書類を同僚に預け、怜司は鞄を掴んだ。

「おう! 行け!!」
「私のギルマスを頼むぞ!!」

 支店長が親指を立てた。

(いや、僕の泰然だ。……待て。支店長、地天泰ギルドのメンバーだったのか!?)

 道理で、会議だけでなく、普段から泰然の話題が多いはずだ。

(あとでじっくり話を聞かせてもらいましょう。じっくりね)

「高瀬さん、社用車の準備できました! 今回だけ特別ですよ! 場所は近いです、飛ばせば十分とかかりません!」
「感謝します」

 怜司は支店長の秘書からキーを受け取り、深呼吸した。

(待ってろ、泰然……! いま助けに行く!)

 そして、怜司は銀行を飛び出した。


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