勇者かける

青空びすた

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×魔法使い

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 肩が触れて、目があって、笑い合って。そんな些細なことが幸せで、どうしようもなく愛しかった。
「今までありがとう」
 そんなに綺麗に微笑まないでほしい。
「ここまでの旅路は、長く苦しいものだったけど」
 ぼくは、それだけだとは思わなかったけど。
「こうして、ようやく平和になった」
 崩れていく魔王城を背に、勇者は晴々と笑う。仲間も清々しい笑顔を浮かべている。ぼくが、ぼくだけが、鬱々とした感情を抱えている。
(最後の戦いでも、役に立たなかった)
 いつからか魔法しか使えないぼくは足手まといになっていた。気づいていた。気づいていたのにこんなところまで来てしまった。
 うつむくぼくの顔を、勇者が覗き込む。
「聞いてた?」
「ごめん、何?」
「しょうがないな」
 ふわりと笑って言葉を続ける。
「みんな故郷に帰るんだって」
「そっか……うん。いいね」
「それでね、俺と君の故郷はもう無いだろ?」
「うん」
「だから、これからもよろしくね」
 数秒、遅れて勇者を見た。勇者は宝物でも守るみたいにぼくを抱きしめる。
「もう離さないよ」
 ゆるい束縛は逃げ道を用意してくれているけれど、こんなぼくでいいなら。そっと勇者の背中に腕を回した。
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