8 / 39
×従者
しおりを挟む
世界が救われてから1ヶ月。国を上げての祝祭はまだ続いている。連日行われる夜会で今回の功労者であるリッカはみんなと共に喜びながら、どこか辛そうにしていた。
「リッカ様、何か飲み物をお持ちしましょうか?」
「……ねぇスリーク。今忙しい?」
「いえ」
「よかった。星を見に行こうよ」
エスコートするように差し出された右手を反射的に取ると、視界が揺れた。思わず目を閉じる。
「スリーク、目を開けて」
リッカの声に導かれて目を開けば、そこは彼が召喚された湖の側だった。
「なんだか少し息苦しくて」
空を見上げながら彼は悲しげに笑う。星はきらきら輝いて、湖もそれを写し取って煌めいている。それなのに彼は道に迷った子どもみたいに瞳を揺らしていて、言いしれぬ不安感に襲われた。繫いだままの右手に力を入れる。
「僕にできることは、ありますか?」
「名前を呼んでほしい」
「リッカ」
「もっと」
「リッカ」
「うん」
「リッカ、側にいます」
「……うん」
今からおよそ1年前、王国は一縷の望みをかけた勇者の召喚を行った。そして現れたのが、リッカだった。
勇者として招かれた彼の身の回りの世話をする者として、公爵家の三男である僕が選ばれた。妾腹だった僕を厄介払いできて父や兄たちは喜んだだろう。
彼がこの世界について学ぶ3ヶ月と、その後の約9ヶ月。彼の一番側にいたのは、けして自惚れではなく僕だ。
「スリーク」
「なんですか?」
「……スリーク」
「はい」
「俺の話、聞いてくれる?」
「聞かせてください」
彼は僕の右手を両手で握り、ぽつりぽつりと話し始める。彼の居た世界のことや家族のこと。愛しそうに、大切そうに。それなのにとても寂しそうに。
「俺……帰れないんだって」
「え?」
「あの世界のこと、こんなにちゃんと覚えてるのに、家族には二度と会えないんだって。召喚は一方通行で、今まで選ばれた人たちはみんなこの世界で幸せに暮らしたんだって」
リッカは流れる涙もそのままにぼんやりと遠くを見ながら語る。僕は左手で彼の涙に触れた。どうか泣かないでほしい。この世界の住人として、彼に救われた者の一人として、心から願う。
「……探しに行きましょう」
「え?」
「大丈夫です。世界のどこかには、まだ誰も知らない方法が眠っているかもしれません。僕が側にいます」
「誰も知らない、か。そっか、そうだな」
リッカは僕のこと力強く抱きしめて、耳元で「ありがとう」と言った。こんな僕にできることなんてたかが知れているけれど、それでも側にいることはできるはずだ。
「スリーク」
「はい」
「好きだ」
「……へ?」
「愛してる。側にいて」
「それは、もちろんお側にはいます、でも」
「恋人として、伴侶として、この先の人生、俺が元の世界に帰るそのときも……元の世界に戻ってからも。側にいてほしい」
「あの」
「君のことを攫っていく俺を、君に全てを捨てさせようとしている俺を、どうか赦してほしい。その変わり、俺の全てをあげるから」
「……はい」
捨てるなんてとんでもない。僕は元々何も持っていなかった。そんな僕なんかにリッカをくれるなら、それが彼の孤独から来る勘違いだったとしても、構わないと思った。愛していいのなら、僕は彼がいい。
「僕も、その、リッカが好きです」
彼は僕の左肩に顔を埋めて、またお礼の言葉をくれた。湿っていく肩に気づかないふりをして、僕は彼の頭を抱える。
数分後、泣き止んだ彼と城に戻って、誰にも秘密で国を出た。並んで歩く街道はどこまでもまっすぐで、どこにでも行けるような気がした。
「スリーク」
「なんですか、リッカ」
「大好き」
「僕もです」
やっぱり彼には笑顔でいてほしい。近づく顔に何をしたいかわかって、そっと目を閉じる。
僕らは星空の下で誓いの口づけを交わした。
「リッカ様、何か飲み物をお持ちしましょうか?」
「……ねぇスリーク。今忙しい?」
「いえ」
「よかった。星を見に行こうよ」
エスコートするように差し出された右手を反射的に取ると、視界が揺れた。思わず目を閉じる。
「スリーク、目を開けて」
リッカの声に導かれて目を開けば、そこは彼が召喚された湖の側だった。
「なんだか少し息苦しくて」
空を見上げながら彼は悲しげに笑う。星はきらきら輝いて、湖もそれを写し取って煌めいている。それなのに彼は道に迷った子どもみたいに瞳を揺らしていて、言いしれぬ不安感に襲われた。繫いだままの右手に力を入れる。
「僕にできることは、ありますか?」
「名前を呼んでほしい」
「リッカ」
「もっと」
「リッカ」
「うん」
「リッカ、側にいます」
「……うん」
今からおよそ1年前、王国は一縷の望みをかけた勇者の召喚を行った。そして現れたのが、リッカだった。
勇者として招かれた彼の身の回りの世話をする者として、公爵家の三男である僕が選ばれた。妾腹だった僕を厄介払いできて父や兄たちは喜んだだろう。
彼がこの世界について学ぶ3ヶ月と、その後の約9ヶ月。彼の一番側にいたのは、けして自惚れではなく僕だ。
「スリーク」
「なんですか?」
「……スリーク」
「はい」
「俺の話、聞いてくれる?」
「聞かせてください」
彼は僕の右手を両手で握り、ぽつりぽつりと話し始める。彼の居た世界のことや家族のこと。愛しそうに、大切そうに。それなのにとても寂しそうに。
「俺……帰れないんだって」
「え?」
「あの世界のこと、こんなにちゃんと覚えてるのに、家族には二度と会えないんだって。召喚は一方通行で、今まで選ばれた人たちはみんなこの世界で幸せに暮らしたんだって」
リッカは流れる涙もそのままにぼんやりと遠くを見ながら語る。僕は左手で彼の涙に触れた。どうか泣かないでほしい。この世界の住人として、彼に救われた者の一人として、心から願う。
「……探しに行きましょう」
「え?」
「大丈夫です。世界のどこかには、まだ誰も知らない方法が眠っているかもしれません。僕が側にいます」
「誰も知らない、か。そっか、そうだな」
リッカは僕のこと力強く抱きしめて、耳元で「ありがとう」と言った。こんな僕にできることなんてたかが知れているけれど、それでも側にいることはできるはずだ。
「スリーク」
「はい」
「好きだ」
「……へ?」
「愛してる。側にいて」
「それは、もちろんお側にはいます、でも」
「恋人として、伴侶として、この先の人生、俺が元の世界に帰るそのときも……元の世界に戻ってからも。側にいてほしい」
「あの」
「君のことを攫っていく俺を、君に全てを捨てさせようとしている俺を、どうか赦してほしい。その変わり、俺の全てをあげるから」
「……はい」
捨てるなんてとんでもない。僕は元々何も持っていなかった。そんな僕なんかにリッカをくれるなら、それが彼の孤独から来る勘違いだったとしても、構わないと思った。愛していいのなら、僕は彼がいい。
「僕も、その、リッカが好きです」
彼は僕の左肩に顔を埋めて、またお礼の言葉をくれた。湿っていく肩に気づかないふりをして、僕は彼の頭を抱える。
数分後、泣き止んだ彼と城に戻って、誰にも秘密で国を出た。並んで歩く街道はどこまでもまっすぐで、どこにでも行けるような気がした。
「スリーク」
「なんですか、リッカ」
「大好き」
「僕もです」
やっぱり彼には笑顔でいてほしい。近づく顔に何をしたいかわかって、そっと目を閉じる。
僕らは星空の下で誓いの口づけを交わした。
0
あなたにおすすめの小説
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる