勇者かける

青空びすた

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×従者

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 世界が救われてから1ヶ月。国を上げての祝祭はまだ続いている。連日行われる夜会で今回の功労者であるリッカはみんなと共に喜びながら、どこか辛そうにしていた。
「リッカ様、何か飲み物をお持ちしましょうか?」
「……ねぇスリーク。今忙しい?」
「いえ」
「よかった。星を見に行こうよ」
 エスコートするように差し出された右手を反射的に取ると、視界が揺れた。思わず目を閉じる。
「スリーク、目を開けて」
 リッカの声に導かれて目を開けば、そこは彼が召喚された湖の側だった。

「なんだか少し息苦しくて」
 空を見上げながら彼は悲しげに笑う。星はきらきら輝いて、湖もそれを写し取って煌めいている。それなのに彼は道に迷った子どもみたいに瞳を揺らしていて、言いしれぬ不安感に襲われた。繫いだままの右手に力を入れる。
「僕にできることは、ありますか?」
「名前を呼んでほしい」
「リッカ」
「もっと」
「リッカ」
「うん」
「リッカ、側にいます」
「……うん」
 今からおよそ1年前、王国は一縷の望みをかけた勇者の召喚を行った。そして現れたのが、リッカだった。
 勇者として招かれた彼の身の回りの世話をする者として、公爵家の三男である僕が選ばれた。妾腹だった僕を厄介払いできて父や兄たちは喜んだだろう。
 彼がこの世界について学ぶ3ヶ月と、その後の約9ヶ月。彼の一番側にいたのは、けして自惚れではなく僕だ。
「スリーク」
「なんですか?」
「……スリーク」
「はい」
「俺の話、聞いてくれる?」
「聞かせてください」
 彼は僕の右手を両手で握り、ぽつりぽつりと話し始める。彼の居た世界のことや家族のこと。愛しそうに、大切そうに。それなのにとても寂しそうに。
「俺……帰れないんだって」
「え?」
「あの世界のこと、こんなにちゃんと覚えてるのに、家族には二度と会えないんだって。召喚は一方通行で、今まで選ばれた人たちはみんなこの世界で幸せに暮らしたんだって」
 リッカは流れる涙もそのままにぼんやりと遠くを見ながら語る。僕は左手で彼の涙に触れた。どうか泣かないでほしい。この世界の住人として、彼に救われた者の一人として、心から願う。
「……探しに行きましょう」
「え?」
「大丈夫です。世界のどこかには、まだ誰も知らない方法が眠っているかもしれません。僕が側にいます」
「誰も知らない、か。そっか、そうだな」
 リッカは僕のこと力強く抱きしめて、耳元で「ありがとう」と言った。こんな僕にできることなんてたかが知れているけれど、それでも側にいることはできるはずだ。
「スリーク」
「はい」
「好きだ」
「……へ?」
「愛してる。側にいて」
「それは、もちろんお側にはいます、でも」
「恋人として、伴侶として、この先の人生、俺が元の世界に帰るそのときも……元の世界に戻ってからも。側にいてほしい」
「あの」
「君のことを攫っていく俺を、君に全てを捨てさせようとしている俺を、どうか赦してほしい。その変わり、俺の全てをあげるから」
「……はい」
 捨てるなんてとんでもない。僕は元々何も持っていなかった。そんな僕なんかにリッカをくれるなら、それが彼の孤独から来る勘違いだったとしても、構わないと思った。愛していいのなら、僕は彼がいい。
「僕も、その、リッカが好きです」
 彼は僕の左肩に顔を埋めて、またお礼の言葉をくれた。湿っていく肩に気づかないふりをして、僕は彼の頭を抱える。

 数分後、泣き止んだ彼と城に戻って、誰にも秘密で国を出た。並んで歩く街道はどこまでもまっすぐで、どこにでも行けるような気がした。
「スリーク」
「なんですか、リッカ」
「大好き」
「僕もです」
 やっぱり彼には笑顔でいてほしい。近づく顔に何をしたいかわかって、そっと目を閉じる。
 僕らは星空の下で誓いの口づけを交わした。
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