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×剣士
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お前はいつだって俺の言葉を受け入れてくれる。だからきっと今回だって、困ったような顔しながら「いいよ」って言うんだろう。
「ごめん。今なんて?」
「だから」
想像通りの困った顔。でも返ってきた言葉は想像と違って、俺は少し焦る。それに気づかれないように怒った顔をしてみせた。
「俺はこのパーティから抜ける」
きっぱりと、後腐れのないように。
「なんで、そんなこと言うの?」
「わかってるだろ、足手まといなんだよ」
強くなってきたこのパーティに、ついていけなくなってきた俺は間違いなく足手まといだ。勇者率いる世界の希望、そこに異物が混じってはいけない。
「なんで? クレッセントの言うように仲間だって増やしたし、クレッセントが言ったから故郷から離れたこんなところまで来たし、クレッセントとだから頑張ってこられたんだよ」
「そうやって、全部俺に押し付けるな!」
そんなこと思ってもいないくせに、俺の口は呼吸するように毒を吐く。周りの評価に耐えられなくなったのは俺だ。この旅を辞めたいと思ったのも俺自身の考えだ。だから、間違いなく俺のせいだ。
それでも、少しでもエクリプスの心から俺が消えるように傷をつける。
「クレッセントのせいじゃない。僕のために、僕が勝手にしてるんだ。クレッセントが大好きだから」
「ならもう、開放してくれ」
「ごめん。他のことならできる限りの力で叶えるけど、これだけは譲れない」
「勝手だ」
「うん。僕の勝手だよ。側にいてよ」
「もう嫌なんだ。みんなの力になれないことも、それを他人に指摘されることも。……お前が、目の前で傷つくのに何もできないのも」
醜い本音をぶちまけた。やってしまった。もう戻れない。こんな弱いやつ、早く捨ててしまえ。
顔を見れなくなって、地面を睨みつける。
何も言えなくなって唇を噛みしめる。労るようにエクリプスの手がそこに触れた。
「傷ついちゃうよ。あぁ、違うな。君のこと、傷つけたのは誰? そんなこと言うやつ、僕らの世界には必要ないよね」
「別に、特定の誰かとかじゃない」
「じゃあ僕のクレッセントにそんな顔させるのは誰だろう。他人がいるからツラいなら、二人で逃げちゃおうか」
エクリプスは良いことを思いついたとばかりに俺を抱きしめてそんなことを言う。こいつの執着心はどこから来るのだろう。背中を何かが這い上がる。不埒な指先は俺の首元まで辿り着きゆっくりと下りていく。背中がざわつき思わず身をよじる。
「やめ、」
「忘れないで。君だけじゃない。君と、僕の、二人で始めたんだ。辞めるときは二人一緒だよ」
楽しげに笑うエクリプス。こいつは昔から俺だけにはどこまでも優しい。言葉を間違えないように慎重に選ぶ。
「俺は、嫌なことからは逃げ出してしまいたい」
「うん」
「でもお前が嫌なわけじゃない」
「わかってるよ」
「色々言われて、嫌だなって思うこともある。でも、言ってくるやつが嫌いなわけじゃない。そんなこと気にする俺が嫌なんだ」
「そっかぁ、それは困ったね。僕にしてあげられることはある?」
「離れるのが駄目なら、俺も、強くならなきゃいけない、と思う」
「そう?」
「強くなるまで、頑張るから。見てて」
「いいよ」
背中をなぞる指は動きを止めて、その変わりとばかりに強く抱きしめられる。
「お前の嫌なものの話も聞きたい」
「そんなことでいいの?」
「あとは、時々でいいから俺のこと思い出して」
「ずっとクレッセントのこと考えてるから、時々ってのは難しいなぁ」
下降していた機嫌は急上昇したようだ。胸を撫で下ろして肩の力を抜く。エクリプスは愛玩動物でも撫でるように俺の背中に触れた。
俺と、お前の、感情の差が一番嫌なんだ、なんて最後まで言えなかった。
「ごめん。今なんて?」
「だから」
想像通りの困った顔。でも返ってきた言葉は想像と違って、俺は少し焦る。それに気づかれないように怒った顔をしてみせた。
「俺はこのパーティから抜ける」
きっぱりと、後腐れのないように。
「なんで、そんなこと言うの?」
「わかってるだろ、足手まといなんだよ」
強くなってきたこのパーティに、ついていけなくなってきた俺は間違いなく足手まといだ。勇者率いる世界の希望、そこに異物が混じってはいけない。
「なんで? クレッセントの言うように仲間だって増やしたし、クレッセントが言ったから故郷から離れたこんなところまで来たし、クレッセントとだから頑張ってこられたんだよ」
「そうやって、全部俺に押し付けるな!」
そんなこと思ってもいないくせに、俺の口は呼吸するように毒を吐く。周りの評価に耐えられなくなったのは俺だ。この旅を辞めたいと思ったのも俺自身の考えだ。だから、間違いなく俺のせいだ。
それでも、少しでもエクリプスの心から俺が消えるように傷をつける。
「クレッセントのせいじゃない。僕のために、僕が勝手にしてるんだ。クレッセントが大好きだから」
「ならもう、開放してくれ」
「ごめん。他のことならできる限りの力で叶えるけど、これだけは譲れない」
「勝手だ」
「うん。僕の勝手だよ。側にいてよ」
「もう嫌なんだ。みんなの力になれないことも、それを他人に指摘されることも。……お前が、目の前で傷つくのに何もできないのも」
醜い本音をぶちまけた。やってしまった。もう戻れない。こんな弱いやつ、早く捨ててしまえ。
顔を見れなくなって、地面を睨みつける。
何も言えなくなって唇を噛みしめる。労るようにエクリプスの手がそこに触れた。
「傷ついちゃうよ。あぁ、違うな。君のこと、傷つけたのは誰? そんなこと言うやつ、僕らの世界には必要ないよね」
「別に、特定の誰かとかじゃない」
「じゃあ僕のクレッセントにそんな顔させるのは誰だろう。他人がいるからツラいなら、二人で逃げちゃおうか」
エクリプスは良いことを思いついたとばかりに俺を抱きしめてそんなことを言う。こいつの執着心はどこから来るのだろう。背中を何かが這い上がる。不埒な指先は俺の首元まで辿り着きゆっくりと下りていく。背中がざわつき思わず身をよじる。
「やめ、」
「忘れないで。君だけじゃない。君と、僕の、二人で始めたんだ。辞めるときは二人一緒だよ」
楽しげに笑うエクリプス。こいつは昔から俺だけにはどこまでも優しい。言葉を間違えないように慎重に選ぶ。
「俺は、嫌なことからは逃げ出してしまいたい」
「うん」
「でもお前が嫌なわけじゃない」
「わかってるよ」
「色々言われて、嫌だなって思うこともある。でも、言ってくるやつが嫌いなわけじゃない。そんなこと気にする俺が嫌なんだ」
「そっかぁ、それは困ったね。僕にしてあげられることはある?」
「離れるのが駄目なら、俺も、強くならなきゃいけない、と思う」
「そう?」
「強くなるまで、頑張るから。見てて」
「いいよ」
背中をなぞる指は動きを止めて、その変わりとばかりに強く抱きしめられる。
「お前の嫌なものの話も聞きたい」
「そんなことでいいの?」
「あとは、時々でいいから俺のこと思い出して」
「ずっとクレッセントのこと考えてるから、時々ってのは難しいなぁ」
下降していた機嫌は急上昇したようだ。胸を撫で下ろして肩の力を抜く。エクリプスは愛玩動物でも撫でるように俺の背中に触れた。
俺と、お前の、感情の差が一番嫌なんだ、なんて最後まで言えなかった。
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