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×暗殺者2
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我慢できなくなったスフレが、ショコラのことをぎゅうぎゅうと抱きしめてくるトルテを引き剥がす。
「一緒に来るのはわかった。でも、こちらも身の安全を確保したい」
スフレの言いたいことがわからなくて、そのままじっと見る。トルテはショコラの後ろから抱きついてきた。そのまま早業で背中に仕込んでいた隠しナイフを回収される。
「ショコラの肌すべすべだね」
ぽいっとナイフを放った手で、腹回りを撫でられる。他の武器を探してるのかと思いつき、靴を脱ぎ捨てた。隠している武器はこれで全部だ。動き回る手は最後に腹部を一撫でして、ゆっくりと出ていった。
「もう無い」
「これだけか?」
「これだけだ。どうせ失敗する任務に武器は支給できない」
「そんな風に言われたの?」
「言われた」
首を縦に振ればトルテはショコラの頭を触った。なんとなくむずむずするが、嫌な感情ではないからそのままにしておく。
「とんだ雇い主だな」
「ほーら、やっぱり俺と一緒で正解だ」
トルテがにこにこすればするほど、スフレの眉間にしわができる。トルテはショコラの身体をくるりとひっくり返して向かい合わせにした。
「ショコラはちょっと細いね」
「細いのか?」
「うん。もうちょっとぷにぷにのほうが俺好みかなぁ。今のままでも可愛いけどね」
トルテは機嫌良さそうにショコラの顔中に唇を押し付けてくる。どうするのが正解かわからないから、身動きが取れない。
「とりあえず夕飯にするか」
どこか諦めたようなスフレの声が聞こえて、トルテはようやく動きを止めた。
「今日はどうする?」
「下に食堂があっただろ」
「いいね。そういえば、商店ってまだ開いてるかな?」
「もう閉まってるだろ。急ぎか?」
「ショコラの着るものがないなって。とりあえず俺のでいいか。明日買い物に行こうね?」
最後に音を立てながら頬に唇をくっつけて、トルテは満足気にショコラの体を持ち上げた。「靴がないから」なんて耳元で言ったあと、一階の食堂まで運ばれた。
椅子に降ろされたあとメニューを見たが、料理名がわからなかったので、トルテが注文したおむらいすに手を伸ばす。
「あ、そのまま食べたら危ないよ」
「危ない?」
「熱いからね」
「熱いのか」
スプーンの上に乗せたあと少し待ってから口に運ぶ。今まで食べていたものとはまるで違って、温かいということが不思議で、味というものがあることを知って、それが美味しいということを学んだ。
一度入れると腹がぎゅるぎゅると食事を要求してくるので、ぱくぱくと食べて進めていく。スフレは何故か目元を押さえ、トルテは可愛いとか尊いとかうるさかった。
「デザートも食べるか?」
「でざーと?」
「また俺が頼んであげるね」
「了解」
「はぁ、可愛いなぁ」
うっとりしているトルテを無視して、運ばれたぱふぇを口に入れる。冷たくて甘いというらしいそれにも感動して、ものの数分で完食してしまった。
こんなに腹が膨れたのは初めてかもしれない。トルテの腕の中でうつらうつらと眠気と戦う。
「先にお風呂入ればよかったね」
「ふろ、は、きのうはいった」
「昨日入ったの?」
「きょう、にんむ」
「お風呂は毎日入るんだよ」
トルテはショコラの旋毛に唇を押しつけながらくすくすと笑う。微かな揺れも心地よくて目を開けているのが億劫になってくる。
「俺と一緒に入る?」
「トルテといっしょ」
「全身洗ってあげる」
「やめろ馬鹿」
突然の強い衝撃に意識が引き戻された。どうやらスフレがトルテを殴ったらしい。痛みに悶える彼の腕から抜け出して、自分の足で床に立った。
「ショコラ、自分でシャワーくらい浴びれるな?」
「できる」
「着替えはトルテの服を用意しておくから先に入ってこい」
「わかった」
「えー、俺と」
「自重しろ」
「ちぇー……」
トルテはしばらくぐずぐず言っているようだったが特に命令はないようなので、スフレに従って早々に浴室の扉を開いた。
用意されていた服に着替える。トルテの匂いがしてなんとなく落ち着く。靴も返されていたのでそれを履いて二人のところに戻った。
汚れたままじゃショコラを抱きしめられない、と叫びながらトルテが浴室に向かう。見送る間もなくスフレに促されてソファに座る。トルテはあんなでも勇者と呼ばれる程なので、そこそこ良い宿だから、ソファも座ったことがないほどふかふかだ。向かいのソファにスフレが腰掛ける。
「これを」
言いながらスフレが差し出したのは回収された二本のナイフだ。受け取っていいものか悩むがくれると言うならもらっておこう。所定の位置にナイフを身につける。
「トルテがあんな調子だから俺が言うが、ショコラ、お前はもうトルテを殺さなくていいのか?」
「主の命令は聞こえない。トルテはショコラと一緒と命じた。だからトルテの命令に従う」
「何故だ?」
「なぜ?」
「ショコラにとってトルテは殺す対象だろう。任務失敗で帰らなくていいのか?」
「任務が完了すればショコラはショコラを処理することになっている。けれど主は一番はじめに命じた。『お前は決定の権限を持っていない。その場において一番強いものの決定に従うように』」
「胸くそ悪いな」
「この場で一番強いのはトルテだ。ショコラはトルテに従う」
「そういうことか、よくわかった。ありがとう」
「話し終わった?」
タイミングを見計らっていたのか、トルテがショコラの後ろから抱きしめてきた。この数時間でなんとなく把握したが、彼は触れ合うことが好きらしい。
スフレは肯定すると立ち上がって浴室に足を向けた。トルテはどうやったのか一瞬で髪を乾かすと再びショコラを抱き上げた。そのままベッドへ足を向ける。
「今日はもう寝ようね」
「ショコラはどの辺りで寝ればいい?」
「ショコラは俺と一緒に寝るんだよ?」
「どいうことだ? トルテも床なのか?」
「うーん……。ショコラは、俺と、一緒にベッドで寝るの」
トルテはくすくすと笑いながら一言一言ショコラに聞かせる。返事は必要なかったらしく、すぐにふわふわの寝具に体が沈んだ。
柔らかすぎて体勢が整わない。無様に転がっていると隣にトルテが寝転んだ。そのまま向かい合わせにぎゅっと抱かれる。
「スフレと何を話してたの?」
「武器を返してもらった」
「……そう」
「それから、トルテを殺さないのは何故かと言われた」
「ふぅん。なんて答えたの?」
「トルテが一番強いから、ショコラはトルテに従うと答えた」
「ふふ、そうなんだ。可愛いなぁ。じゃあ俺は、ずっと一番強くないとね」
トルテがぽんぽんと一定のリズムで背中を叩くから、だんだんと眠くなってしまって、抗わずそのまま目を閉じる。
暖かな闇の中で夢も見ないで眠りの底に沈んだ。
「一緒に来るのはわかった。でも、こちらも身の安全を確保したい」
スフレの言いたいことがわからなくて、そのままじっと見る。トルテはショコラの後ろから抱きついてきた。そのまま早業で背中に仕込んでいた隠しナイフを回収される。
「ショコラの肌すべすべだね」
ぽいっとナイフを放った手で、腹回りを撫でられる。他の武器を探してるのかと思いつき、靴を脱ぎ捨てた。隠している武器はこれで全部だ。動き回る手は最後に腹部を一撫でして、ゆっくりと出ていった。
「もう無い」
「これだけか?」
「これだけだ。どうせ失敗する任務に武器は支給できない」
「そんな風に言われたの?」
「言われた」
首を縦に振ればトルテはショコラの頭を触った。なんとなくむずむずするが、嫌な感情ではないからそのままにしておく。
「とんだ雇い主だな」
「ほーら、やっぱり俺と一緒で正解だ」
トルテがにこにこすればするほど、スフレの眉間にしわができる。トルテはショコラの身体をくるりとひっくり返して向かい合わせにした。
「ショコラはちょっと細いね」
「細いのか?」
「うん。もうちょっとぷにぷにのほうが俺好みかなぁ。今のままでも可愛いけどね」
トルテは機嫌良さそうにショコラの顔中に唇を押し付けてくる。どうするのが正解かわからないから、身動きが取れない。
「とりあえず夕飯にするか」
どこか諦めたようなスフレの声が聞こえて、トルテはようやく動きを止めた。
「今日はどうする?」
「下に食堂があっただろ」
「いいね。そういえば、商店ってまだ開いてるかな?」
「もう閉まってるだろ。急ぎか?」
「ショコラの着るものがないなって。とりあえず俺のでいいか。明日買い物に行こうね?」
最後に音を立てながら頬に唇をくっつけて、トルテは満足気にショコラの体を持ち上げた。「靴がないから」なんて耳元で言ったあと、一階の食堂まで運ばれた。
椅子に降ろされたあとメニューを見たが、料理名がわからなかったので、トルテが注文したおむらいすに手を伸ばす。
「あ、そのまま食べたら危ないよ」
「危ない?」
「熱いからね」
「熱いのか」
スプーンの上に乗せたあと少し待ってから口に運ぶ。今まで食べていたものとはまるで違って、温かいということが不思議で、味というものがあることを知って、それが美味しいということを学んだ。
一度入れると腹がぎゅるぎゅると食事を要求してくるので、ぱくぱくと食べて進めていく。スフレは何故か目元を押さえ、トルテは可愛いとか尊いとかうるさかった。
「デザートも食べるか?」
「でざーと?」
「また俺が頼んであげるね」
「了解」
「はぁ、可愛いなぁ」
うっとりしているトルテを無視して、運ばれたぱふぇを口に入れる。冷たくて甘いというらしいそれにも感動して、ものの数分で完食してしまった。
こんなに腹が膨れたのは初めてかもしれない。トルテの腕の中でうつらうつらと眠気と戦う。
「先にお風呂入ればよかったね」
「ふろ、は、きのうはいった」
「昨日入ったの?」
「きょう、にんむ」
「お風呂は毎日入るんだよ」
トルテはショコラの旋毛に唇を押しつけながらくすくすと笑う。微かな揺れも心地よくて目を開けているのが億劫になってくる。
「俺と一緒に入る?」
「トルテといっしょ」
「全身洗ってあげる」
「やめろ馬鹿」
突然の強い衝撃に意識が引き戻された。どうやらスフレがトルテを殴ったらしい。痛みに悶える彼の腕から抜け出して、自分の足で床に立った。
「ショコラ、自分でシャワーくらい浴びれるな?」
「できる」
「着替えはトルテの服を用意しておくから先に入ってこい」
「わかった」
「えー、俺と」
「自重しろ」
「ちぇー……」
トルテはしばらくぐずぐず言っているようだったが特に命令はないようなので、スフレに従って早々に浴室の扉を開いた。
用意されていた服に着替える。トルテの匂いがしてなんとなく落ち着く。靴も返されていたのでそれを履いて二人のところに戻った。
汚れたままじゃショコラを抱きしめられない、と叫びながらトルテが浴室に向かう。見送る間もなくスフレに促されてソファに座る。トルテはあんなでも勇者と呼ばれる程なので、そこそこ良い宿だから、ソファも座ったことがないほどふかふかだ。向かいのソファにスフレが腰掛ける。
「これを」
言いながらスフレが差し出したのは回収された二本のナイフだ。受け取っていいものか悩むがくれると言うならもらっておこう。所定の位置にナイフを身につける。
「トルテがあんな調子だから俺が言うが、ショコラ、お前はもうトルテを殺さなくていいのか?」
「主の命令は聞こえない。トルテはショコラと一緒と命じた。だからトルテの命令に従う」
「何故だ?」
「なぜ?」
「ショコラにとってトルテは殺す対象だろう。任務失敗で帰らなくていいのか?」
「任務が完了すればショコラはショコラを処理することになっている。けれど主は一番はじめに命じた。『お前は決定の権限を持っていない。その場において一番強いものの決定に従うように』」
「胸くそ悪いな」
「この場で一番強いのはトルテだ。ショコラはトルテに従う」
「そういうことか、よくわかった。ありがとう」
「話し終わった?」
タイミングを見計らっていたのか、トルテがショコラの後ろから抱きしめてきた。この数時間でなんとなく把握したが、彼は触れ合うことが好きらしい。
スフレは肯定すると立ち上がって浴室に足を向けた。トルテはどうやったのか一瞬で髪を乾かすと再びショコラを抱き上げた。そのままベッドへ足を向ける。
「今日はもう寝ようね」
「ショコラはどの辺りで寝ればいい?」
「ショコラは俺と一緒に寝るんだよ?」
「どいうことだ? トルテも床なのか?」
「うーん……。ショコラは、俺と、一緒にベッドで寝るの」
トルテはくすくすと笑いながら一言一言ショコラに聞かせる。返事は必要なかったらしく、すぐにふわふわの寝具に体が沈んだ。
柔らかすぎて体勢が整わない。無様に転がっていると隣にトルテが寝転んだ。そのまま向かい合わせにぎゅっと抱かれる。
「スフレと何を話してたの?」
「武器を返してもらった」
「……そう」
「それから、トルテを殺さないのは何故かと言われた」
「ふぅん。なんて答えたの?」
「トルテが一番強いから、ショコラはトルテに従うと答えた」
「ふふ、そうなんだ。可愛いなぁ。じゃあ俺は、ずっと一番強くないとね」
トルテがぽんぽんと一定のリズムで背中を叩くから、だんだんと眠くなってしまって、抗わずそのまま目を閉じる。
暖かな闇の中で夢も見ないで眠りの底に沈んだ。
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