勇者かける

青空びすた

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×剣士2

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 ギルドの近くで食事を摂ると言った仲間に適当な理由をつけて別れた。街の中心街で食事をすると大概嫌な視線に晒されるから、わざわざ大通りから外れた食堂を選ぶ。
 俺が一人になることを良しとしなかったクレッセントは当然のように同じ席につき、俺の好物を二種類頼んだ。半分ずつ食べようとやたら機嫌がいい。
「勇者だってホントは迷惑してんだろ。あぁ意外にアッチの具合がいいんじゃねぇの?」
「まじかよ、床上手ってか? 一度お相手願いてぇなぁ」
「はは、興味ないって顔して、もう身も心も勇者様のものなの~ってか?」
「ぷっはは、声真似のつもりかよ、似てねー」
 こんな場末の酒場でも、いや、こんな酒場だから聴きたくない話はよく耳に届く。下品な噂にはもう慣れたつもりだったが、些か不快感が湧く。けれど存外当たっている部分はあるかもしれない。身体は見えない言葉の鎖で制限されてるし、残念なことに心はすっかりやつの虜だ。
 酔っ払いの戯言は聞き流すに限る。今日に始まったことじゃない。心の隅っこは、まだ少し痛むけれど。
 人が我慢しようと決めたのに、耐えられなかったやつが一人いた。エクリプスは貼り付けたような笑顔で男たちに近づいていく。上機嫌に下世話な話をしていた男の一人の肩を掴んだ。
「どうも、こんばんは。何の話してるの?」
「あ、あはは、エクリプスさんじゃないですか」
「あれ、そんなに僕のことが怖い?」
「べ、別の怖がってなんて、な?」
「あ、あぁ。勇者様を怖れるなんて、そんな」
「僕は別に怖がってもらっていいよ。それで?」
「は?」
「何の話、してたの?」
「あー、いや、その別に」
「その、エクリプスさんには関係ねーってか、なぁ?」
「そうそう。ほらエクリプスさんに付き纏ってるクレッセントの」
「クレッセントの話してたの? 誰の許可取ったの? どうせ悪い話しかしてないんでしょ? いい話でも不快でしょうがないかな。ならそんなお口はいらないよね」
「ひっ」
「いや、俺たちはあいつがあんたの邪魔じゃねぇかって」
「誰が言ったの? どこを見てたの? そんな耳も目も必要ないね」
「た、たたた、たす、たすけ」
「エクリプス。それくらいにしとけ」
「クレッセントがそう言うならいいよ」
 俺が声をかけると一瞬で興味を失ったとばかりに戻ってきた。届いた料理やグラス、食器等を並べながら甲斐甲斐しく俺の世話を焼く。どこまでも俺を中心にしている態度に呆れることしかできない。
「あんまりいじめるなよ。お前のイメージ悪くなるし」
「僕は何言われてもいいよ?」
「俺が嫌なんだよ」
「そっか、じゃあ気をつける」
「それに俺も、気にしないように、頑張ってるし」
「ふふ、クレッセントは努力家だもんね。偉いなぁ」
「……ありがと」
 心からの賛辞に顔が熱くなる。ぶっきらぼうに返しながら、温かいうちにと料理を口に運んだ。俺の態度でエクリプスの機嫌が良くなっていくのがなんだか恥ずかしい。
「あ、もしかして彼らは知らなかったのかな?」
「何を?」
「身も心もクレッセントのものなのは僕の方なのにね?」
「んっ、ごほ、何言って」
 天気の話でもするみたいに軽い口調で、エクリプスは続ける。
「勇者を引退したら、二人で小さくて幸せなお家で暮らそうね。人を入れたくないから、家事は全部僕がやるね。だからクレッセントは僕を受け入れて。そんで毎日僕を癒やしてね」
「……俺も少しは家事する」
「嬉しい。楽しみだなぁ……」
 うっとりとどこか夢を見るように語るエクリプス。ペットのような生活も案外悪くないのかも、なんてこいつにとことん毒されてるのかもしれない。人として愛してくれなくても、こいつが飽きるまで側に居てくれるのなら。
「ね、クレッセント。愛してるよ」
 フォークを握っていない手の指を絡めながらエクリプスは俺の耳元で囁く。驚いてそちらを見たが最後、そのまま強引に唇を奪われた。
 公衆の面前でだとか、もっと雰囲気ってものがあるだろうとか、頭に浮んだ言いたいことはたくさんある。なのに口をついて出たのは一言。
「俺も、愛してるよ」
「やっと届いたね」
 違う気持ちだなんて決めつけていたのはどうやら俺だけだったらしい。上機嫌なエクリプスと再び口付けた。
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