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×町人
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彼が旅立って一年。私は明日、旅に出る。彼の居ない彼の部屋で彼に別れを告げる。庭先で摘んだ赤い花を彼のベッドの上に。
待っていて、と言われて、喜んで、待っていられたのは初めの頃だけだった。その頃から領主の横暴は加速して、町には柄の悪い奴らが増えた。
みんな逃げるように町を出ていって、親戚も友だちもどこかへ行ってしまった。今ではもう数えるくらいしか元の住人はいない。
私には行く宛などないから、ほんの僅かな護身術を頼りに息を潜めながら今日まで過ごしてきた。
そんな私たちの町に勇者が、現れたのは一ヶ月前のことだ。
都から来た勇者は、国からの密命を受けるほどすごい方だった。
彼が町に潜伏したその日に私は勇者と出会った。「行く宛がない」と言った勇者に自分を重ねて、目の前の人物が誰かも知らぬまま宿を提供し、共に過ごした。
かけがえのない日々の中で、胸の内に仄かな愛情を覚えた。かつて彼に感じたような安心感と、愛を返されることへの幸福感。私は確かに恋をした。
そして昨日、勇者は領主を捕え、犯罪歴のある住人も一網打尽にした。
懐かしい絵本を手に取り眺める。彼の笑顔が霞んでいく。
「おかしいな。君との思い出を振り返るつもりだったのに」
何を見ても愛しい人に思考が逸れる。開け放していた窓を閉めて、最後にぐるりと見渡した。私の痕跡は、今やベッドの上の花だけだ。
思い出は全部ここに置いていく。嫉妬深い私の勇者様が嫌がるから。
「さよなら」
空っぽの部屋に、彼への言葉を閉じ込めた。
待っていて、と言われて、喜んで、待っていられたのは初めの頃だけだった。その頃から領主の横暴は加速して、町には柄の悪い奴らが増えた。
みんな逃げるように町を出ていって、親戚も友だちもどこかへ行ってしまった。今ではもう数えるくらいしか元の住人はいない。
私には行く宛などないから、ほんの僅かな護身術を頼りに息を潜めながら今日まで過ごしてきた。
そんな私たちの町に勇者が、現れたのは一ヶ月前のことだ。
都から来た勇者は、国からの密命を受けるほどすごい方だった。
彼が町に潜伏したその日に私は勇者と出会った。「行く宛がない」と言った勇者に自分を重ねて、目の前の人物が誰かも知らぬまま宿を提供し、共に過ごした。
かけがえのない日々の中で、胸の内に仄かな愛情を覚えた。かつて彼に感じたような安心感と、愛を返されることへの幸福感。私は確かに恋をした。
そして昨日、勇者は領主を捕え、犯罪歴のある住人も一網打尽にした。
懐かしい絵本を手に取り眺める。彼の笑顔が霞んでいく。
「おかしいな。君との思い出を振り返るつもりだったのに」
何を見ても愛しい人に思考が逸れる。開け放していた窓を閉めて、最後にぐるりと見渡した。私の痕跡は、今やベッドの上の花だけだ。
思い出は全部ここに置いていく。嫉妬深い私の勇者様が嫌がるから。
「さよなら」
空っぽの部屋に、彼への言葉を閉じ込めた。
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