勇者かける

青空びすた

文字の大きさ
38 / 39

×行商人

しおりを挟む
 僕はステラ、駆け出しの行商人です。扱う商品は主に魔道具で、物々交換をすることもあります。
 そろそろ新しい場所へ移動しようと考えていたとき、隣町への街道に魔獣や野盗が出没するようになったと耳にしました。僕は個人経営なので、移動のための護衛を雇うことにしました。

 とはいえ、まだまだ半人前です。そこまで高額な護衛は雇えません。傭兵ギルドを覗きましたが、これからのことを考えるとあまり大きな出費は歓迎できません。
 そういえば街道には魔獣も出没すると噂されていました。ならば冒険者にお願いするのも手段としては良いかもしれません。善は急げと、僕は冒険者ギルドに足を向けました。

 冒険者ギルドは、広く浅く色々な依頼を請け負ってくれるので、僕ら商人も重宝しています。受付カウンターに向かって、依頼を出したい旨を伝えました。
 受付のお姉さんが手続きに必要な書類を取りに、席を外したときのことです。
「これからなにか依頼するの?」
 突然後ろから声をかけられ、大袈裟なくらい肩が跳ね上がりました。声のしたほうを恐る恐る振り返ると、優しそうな笑顔の青年が立っていました。
「は、はい。あの、隣町まで行きたくて」
「へぇ、何しに行くの?」
「僕、行商人なんです。この街にも長く滞在したので、そろそろ移動しようかなと」
「そうなんだ。何を扱ってるの?」
「色々ありますよ!」
 興味を持ってくれたのが嬉しくて、青年に色々と披露していきます。青年はにこにこと時々質問を交えながらそれを聞いてくれました。
「あ、これほしい」
 青年がそう言って手にしたのは【セイレーンの歌声】という、いわゆる惚れ薬です。効果の程は、まあ、お試しいただいてといったところでしょうか。
「お兄さんには必要ないのでは?」
「いやいや、一目惚れ、しちゃってさ」
 青年はにっこりと笑います。僕もつられてにっこりしました。
「お値段は銀貨1枚です。物々交換でも承ってますよ」
「物々交換か……」
 顎に手を当てて考えると、受付のお姉さんが戻ってきました。書類を確認して必要事項を埋めていきます。
「ね、その依頼の報酬は?」
「一応、銀貨1枚に設定してます」
「あ、じゃあオレがそれやるよ」
「へ?」
 戸惑う僕を他所に青年はお姉さんと交渉を始めます。
「ルナ様、困ります」
「なんで?」
「勇者様には他に受けていただきたい依頼が山ほどあるんです」
「うーん、でも俺今はこれ以外興味ないかな。ついでに街道の掃除してくるから。どう?」
「……わかりました」
 青年はお姉さんを丸め込み、すっかり手続きを進めてしまいました。それより、聴き逃がせないセリフが一つ。
「ゆうしゃさま……?」
「うん。俺、勇者のルナ。よろしくな、依頼人のステラくん」
 ルナ様は人好きのする笑顔でそう告げました。
「でも、あの、僕、勇者様を雇えるほどの報酬は……」
「いいよいいよ。元々銀貨1枚の依頼だし。あ、報酬の代わりにさっきの【セイレーンの歌声】くれる?」
「あ、はい」
 僕は荷物からさっさと薬を取り出します。前払いになりますが、勇者様に限って踏み倒したり失敗もないでしょう。それほどの称号なのです。ルナ様は機嫌よく薬を受け取りアイテムボックスに収納しました。
「さて、んじゃ行こうか」
「よろしくお願いします」
 僕よりよほど旅に慣れている勇者様ですから、心配することは何もありません。僕はそこらの傭兵より強い護衛を手に入れてしまいました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...