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×行商人
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僕はステラ、駆け出しの行商人です。扱う商品は主に魔道具で、物々交換をすることもあります。
そろそろ新しい場所へ移動しようと考えていたとき、隣町への街道に魔獣や野盗が出没するようになったと耳にしました。僕は個人経営なので、移動のための護衛を雇うことにしました。
とはいえ、まだまだ半人前です。そこまで高額な護衛は雇えません。傭兵ギルドを覗きましたが、これからのことを考えるとあまり大きな出費は歓迎できません。
そういえば街道には魔獣も出没すると噂されていました。ならば冒険者にお願いするのも手段としては良いかもしれません。善は急げと、僕は冒険者ギルドに足を向けました。
冒険者ギルドは、広く浅く色々な依頼を請け負ってくれるので、僕ら商人も重宝しています。受付カウンターに向かって、依頼を出したい旨を伝えました。
受付のお姉さんが手続きに必要な書類を取りに、席を外したときのことです。
「これからなにか依頼するの?」
突然後ろから声をかけられ、大袈裟なくらい肩が跳ね上がりました。声のしたほうを恐る恐る振り返ると、優しそうな笑顔の青年が立っていました。
「は、はい。あの、隣町まで行きたくて」
「へぇ、何しに行くの?」
「僕、行商人なんです。この街にも長く滞在したので、そろそろ移動しようかなと」
「そうなんだ。何を扱ってるの?」
「色々ありますよ!」
興味を持ってくれたのが嬉しくて、青年に色々と披露していきます。青年はにこにこと時々質問を交えながらそれを聞いてくれました。
「あ、これほしい」
青年がそう言って手にしたのは【セイレーンの歌声】という、いわゆる惚れ薬です。効果の程は、まあ、お試しいただいてといったところでしょうか。
「お兄さんには必要ないのでは?」
「いやいや、一目惚れ、しちゃってさ」
青年はにっこりと笑います。僕もつられてにっこりしました。
「お値段は銀貨1枚です。物々交換でも承ってますよ」
「物々交換か……」
顎に手を当てて考えると、受付のお姉さんが戻ってきました。書類を確認して必要事項を埋めていきます。
「ね、その依頼の報酬は?」
「一応、銀貨1枚に設定してます」
「あ、じゃあオレがそれやるよ」
「へ?」
戸惑う僕を他所に青年はお姉さんと交渉を始めます。
「ルナ様、困ります」
「なんで?」
「勇者様には他に受けていただきたい依頼が山ほどあるんです」
「うーん、でも俺今はこれ以外興味ないかな。ついでに街道の掃除してくるから。どう?」
「……わかりました」
青年はお姉さんを丸め込み、すっかり手続きを進めてしまいました。それより、聴き逃がせないセリフが一つ。
「ゆうしゃさま……?」
「うん。俺、勇者のルナ。よろしくな、依頼人のステラくん」
ルナ様は人好きのする笑顔でそう告げました。
「でも、あの、僕、勇者様を雇えるほどの報酬は……」
「いいよいいよ。元々銀貨1枚の依頼だし。あ、報酬の代わりにさっきの【セイレーンの歌声】くれる?」
「あ、はい」
僕は荷物からさっさと薬を取り出します。前払いになりますが、勇者様に限って踏み倒したり失敗もないでしょう。それほどの称号なのです。ルナ様は機嫌よく薬を受け取りアイテムボックスに収納しました。
「さて、んじゃ行こうか」
「よろしくお願いします」
僕よりよほど旅に慣れている勇者様ですから、心配することは何もありません。僕はそこらの傭兵より強い護衛を手に入れてしまいました。
そろそろ新しい場所へ移動しようと考えていたとき、隣町への街道に魔獣や野盗が出没するようになったと耳にしました。僕は個人経営なので、移動のための護衛を雇うことにしました。
とはいえ、まだまだ半人前です。そこまで高額な護衛は雇えません。傭兵ギルドを覗きましたが、これからのことを考えるとあまり大きな出費は歓迎できません。
そういえば街道には魔獣も出没すると噂されていました。ならば冒険者にお願いするのも手段としては良いかもしれません。善は急げと、僕は冒険者ギルドに足を向けました。
冒険者ギルドは、広く浅く色々な依頼を請け負ってくれるので、僕ら商人も重宝しています。受付カウンターに向かって、依頼を出したい旨を伝えました。
受付のお姉さんが手続きに必要な書類を取りに、席を外したときのことです。
「これからなにか依頼するの?」
突然後ろから声をかけられ、大袈裟なくらい肩が跳ね上がりました。声のしたほうを恐る恐る振り返ると、優しそうな笑顔の青年が立っていました。
「は、はい。あの、隣町まで行きたくて」
「へぇ、何しに行くの?」
「僕、行商人なんです。この街にも長く滞在したので、そろそろ移動しようかなと」
「そうなんだ。何を扱ってるの?」
「色々ありますよ!」
興味を持ってくれたのが嬉しくて、青年に色々と披露していきます。青年はにこにこと時々質問を交えながらそれを聞いてくれました。
「あ、これほしい」
青年がそう言って手にしたのは【セイレーンの歌声】という、いわゆる惚れ薬です。効果の程は、まあ、お試しいただいてといったところでしょうか。
「お兄さんには必要ないのでは?」
「いやいや、一目惚れ、しちゃってさ」
青年はにっこりと笑います。僕もつられてにっこりしました。
「お値段は銀貨1枚です。物々交換でも承ってますよ」
「物々交換か……」
顎に手を当てて考えると、受付のお姉さんが戻ってきました。書類を確認して必要事項を埋めていきます。
「ね、その依頼の報酬は?」
「一応、銀貨1枚に設定してます」
「あ、じゃあオレがそれやるよ」
「へ?」
戸惑う僕を他所に青年はお姉さんと交渉を始めます。
「ルナ様、困ります」
「なんで?」
「勇者様には他に受けていただきたい依頼が山ほどあるんです」
「うーん、でも俺今はこれ以外興味ないかな。ついでに街道の掃除してくるから。どう?」
「……わかりました」
青年はお姉さんを丸め込み、すっかり手続きを進めてしまいました。それより、聴き逃がせないセリフが一つ。
「ゆうしゃさま……?」
「うん。俺、勇者のルナ。よろしくな、依頼人のステラくん」
ルナ様は人好きのする笑顔でそう告げました。
「でも、あの、僕、勇者様を雇えるほどの報酬は……」
「いいよいいよ。元々銀貨1枚の依頼だし。あ、報酬の代わりにさっきの【セイレーンの歌声】くれる?」
「あ、はい」
僕は荷物からさっさと薬を取り出します。前払いになりますが、勇者様に限って踏み倒したり失敗もないでしょう。それほどの称号なのです。ルナ様は機嫌よく薬を受け取りアイテムボックスに収納しました。
「さて、んじゃ行こうか」
「よろしくお願いします」
僕よりよほど旅に慣れている勇者様ですから、心配することは何もありません。僕はそこらの傭兵より強い護衛を手に入れてしまいました。
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