勇者かける

青空びすた

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×神様

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 るんるんと、ご機嫌に縄張りを見て回る。何処もかしこも異常は無さそうだ。長い尻尾をゆらりと揺らして踵を返す。ふと道の端に目を向けると、人間が落ちていた。
 普段なら捨て置くようなぼろぼろの姿。けれどなんだか気になって片手でつまみ上げた。どうやら息はあるらしい。
 ふむと一つ思案して寝床に持ち帰ることにした。

 眠る人間をじっと見つめる。なんて綺麗なのか。怪我は全て治療した。あとは目覚めるのを待つだけだ。
 目覚めればきっと腹が空いているだろうから、きのこをたくさん集めてきた。昔人間が食べているのを見たことがあるから食べられるはずだ。
 彼らはすぐに死んでしまうから、毒には殊更に気をつけてやらねばならない。
 さらりと顔にかかる髪を避けてやる。端正な顔立ちに引き締まった体躯。この人間はどこから来て、どこに向かうつもりなのだろうか。
 彼が希うのなら、自らの力を分けてやるのも吝かではない。

 いくらかの時間が流れた後、空が暗くなる前に人間は目を覚ました。初めは不思議そうにきょろきょろと辺りを見ていたが、私と目が合うと途端に警戒した。
 私はそれを見てからからと笑う。弱いものは常に気を張らなければ死んでしまうから、その姿がとても愛い。
「おはよう、人間。腹は空かぬか?」
「……」
「きのこがあるぞ。あぁ、人間は生では食えぬのだったか。どれ焼いてやろう」
 指先に火を灯し、適当なきのこを炙ってやる。差し出すがじっと見たまま食べようとしない。
「毒を心配しているのか? 人間は脆いからなぁ……。さて困った」
 きのこを持ったまま人間に近づき唇につけてみる。それでも頑なに口を開こうとはしない。
「……ふむ」
 そういえば人間の行動の中に毒味というものがあったと思い出し、目の前できのこを一口囓ってやる。ゆっくり咀嚼して嚥下して見せれば少し警戒も薄れたらしい。
 残りを口元に近づけてやれば一口齧った。かと思えば、やはり腹は減っていたのだろう。ぺろりと平らげてみせた。
 私はまたからからと笑って、あるだけきのこを焼いてやる。人間が満足したのか首を横に振るまで続けた。
「さて、人間。口は聞けるか?」
「……あぁ」
「何故あんなところに落ちておった?」
 聞けば躊躇いながらも答える。曰く、街道に出る魔獣を退治するはずが、濃霧に飲まれ仲間と散り散りになり、魔獣から不意を食らったのだと。
「街道か……」
 私の縄張りはその手前まで。街道に出没するならば、こちらを狙ってくるかもしれぬ。それはなるほどどうして面倒である。
「人間よ。お主は何者だ?」
「……シンカ。勇者をしている」
 私はその言葉を聞いて満足する。やはり分け与えるにはちょうどよい器だ。そろそろ溢れかけていたのだから、少し多めにやっても良いだろう。
「シンカ、私と手を組むつもりはないか?」
 ごくりとシンカの喉が鳴る。私はニヤつく口元を隠し、しんとその時を待つ。
「……その前に」
「なんだ?」
「あんたは何者だ?」
 確かに通りである。
「私はホムラ。簡単に言えば森の主、といったところか」
「ホムラ……って神の一柱じゃないか」
「なんだ、知っておったのか」
 黙って与えてしまおうという思惑は外れてしまった。人間に神の力は過ぎるから、逃げられてしまう場合がある。
 しかし私はシンカが気に入った。無理にでも受け取って貰おう。
「シンカ」
「なんだ?」
「悪く思うな」
 にやりと笑って、シンカに口付ける。驚き目を見開いているが、顔の造形が崩れることはない。うっとりと目を閉じて自分の力を流し込んでやる。
 身体の中で暴れる力を抑えつけるため、シンカが私の方に倒れてくる。名残惜しくも唇を離し、その身体を支えてやった。
「ホムラ、なにをした」
「いやなに、私の力をその身に宿しただけだ」
 強くこちらを睨んだあと、覚えてろと捨て台詞を残して、シンカは目を閉じた。眠る姿はやはり格別美しい。
「愛いなぁ、シンカ」
 体勢を整えてやりながら、私はいつか聞いた人間の子守唄を歌いながら、再びシンカの目覚めを待つのだった。
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