36 / 39
×神子
しおりを挟む
若い男の人と僕が、笑い合って旅をする夢。
言葉までは聞き取れないものの、いつも見る夢よりも鮮明で輝いている。明晰夢にも似たこの感覚には覚えがある。
朝の光ともに僕は布団を蹴り上げて、鞄を引っ掴んだ。こうしてはいられない。これから必要になりそうなものを片っ端から鞄に詰め込む。
「プルガ! 起きて、神託だよ!」
聖書・着替え・なんでも弾く雨合羽、救急箱に身分証明書。おサイフは一番手前に置いておこう。
『主よ』
「プルガ、おはよう! 勇者が選定されたよ、行こう!」
のそりと起きてきた僕の聖獣に声をかける。プルガは猫に似た大きなぐいっと伸ばしてのんきに毛づくろいを始めた。
空き瓶やおやつは必要だろうか。
『なぁ、主。着替えくらいしたらどうだ』
「え?」
言われて自分の体を見る。確かに昨日寝たままの服だ。寝衣を脱ぎ捨てて、動きやすい格好に着替える。
今度こそ出発だ。
大きな鞄をプルガに乗せてもらって、僕は聖書を手に廊下を走る。
空には雲ひとつなく、暖かで過ごしやすい。旅立ちには最高の日だ。
「お待ち下さい、ノトス様」
廊下の向かいから大神官が走ってきた。神聖軍の元帥たちも揃ってる。
ここで会えるなんて話が早い。
「大神官、神託です。勇者が選定されました」
「なんと」
「それは誠ですか?」
「はい。僕は彼に会いに行きます」
「なにもノトス様が行かれずともよいのでは?」
そう言ったのは元帥だ。彼は僕が一人で外に出るのを好まない。でも今回ばかりは引き下がれない。
「僕は神のお告げに従います」
元帥にしっかりと告げて、大神官に向き直る。
「『シュタイフェ・ブリーゼの杖』はどこですか?」
「な、いけませんノトス様、あれはあなたが持つには早すぎる」
「あれは僕ら『アウラ一族』のものです」
「な、なりません」
大神官と話をしていも埒が明かない。僕は深くため息をついて、右手を突き出す。口の中で呪文を唱えれば、閃光の後、手の中に杖が出現する。
「行くよ」
『ああ』
彼らの横を抜けて玄関へ向かう。元帥の横を通り過ぎた瞬間、彼の口から号令が飛び出した。
「捕縛せよ、けして傷つけるな!」
僕らは神聖軍にあっという間に取り囲まれる。狭い廊下でよくやるなぁ、なんて。
ふと窓の方に視線を向けた。飛んでいくのもいいかもしれない。
「プルガ」
僕の言いたいことを把握して、身体を伏せるプルガ。その背中にひらりと跨がる。
「それじゃあ、行ってきます!」
僕の言葉を合図にプルガは勢いよく窓から外に飛び出した。風に乗って空を駆ける。下で信者のみんなが手を振っていた。
「行ってしまわれた……」
「くく、ノトス様も男の子だなぁ」
「何を落ち着いているんだ! 元帥ともあろう者がこの場にいて、みすみす見送るなど……。あの方に外はまだ早すぎる!」
「おいおい。プルガ様が一緒なんだ。滅多なことなんてないさ」
「しかしまだ子どもだぞ!?」
「十三歳なんてあんなもんだ、なぁ?」
苦笑いする神聖軍。そんな不名誉な話をされているなんて露知らず、僕は、快適に空の旅を続けていた。
『主、勇者がどこにいるのかわかっているのか?』
「大丈夫、風が教えてくれるよ」
大きな街道で不意に風が止んだ。下を見れば夢で見た背中。間違いない。
「オストロ様!」
神様に教えてもらった名前で呼びかければ、彼は振り返った。プルガから飛び降りて彼の側に舞い降りる。
「お会いしたかった、僕の勇者様」
「君、は?」
目を瞬かせるオストロ様に、僕はにっこりと名乗りあげた。
言葉までは聞き取れないものの、いつも見る夢よりも鮮明で輝いている。明晰夢にも似たこの感覚には覚えがある。
朝の光ともに僕は布団を蹴り上げて、鞄を引っ掴んだ。こうしてはいられない。これから必要になりそうなものを片っ端から鞄に詰め込む。
「プルガ! 起きて、神託だよ!」
聖書・着替え・なんでも弾く雨合羽、救急箱に身分証明書。おサイフは一番手前に置いておこう。
『主よ』
「プルガ、おはよう! 勇者が選定されたよ、行こう!」
のそりと起きてきた僕の聖獣に声をかける。プルガは猫に似た大きなぐいっと伸ばしてのんきに毛づくろいを始めた。
空き瓶やおやつは必要だろうか。
『なぁ、主。着替えくらいしたらどうだ』
「え?」
言われて自分の体を見る。確かに昨日寝たままの服だ。寝衣を脱ぎ捨てて、動きやすい格好に着替える。
今度こそ出発だ。
大きな鞄をプルガに乗せてもらって、僕は聖書を手に廊下を走る。
空には雲ひとつなく、暖かで過ごしやすい。旅立ちには最高の日だ。
「お待ち下さい、ノトス様」
廊下の向かいから大神官が走ってきた。神聖軍の元帥たちも揃ってる。
ここで会えるなんて話が早い。
「大神官、神託です。勇者が選定されました」
「なんと」
「それは誠ですか?」
「はい。僕は彼に会いに行きます」
「なにもノトス様が行かれずともよいのでは?」
そう言ったのは元帥だ。彼は僕が一人で外に出るのを好まない。でも今回ばかりは引き下がれない。
「僕は神のお告げに従います」
元帥にしっかりと告げて、大神官に向き直る。
「『シュタイフェ・ブリーゼの杖』はどこですか?」
「な、いけませんノトス様、あれはあなたが持つには早すぎる」
「あれは僕ら『アウラ一族』のものです」
「な、なりません」
大神官と話をしていも埒が明かない。僕は深くため息をついて、右手を突き出す。口の中で呪文を唱えれば、閃光の後、手の中に杖が出現する。
「行くよ」
『ああ』
彼らの横を抜けて玄関へ向かう。元帥の横を通り過ぎた瞬間、彼の口から号令が飛び出した。
「捕縛せよ、けして傷つけるな!」
僕らは神聖軍にあっという間に取り囲まれる。狭い廊下でよくやるなぁ、なんて。
ふと窓の方に視線を向けた。飛んでいくのもいいかもしれない。
「プルガ」
僕の言いたいことを把握して、身体を伏せるプルガ。その背中にひらりと跨がる。
「それじゃあ、行ってきます!」
僕の言葉を合図にプルガは勢いよく窓から外に飛び出した。風に乗って空を駆ける。下で信者のみんなが手を振っていた。
「行ってしまわれた……」
「くく、ノトス様も男の子だなぁ」
「何を落ち着いているんだ! 元帥ともあろう者がこの場にいて、みすみす見送るなど……。あの方に外はまだ早すぎる!」
「おいおい。プルガ様が一緒なんだ。滅多なことなんてないさ」
「しかしまだ子どもだぞ!?」
「十三歳なんてあんなもんだ、なぁ?」
苦笑いする神聖軍。そんな不名誉な話をされているなんて露知らず、僕は、快適に空の旅を続けていた。
『主、勇者がどこにいるのかわかっているのか?』
「大丈夫、風が教えてくれるよ」
大きな街道で不意に風が止んだ。下を見れば夢で見た背中。間違いない。
「オストロ様!」
神様に教えてもらった名前で呼びかければ、彼は振り返った。プルガから飛び降りて彼の側に舞い降りる。
「お会いしたかった、僕の勇者様」
「君、は?」
目を瞬かせるオストロ様に、僕はにっこりと名乗りあげた。
0
あなたにおすすめの小説
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
冷凍睡眠からおれを目覚めさせたのは、異形頭でした
秋山龍央
BL
2412年。冷凍睡眠から目覚めたら、地球上に残っている人間はおれひとりになっていた。
三百年の眠りのあいだに、未知のウイルスと戦争により人類は宇宙シェルターへと避難していたのだ。
そんな荒廃した世界で、おれを目覚めさせたのは―― 黒い頭部に青白い光を灯す、異形頭の男だった。
人工機械生命体である彼は、この星における変異体と環境変化の記録のため地球上に残され、二百年以上も一人きりで任務を続けているという。
そんな彼と、行動を共にすることになった人間の話。
※異形頭BLアンソロ本に寄稿した小説に加筆修正をくわえたものになります
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる