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真ん中という名の世界の隅っこ
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この世界のどこにでもある風景、所謂巣立ち。同じ村で生まれ育った剣士のロシュ、弓使いのルアンと、かねてからの約束通り三時間前に生まれ育った村を旅立った。
天気は快晴。どこまでも続く青空はまるでこれからの未来を祝福しているようだ。
「だいたい、ロシュはおーぼーなんだよ」
少し幼い口調でルアンが口を尖らせる。彼は武器として弓を使うが、精霊魔法を得意としているため、バフやデバフ、攻撃魔法もこなせるオールラウンダーだ。
「うるせー。ルアンが遅刻したのが悪いんだろ」
ルアンの言葉を受けて、ロシュが不貞腐れたように返す。ロシュの得物である片手剣は左の腰に下げられている。
これから近くの大きな街で装備を整え、冒険者を始めるのだ。
「でもま、ロシュの腕には期待してるから。がんばってよね」
「おう。ルアンも支援頼むぜ」
「まかせてよ!」
さっきまでぎゃあぎゃあと仲良く喧嘩していたのに、今では機嫌よく肩を組んでいる。村でもよく見られた光景だ。ふと、二人の間の空気が止まる。何か言いたげに視線を絡めたあと、ぱっと顔を反らした。
「先を急ごうぜ!」
「うん。日が暮れちゃうね!」
突然、競うように走り出す。
その背中を見て、僕はふと立ち止まった。
──僕、いらないのでは?
現に僕がいないことに二人は気づかないし、前衛と後衛一人ずつでバランスがいい。ここ最近、二人の空気に板挟みになって、いたたまれない気持ちになることも多い。ルアンが後衛のハイスペックすぎて、魔法使いの需要なんてない気がする。
僕ははぁっと重たい空気を吐き出した。
「何やってんだよ、ニール」
バタバタと戻ってきたロシュは僕の腕を掴むと、かなり先まで行ってしまったルアンを追いかける。足を交互に出せば、勝手にロシュが連れて行ってくれる。思い返せば、いつもそうだった気がする。
「全く。ニールのことは俺がちゃんと見ててやらないとな」
いつものように太陽みたいに笑ったんだろう。ロシュの背中を見ていられなくて、なんとなく空に目を向ける。雲ひとつ無い快晴だ。
「おそいんだけどー」
「勝手に行くルアンが悪いんだろ」
「ごめん」
「はー? ロシュだってさっき走ってた!」
「でもすぐに止まりましたー」
「なにそれ、ルアンだけ悪いの!?」
「んなこと言ってないけどー?」
三人になると、僕の言葉はやっぱり空気に溶ける。
でも、ロシュは僕の手を離すつもりはないらしい。
「ふんだ。意地悪言うロシュなんか知らない」
ロシュと反対側の手をルアンが繋いだ。じっとルアンを見ると、目が合う。にこにこと機嫌が良さそうだ。
今度は僕の頭の上で喧嘩が始まった。
どこかで勝手にやってくれ。
出かかった言葉を飲み込んで、またぼんやりと雲を探した。
天気は快晴。どこまでも続く青空はまるでこれからの未来を祝福しているようだ。
「だいたい、ロシュはおーぼーなんだよ」
少し幼い口調でルアンが口を尖らせる。彼は武器として弓を使うが、精霊魔法を得意としているため、バフやデバフ、攻撃魔法もこなせるオールラウンダーだ。
「うるせー。ルアンが遅刻したのが悪いんだろ」
ルアンの言葉を受けて、ロシュが不貞腐れたように返す。ロシュの得物である片手剣は左の腰に下げられている。
これから近くの大きな街で装備を整え、冒険者を始めるのだ。
「でもま、ロシュの腕には期待してるから。がんばってよね」
「おう。ルアンも支援頼むぜ」
「まかせてよ!」
さっきまでぎゃあぎゃあと仲良く喧嘩していたのに、今では機嫌よく肩を組んでいる。村でもよく見られた光景だ。ふと、二人の間の空気が止まる。何か言いたげに視線を絡めたあと、ぱっと顔を反らした。
「先を急ごうぜ!」
「うん。日が暮れちゃうね!」
突然、競うように走り出す。
その背中を見て、僕はふと立ち止まった。
──僕、いらないのでは?
現に僕がいないことに二人は気づかないし、前衛と後衛一人ずつでバランスがいい。ここ最近、二人の空気に板挟みになって、いたたまれない気持ちになることも多い。ルアンが後衛のハイスペックすぎて、魔法使いの需要なんてない気がする。
僕ははぁっと重たい空気を吐き出した。
「何やってんだよ、ニール」
バタバタと戻ってきたロシュは僕の腕を掴むと、かなり先まで行ってしまったルアンを追いかける。足を交互に出せば、勝手にロシュが連れて行ってくれる。思い返せば、いつもそうだった気がする。
「全く。ニールのことは俺がちゃんと見ててやらないとな」
いつものように太陽みたいに笑ったんだろう。ロシュの背中を見ていられなくて、なんとなく空に目を向ける。雲ひとつ無い快晴だ。
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でも、ロシュは僕の手を離すつもりはないらしい。
「ふんだ。意地悪言うロシュなんか知らない」
ロシュと反対側の手をルアンが繋いだ。じっとルアンを見ると、目が合う。にこにこと機嫌が良さそうだ。
今度は僕の頭の上で喧嘩が始まった。
どこかで勝手にやってくれ。
出かかった言葉を飲み込んで、またぼんやりと雲を探した。
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