どこかで勝手にやってくれ

青空びすた

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左側二人分は守備範囲

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 村を出て約四時間くらいだろうか。まだまだ太陽は高い位置にある。隣の町までは三人で何度も行ったことがあるし、一本道だから迷う心配はない。ルアンの寝坊で乗合馬車には乗れなかった。

 繋いだ左手を見る。そこから辿って、ニールの顔を見る。ぽけっと空を眺めてる。口が半開きだ。
「ニール?」
「ん、なに?」
「口が開いてる」
「ふぁ」
 気づかなかったと言わんばかりに口を閉じる。口元を拭いたいのか手を離そうとするが、俺はしっかり握ったまま。ニールは困った顔で反対側を見るが、ルアンは素知らぬ顔で離そうとしない。
「……ルアン」
「ふふ、しょーがないなぁ」
 ルアンが左手でニールの口元を拭った。手を離せばいいのに、なんて自分のことを棚に上げる。ニールは大人しくされるがままだ。
「きれいになった」
「ありがと、ルアン」
「ほんとにちゃんと拭けたのか?」
「ふけてますー。失礼な」
 ニールの顔をこちらに向けて、なんとなくその口元を指で拭った。

 ニールは再び空を見上げた。そんなに面白いものがあるのかとつられて見上げる。ぽつんと入道雲が一つ。
「邪魔だなぁ……」
 ニールが唇を尖らせてむにむにと言うと、風が吹いた。ルアンがニールを抱きしめるように庇う。俺は腰に下げた剣を抜いた。風が強すぎて思わず目を閉じる。風が過ぎ去って、そっと目を開けるがモンスターの気配はない。
「なんだったんだ?」
「……さぁ。自然現象じゃない?」
 剣を納めてルアンに尋ねるが、眉根を寄せて首を傾げる。
「つか、いつまで抱きしめてるんだ」
「えー? ふふ。ロシュも抱いてあげようか?」
「結構だ! さっさと離せ!!」
 おっとっと、なんてよろけたふりしてニールから離れるルアン。ふん、と鼻を鳴らせば、にやにやした顔のまま抱きついてきた。
「あー、もう。遊んでる場合じゃないだろ」
「いーじゃーん」
 村を出てから、いや、旅立ちが決まった頃からルアンはご機嫌だ。離れろ、なんて軽口で身体を押し返す。しょうがないなって気分で頭を撫でてやれば、歌い出しそうなくらいにこにこしている。

 なぜか、三歩くらい離れたところにいるニール。目を離すとすぐふらふらしてるから、やれやれって気分で抱きしめてやる。
「ろ、ロシュ?」
「どうした?」
「何してるの?」
「え? 抱きしめてるけど」
「どうして?」
「ルアンとハグしたんだから、次はニールだろ?」
「ずるーい!」
 ルアンが飛びついてきて、三人でその場に転がる。こんなことしてる場合じゃないのはわかってるけど、三人でいるとやっぱ楽しい。思わず声を出して笑えば、ルアンも俺に負けないくらい大声で笑って、ニールも耐えられなかったみたいにくすくす笑った。

 地面から見る空は快晴だ。

 ニールとルアンの手をギュッと握る。
 どこかに行くなら、連れて行かないと。
 二人は目を離すとすぐにどこかに行ってしまうから。
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