友と耳鳴り

青空びすた

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 残業もなく定時で仕事を切り上げた、いつもの満員電車に揺られての帰り道。首の後がピリピリと痛んで、軽い耳鳴りがする。病院に行くほどではない不快感。放っておけばなんとかなるか、なんて軽く思いながら借りているアパートに目を向ける。
「おかえり、圭佑けいすけ
 そこには大学時代からの親友が立っていた。
「ただいま、遊矢ゆうや。久しぶりじゃん、どうかした?」
「あー、いや。なんか顔見たくなって」
「そっか。上がってくだろ」
 気のない返事をしながら内心舞い上がって、玄関の鍵を開ける。遊矢はどことなくそわそわしながらここで、なんてまごついている。せっかく鍵を開けたから持っていた鞄を玄関におろし、スマホと財布だけ持って外に出た。
「部屋が嫌なら久々に河川敷でも行くか?」
 学生時代、金もない二人で河川敷をぶらついた。何をするでもなくぼんやり歩いてみたり、時には研究内容で盛り上がることもあった。遊矢はぎこちなく笑いながらも頷く。そう遠くない河に向かって並んで夜道を歩きだした。

「で?」
「ん?」
「本当はなんかあったんだろ?」
 遊矢の顔を覗きながら尋ねれば落ち着きなく視線を動かし、やがて決意したように視線が合う。
「言うか、言わないか、悩んでたんだけど」
「うん」
 耳鳴りが少し強くなった気がする。真剣な表情から内容は読み取れない。まさか結婚するなんて言わないよな、と自問自答するも答えは相手が持っている。頭が白くなりかけたところで、ようやく遊矢はゆっくりと口を開いた。
「好き、なんだ。圭佑のこと」
「……」
 何を言われたのか、一瞬理解が及ばなかった。言葉が体に浸透すると、じわじわと血が流れ出す。顔が熱い。どくどくと心臓が脈打つ。
「おれ」
「あ、でも、返事は」
「俺も、遊矢のこと」

 ピリリリ。

 口を開いたが無粋な電子音に邪魔された。そんなことより目の前の相手に集中したいのに。
「スマホ、鳴ってる」
「……うん」
 いっそ機内モードにしておけばよかった。振り絞った勇気が萎んでいくのを感じながら、着信を告げる画面を見る。遊矢と共通の友人からだった。
「わり、高瀬たかせだ」
「うん」
 首がちくりと痛んで無意識に手をやる。特に血などは出ていない。
「出ないの?」
「あ、うん」
「俺そろそろいかなくちゃ」
「は、でも返事」
「いいよ」
「よくねーよ。次、次会ったときに言うから」
「わかった」
 遊矢は満足そうに笑って背中を向ける。自分も帰るかと踵を返す。スマホは未だに鳴り続けている。少し煩わしく思いながら電話に出ると、スピーカーの向こうが何やら騒がしい。
「高瀬?」
瀬田せた! お前、山本やまもと遊矢と仲良かったよな』
「おー。それが?」
『落ち着いて聞けよ、今、遊矢が事故ったって連絡あって。歩道にトラックが』
 キーン、と耳鳴りが強くなった。周囲の音が消える。慌てて振り向いたが、一本道の先に遊矢の背中はなかった。

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