友と耳鳴り

青空びすた

文字の大きさ
2 / 3

2

 連絡があってから、どうやってここに来たのかわからない。
 家族以外は面会できないと言われて、病室の前で佇むしかできない。医者の話では今夜が峠、らしい。手術中に一度心臓が止まったというから笑えない。
 その時間にあいつが俺に会いに来ていた、なんて誰が信じるだろう。心配して来ていた高瀬たちは夕飯のために外に出ている。
 耳鳴りが止まない。

 医者が何人か慌てて病室に駆け込んでいった。遊矢の母さんが泣きながら病室から出てきた。
「遊矢が、遊矢が……っ!!」
 扉が開いた病室の中で、心肺蘇生されている遊矢が見えた。頭のどこかでぶつりと音がした。
「ばかやろう、寝てんじゃえねよ!」
 取り押さえられ、病室には入れない。それでも目の前にいる親友に声を荒げる。
「勝手なこと言って、勝手にすっきりして、勝手に一人でいくんじゃねえよ! 帰ってこい!」
 涙で前が見えない。鼻水まで垂らしてる俺はさぞかし酷い顔だろう。遊矢の母さんの声が大きくなる。
「帰ってきて、ちゃんと、俺の話聞けよ」
 べそべそと喚くことしかできなくて、戻ってきた高瀬たちに宥められるまま、俺は待合室に移動した。


 あの日から一週間。二人分のカップ麺を手にすっかり歩きなれた道を歩く。手続きを済ませ嫌になるほど真っ白な扉を開けば、眠る親友とその母親の姿があった。
「こんばんは」
「こんばんは、圭佑くん。今日も来てくれたのね」
「はい。夕飯、食べました?」
「あ、ううん。なんだか食欲がなくて」
「じゃあ、こんなんで悪いですけど」
 取り出したカップ麺を見て遊矢の母さんは「たまにはいいわね」と少し笑った。
 この一週間で遊矢の母さんとはすっかり親しくなった。残業の少ない仕事で本当に良かった。仕事が終わればすぐに病院に来て、面会時間の終了まで遊矢の母さんと話をする。時間ぎりぎりに遊矢の父さんが迎えに来て挨拶してから帰るのがここ最近のルーティンだ。

 遊矢の幼い頃の話や大学時代の話に花を咲かせながら、彼の目覚めを待つ。
「あら、お水が」
「あ、俺行きますよ」
「いいのよ。圭佑くん来たばかりだし、遊矢と話してやって」
 遊矢の母さんが病室を出ていくと、音が消えた。静寂が耳に痛い。
 あの日から消えない耳鳴りが、少し強くなった気がした。
 点滴のために布団から出されている右手を見て、ふと触りたくなった。背中を向けた彼に手が届かなかったからかもしれない。そっと握ってみれば暖かくて彼が生きていると教えてくれる。じわりと涙が滲んだ。嗚咽が漏れないよう声を押し殺す。
 握る手に力を込める。軽く、握り返された。
 そんな、まさか。いや、でも。恐る恐る遊矢の顔を見れば、まぶたが痙攣している。
「遊矢?」
「……けいすけ?」
 呼び掛けに答えた声はがさがさで軽く息を吐いたあと、ゆっくりと目が開かれた。
「……っひぐ、おかえり、遊矢」
「ただいま、圭佑」
 精一杯の理性を総動員してナースコールを押し込んだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。