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姉の回想 2
しおりを挟む――ちりん。
あーあ。失敗しちゃったかなあ。
菫色から藍色に変わる夜風がふわりと肩を撫で、前髪を揺らし、鈴の音を靡かせながら、思わず溢れた落胆の溜息を背中に乗せて遠くに連れ去って行ってしまう。
あの子が走って逃げ去った方を名残惜しく見送っているうちにもう一つ大きな溜息が溢れてしまい、わたしはばったりと草叢に大の字に寝転がった。
そろり、そろりと怖がらせておいて……ばあっ! んふふ、冗談よ。吃驚した? なんて、こんな作戦。リッちゃんが聞いたら悪趣味の上に廻りくどいって呆れられそうだけれど。
でも、初めてあの子と言葉を交わすことができた。これはきっと大きな成果だと思うのだ。
ヨイショと上半身を起こす。もうすっかり辺りは夜の帳が降りてしまって、すぐ傍らの茂みでは小さな蛍の灯火が幾つもポウ、ポウと瞬いているのが見えた。今頃あの子はきっと家に帰り着いているころだろう。
さあ、明日はどんな風にあの子にちょっかいを仕掛けてやろうか?
んふふ、と自然に笑みが溢れてしまう。
ああ、楽しいな。楽しみだな。
早く明日が来ないかな。
あの子の、笑った顔を――一度でいいから、見てみたいな。
――ちりん。
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