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姉の回想 4
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――ちりん。
……ねえ、勝太郎。
あの夜。
固く閉ざされた部屋の前で、お姉さま、お姉さま、と何度もわたしを呼ぶ声に、わたしは最後まで応じることができなかったの。
ただ、ごめんなさい、ごめんないと、障子一枚隔てた向こうにいるおまえに背を向け、詫びることしかできなかった。
やがて、諦めて去っていくおまえの気配を感じて、わたしは生まれて初めてこの胸に抱いた感情から、笑顔を捨てて涙を流した。
……ああ、私の初恋は終わってしまった。
生まれて初めて好きになった人を、永遠に失ってしまった。
そう思うと、涙が止まらなかった。
……そして、それはやってきた。たった今立ち去ったおまえと同じように戸を叩いて、おまえと同じ声で私を呼んで。
もう、いてもたってもいられなかった。その向こうにどんなにおぞましい悪夢が待っているのかも知らずに――わたしは、戸を開けてしまった。
それからずっと、夜が来るたびに嫌らしい怪物は私の部屋に現れる。
そして毎夜繰り返される、昨夜と同じ悦び、同じ痛み、――同じ、絶望。
わたしは……それを拒めない。拒むことなんて、できないよ。
こんなもの、本当は幻だってわかってる。私を抱いているのは、本当のおまえじゃない。あの怪物の見せる幻なのだと。それでもわたしは幸せだった。とても幸せだったの。
だって、これはみんな、本当はわたしが望んでいたことなのだから。
やっと夢が叶ったんだもの。おまえと一緒にいたい。ずっと抱かれていたい。……それが例え嘘でもいい、わたしは幸せだった。このまま夢が覚めなければいいとさえ思った。
でも、……もう疲れたよ。だって、おまえに抱かれている間、わたしは笑うこともできずにずっと泣いていたのだもの。おまえを思う間だけは笑っていようとしても、どうしてだろう、涙が止まらないのだもの。
本当のおまえは、ここにはいない。もう、これ以上自分を騙し続けることなんて、無理。
きっと、あの夏の夕焼け空の下でお前の姿を探していた頃のようには、もう笑えないよ。
――この夜が明けたら、全部終わりにしよう。
……ごめんね、ごめんね勝太郎。
どうか、お姉さまの分まで笑っていて。
さようなら。
勝太郎、
大好きよ。
――ちりん。
……ねえ、勝太郎。
あの夜。
固く閉ざされた部屋の前で、お姉さま、お姉さま、と何度もわたしを呼ぶ声に、わたしは最後まで応じることができなかったの。
ただ、ごめんなさい、ごめんないと、障子一枚隔てた向こうにいるおまえに背を向け、詫びることしかできなかった。
やがて、諦めて去っていくおまえの気配を感じて、わたしは生まれて初めてこの胸に抱いた感情から、笑顔を捨てて涙を流した。
……ああ、私の初恋は終わってしまった。
生まれて初めて好きになった人を、永遠に失ってしまった。
そう思うと、涙が止まらなかった。
……そして、それはやってきた。たった今立ち去ったおまえと同じように戸を叩いて、おまえと同じ声で私を呼んで。
もう、いてもたってもいられなかった。その向こうにどんなにおぞましい悪夢が待っているのかも知らずに――わたしは、戸を開けてしまった。
それからずっと、夜が来るたびに嫌らしい怪物は私の部屋に現れる。
そして毎夜繰り返される、昨夜と同じ悦び、同じ痛み、――同じ、絶望。
わたしは……それを拒めない。拒むことなんて、できないよ。
こんなもの、本当は幻だってわかってる。私を抱いているのは、本当のおまえじゃない。あの怪物の見せる幻なのだと。それでもわたしは幸せだった。とても幸せだったの。
だって、これはみんな、本当はわたしが望んでいたことなのだから。
やっと夢が叶ったんだもの。おまえと一緒にいたい。ずっと抱かれていたい。……それが例え嘘でもいい、わたしは幸せだった。このまま夢が覚めなければいいとさえ思った。
でも、……もう疲れたよ。だって、おまえに抱かれている間、わたしは笑うこともできずにずっと泣いていたのだもの。おまえを思う間だけは笑っていようとしても、どうしてだろう、涙が止まらないのだもの。
本当のおまえは、ここにはいない。もう、これ以上自分を騙し続けることなんて、無理。
きっと、あの夏の夕焼け空の下でお前の姿を探していた頃のようには、もう笑えないよ。
――この夜が明けたら、全部終わりにしよう。
……ごめんね、ごめんね勝太郎。
どうか、お姉さまの分まで笑っていて。
さようなら。
勝太郎、
大好きよ。
――ちりん。
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