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第1章 角姫 1
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舎寮の一室に片膝をついて座した男が、懐紙を咥え大振りの太刀に手を掛ける。
漆黒の鞘よりゆっくりと抜き放たれた刀身にちらりと男の相貌が映った。
未だ三十路には達していないだろうか。眉間に深く刻まれた皴と、顔に幾筋も走る刀傷が、実際よりも風貌に齢を感じさせる。何処となく都人風ながら、やや浅黒く掘りの深い顔立ちは、恐らく蝦夷の血が現れているからだろう。
峻厳な面持ちで太刀を二度三度と振って見せる。鋭い瞬きを煌めかせながら空を切る刃の風切りの音が刀尺以上に重く鋭利に聞こえるのは、手に持つ太刀が業物であるばかりではなかろう。振るう男の潜った修羅場の数か、刀が吸った血の故か。
やがて男は刀を収め、ふう、と息を吐きながら懐紙を放す。男の顔から峻厳さが消え、穏やかな表情となる。
そんな男の傍らで、頬杖ついて目を輝かせている者がいる。
「良いのう。良いのう!」
娘――といっても礼装の重の着こなしから二十歳は過ぎているだろうか。しかしこの時代の貴婦人にしては栃粒のように大きな眼をきょろきょろとすばしこく動かす様子は童顔の上に輪を掛けて実齢より更に幼く見せている。刀を見てはしゃぐ様子など数百年後の湯島天神の蝦蟇の油売りの前で歓声を上げる悪童と大差ない。男からは角姫と呼ばれている。
もうキラッキラな眼差しで今一度刀を見せてくれ給え、とせがむ娘に男は苦笑する。先程刀を振るっていた厳めしい雰囲気は見る影もない。
「そんなに光物が好きとは。なんと申せばよいか、角殿もやはり女子じゃのう」
「このような名刀を秘蔵されていたとは、高衡殿こそ御人が悪い」
「はは、別に秘蔵していたわけではないぞ。なにしろこの度は大事なハレの行事。これは余所行きの太刀じゃ」
そう言われてみると、娘に高衡と呼ばれている男も普段御所に見参する際よりもずっと格上の礼服を身に着けている。着替える間もなく娘に纏わりつかれたと見える。
「嗚呼っ! これはまさしく噂に聞く月山の綾杉肌! 良い、実に良いのう!」
高衡から刀を手渡され大喜びしたと思うと今度は一転急に何やら含みあり気な女の顔になり、頬を上気させながらうっとりと艶めかしい溜息を吐く。
「嗚呼、素敵……っ。ああっ、なんて良い。実に良いのう。欲すぃのう」
ちらりと高衡に流し目を送る角に、困ったような顔をする。
「姫君の眼福に叶い恐悦の至り。だがこの太刀は進呈するわけにはいかぬ」
腹の底から名残惜し気な様子の角から刀を返してもらった高衡は年季を感じる黒光りの鞘を撫でながら微笑む。
「この太刀は、身共の剣の師匠から賜った大切な形見なのじゃ」
高衡が刀を傍らに納めた後も更に角は無邪気に食いついてくる。
「な、な。高衡殿はその刀で奥州の戦を戦ったのであろ? 何人斬ったのじゃ? 切れ味はどうじゃった?」
くるくると男の周りを廻りながらじゃれつく娘になんとも返答に困った様子で眉を寄せる。
「答え辛い事を問われる。角殿、奥州の戦では其許と身共は敵同士。ひょっとしたらどこかで角殿の兄上か甥御殿と刃を交えていたのかもしれぬのですぞ」
「ではこのお顔の傷は兄上が付けたものかもしれぬな!」
頬を突きかねぬ勢いで指さす娘に流石の高衡も深い溜息を吐いた。
「角殿の御実家でも先祖伝来の名刀を所有されているらしいではないか。そんなに刀剣がお好きならば、このような血生臭い曰く物よりもそちらを愛でられた方が余程よかろうに」
そういうと、娘は詰まらなそうに口を尖らせる。
「あの刀は兄上が触らせてくれぬのじゃ。何処に保管しておるかも教えてくれぬ。別に見て触れて多少試し斬りをしてみたとて減るものではあるまいにのう。そう思わぬか高衡殿?」
不意に部屋の外で咳払いが聞こえた。
「御戯れのところ恐れ入りますが、殿、角姫様」
部屋の外で控えていた侍従、雪丸が二人に声を掛ける。
今まで彼のいることに気づかなかった角が吃驚した顔で振り向き、「あなゃ!」と声を上げた。
「お邪魔をして申し訳ございませぬ。どうやら件の兄上がこちらに向かっているようでございます」
それを聞いた角が慌てて身なりを整えて居住まいを正す。ふと疑問に思い、
「お前、足音も聞こえないのに兄上だとわかるの?」
と問うと、雪丸は、
「忍びの心得があります故」
と短く答えた。
程なくして、のっしのっしと床を鳴らしながら現れたのは、幕府御家人にして前越後守、城四郎平長茂である。五十手前の男盛り、筋骨隆々とした大男であった。その七尺を優に超える巨躯の後ろ左右から、長茂の甥である資家、資正の兄弟が、ひょいと顔を覗かせた。三人とも礼装から着替え寛いだ常の装いに色を直しているが、長茂の様子はあまり寛いでいるとは言い難い。
「此処に居ったか駻馬奴。法事の半ばに抜け出しおって」
巌のような厳つい顔に不機嫌さを滲ませながら――尤も、笑った鬼瓦などというものは終ぞ見たことがない、とは高衡の所感だが――角をじろりと見降ろす。しかし長茂の顰め面は大事な式典の最中にフケた妹の御行儀悪さとは別の理由があるらしい。角の傍らで礼を示す男を鋭く睨みつける。
「困りますぞ藤原の。何の戯れのつもりか知らぬが、我が妹を男子の舎寮に引き込まれるなど悪戯に過ぎるであろう。それもよりによって厳粛であるべき日にこのような戯事をされては、貴公のみならず我が一族まで破廉恥の上に不謹慎の誹りを被りかねぬ。弁えられよ」
怒気の他にも含みを持った咎め様を聞くに、そもそも角の兄は高衡を嫌っているらしい。やれやれ、という顔で肩を竦める兄弟二人はどちらかというと高衡に同情的なようだ。
「お待ちください兄上。妾が勝手について行ったのです。高衡殿に何ら非はございませぬ」
釈明しようとする角を遮り高衡が謝罪する。
「ご懸念のような不届きな思惑は無論ござらぬが、確かに長茂殿の申される通り、軽率であった。以後気を付けまする」
頭を下げる高衡にフンと鼻を鳴らす。
「まあ、判れば良い。行くぞ」
踵を返す兄らの後ろにシュンとした様子で続く角だったが、退出の間際に高衡へ向かって笑顔でヒラヒラと手を振って見せるところなど、あまり只今の兄の薬は効いていないと見える。
漆黒の鞘よりゆっくりと抜き放たれた刀身にちらりと男の相貌が映った。
未だ三十路には達していないだろうか。眉間に深く刻まれた皴と、顔に幾筋も走る刀傷が、実際よりも風貌に齢を感じさせる。何処となく都人風ながら、やや浅黒く掘りの深い顔立ちは、恐らく蝦夷の血が現れているからだろう。
峻厳な面持ちで太刀を二度三度と振って見せる。鋭い瞬きを煌めかせながら空を切る刃の風切りの音が刀尺以上に重く鋭利に聞こえるのは、手に持つ太刀が業物であるばかりではなかろう。振るう男の潜った修羅場の数か、刀が吸った血の故か。
やがて男は刀を収め、ふう、と息を吐きながら懐紙を放す。男の顔から峻厳さが消え、穏やかな表情となる。
そんな男の傍らで、頬杖ついて目を輝かせている者がいる。
「良いのう。良いのう!」
娘――といっても礼装の重の着こなしから二十歳は過ぎているだろうか。しかしこの時代の貴婦人にしては栃粒のように大きな眼をきょろきょろとすばしこく動かす様子は童顔の上に輪を掛けて実齢より更に幼く見せている。刀を見てはしゃぐ様子など数百年後の湯島天神の蝦蟇の油売りの前で歓声を上げる悪童と大差ない。男からは角姫と呼ばれている。
もうキラッキラな眼差しで今一度刀を見せてくれ給え、とせがむ娘に男は苦笑する。先程刀を振るっていた厳めしい雰囲気は見る影もない。
「そんなに光物が好きとは。なんと申せばよいか、角殿もやはり女子じゃのう」
「このような名刀を秘蔵されていたとは、高衡殿こそ御人が悪い」
「はは、別に秘蔵していたわけではないぞ。なにしろこの度は大事なハレの行事。これは余所行きの太刀じゃ」
そう言われてみると、娘に高衡と呼ばれている男も普段御所に見参する際よりもずっと格上の礼服を身に着けている。着替える間もなく娘に纏わりつかれたと見える。
「嗚呼っ! これはまさしく噂に聞く月山の綾杉肌! 良い、実に良いのう!」
高衡から刀を手渡され大喜びしたと思うと今度は一転急に何やら含みあり気な女の顔になり、頬を上気させながらうっとりと艶めかしい溜息を吐く。
「嗚呼、素敵……っ。ああっ、なんて良い。実に良いのう。欲すぃのう」
ちらりと高衡に流し目を送る角に、困ったような顔をする。
「姫君の眼福に叶い恐悦の至り。だがこの太刀は進呈するわけにはいかぬ」
腹の底から名残惜し気な様子の角から刀を返してもらった高衡は年季を感じる黒光りの鞘を撫でながら微笑む。
「この太刀は、身共の剣の師匠から賜った大切な形見なのじゃ」
高衡が刀を傍らに納めた後も更に角は無邪気に食いついてくる。
「な、な。高衡殿はその刀で奥州の戦を戦ったのであろ? 何人斬ったのじゃ? 切れ味はどうじゃった?」
くるくると男の周りを廻りながらじゃれつく娘になんとも返答に困った様子で眉を寄せる。
「答え辛い事を問われる。角殿、奥州の戦では其許と身共は敵同士。ひょっとしたらどこかで角殿の兄上か甥御殿と刃を交えていたのかもしれぬのですぞ」
「ではこのお顔の傷は兄上が付けたものかもしれぬな!」
頬を突きかねぬ勢いで指さす娘に流石の高衡も深い溜息を吐いた。
「角殿の御実家でも先祖伝来の名刀を所有されているらしいではないか。そんなに刀剣がお好きならば、このような血生臭い曰く物よりもそちらを愛でられた方が余程よかろうに」
そういうと、娘は詰まらなそうに口を尖らせる。
「あの刀は兄上が触らせてくれぬのじゃ。何処に保管しておるかも教えてくれぬ。別に見て触れて多少試し斬りをしてみたとて減るものではあるまいにのう。そう思わぬか高衡殿?」
不意に部屋の外で咳払いが聞こえた。
「御戯れのところ恐れ入りますが、殿、角姫様」
部屋の外で控えていた侍従、雪丸が二人に声を掛ける。
今まで彼のいることに気づかなかった角が吃驚した顔で振り向き、「あなゃ!」と声を上げた。
「お邪魔をして申し訳ございませぬ。どうやら件の兄上がこちらに向かっているようでございます」
それを聞いた角が慌てて身なりを整えて居住まいを正す。ふと疑問に思い、
「お前、足音も聞こえないのに兄上だとわかるの?」
と問うと、雪丸は、
「忍びの心得があります故」
と短く答えた。
程なくして、のっしのっしと床を鳴らしながら現れたのは、幕府御家人にして前越後守、城四郎平長茂である。五十手前の男盛り、筋骨隆々とした大男であった。その七尺を優に超える巨躯の後ろ左右から、長茂の甥である資家、資正の兄弟が、ひょいと顔を覗かせた。三人とも礼装から着替え寛いだ常の装いに色を直しているが、長茂の様子はあまり寛いでいるとは言い難い。
「此処に居ったか駻馬奴。法事の半ばに抜け出しおって」
巌のような厳つい顔に不機嫌さを滲ませながら――尤も、笑った鬼瓦などというものは終ぞ見たことがない、とは高衡の所感だが――角をじろりと見降ろす。しかし長茂の顰め面は大事な式典の最中にフケた妹の御行儀悪さとは別の理由があるらしい。角の傍らで礼を示す男を鋭く睨みつける。
「困りますぞ藤原の。何の戯れのつもりか知らぬが、我が妹を男子の舎寮に引き込まれるなど悪戯に過ぎるであろう。それもよりによって厳粛であるべき日にこのような戯事をされては、貴公のみならず我が一族まで破廉恥の上に不謹慎の誹りを被りかねぬ。弁えられよ」
怒気の他にも含みを持った咎め様を聞くに、そもそも角の兄は高衡を嫌っているらしい。やれやれ、という顔で肩を竦める兄弟二人はどちらかというと高衡に同情的なようだ。
「お待ちください兄上。妾が勝手について行ったのです。高衡殿に何ら非はございませぬ」
釈明しようとする角を遮り高衡が謝罪する。
「ご懸念のような不届きな思惑は無論ござらぬが、確かに長茂殿の申される通り、軽率であった。以後気を付けまする」
頭を下げる高衡にフンと鼻を鳴らす。
「まあ、判れば良い。行くぞ」
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