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第四一話 北の黒龍
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「寒っ。」
その日初めて足を踏み入れた、雪に埋もれる真っ白い建物。
さっきまで常夏の男の側に居たのに。
「襟巻きあげようか、桃李。」
黒い髪、黒い瞳、凛と澄んだ声が言う。
「ううん。まだ良いや。」
2年ぶりに会った俺の黒龍。
トナカイみたいなものがドカドカと駆けてソリに馬車が乗った様な箱がグングン景色を流していく。
騰礼がくれた桃も、葡萄も、ウサギの形に剥いてくれた林檎の事も思い出して胸が痛むのに、二人横並びで座って…ひんやりとした手を握っていたかった。
「桃李、手が冷えてるよ。」
「うん。でも離したくないんだ。ダメ?」
「それならやはり、僕の襟巻きをあげるよ。暖かくして。只でさえ騰礼の所に居たんだ。風邪を引かないで桃李。」
「ん。」
あっさりと手を引き抜かれて、耽淵が着けていたコートに着いてるフェイクファーみたいなものを巻いてくれた。
「あ…。」
お礼を言う前に、何の躊躇いも無くまた手が繋がれた。
「ありがとう。耽淵。」
「ううん、僕がしたいんだ。桃李。」
久しぶりに聞いた声が、久しぶりに俺の名前を呼んで照れ臭そうに笑う。俺も、会えて嬉しい…っ。でも恥ずかしいから名前を呼ぶだけ、何気ないフリをして手を繋ぐだけで精一杯だった。
騰礼とも、義栄とも、もっと凄いこといっぱいシたのに。
「桃李。」
「ん?」
「会いたかったよ、僕のおひさま。」
「ぉ、ひさま…ふっ、俺が?」
「そうだよ。僕の国ではそう呼ぶんだ。覚えてね桃李。」
「一々、恥ずかしいなぁ。」
義栄は俺の事を姫、って呼ぶ。
騰礼は俺をーー今までも居た筈の仙桃妃とは別格として、俺を見てる。宝石でも眺めてるみたいに眩しそうに目を細めて顎髭をゾリゾリ寄せてくる。
次は、おひさまか。
ロマンチストばっかなのか、神様ってやつは。
「髪、伸びたね桃李。」
「ん。ちょっと焦げたけど切り揃えて貰ったら良い感じになったよ。あと、変なオイルも塗られて伸びた。耽淵に怒られるって騰礼が慌ててさ。毎晩塗るんだっ。」
「ふふっ。焦げたんだ。それは僕、聞いてないな。」
「え」
「その話、詳しく教えてくれる桃李?」
ニッコリ微笑むその笑顔を、俺は現世でよく見た。
キレーな作り笑いってやつだっ、これ。やばっ、やばいごめんな騰礼っ。
「けど、良い事もあるね。」
「そ…そぅ、?」
「ふふっ。あとで教えてあげるよ。この国の注意事項と一緒にね。義栄の所よりは厳しくないから怖がらなくて良いよ。その代わり、襟を仕立て直させないとな。」
ヒヤリ、冷えた視線がうなじに走る。
ぇ。何。何っ。
首…っ、!?
キスマークなんか無いと思うんだけどっ、
だってほら儀式だから。
俺が次の龍の所へ引っ越す時には、元の薄桃色の瞳、薄桃色の髪でないといけない。
騰礼の朱色に染まったまま、耽淵の国に嫁ぐ…なんてのは御法度な訳で、だからこの1週間キスもしなかったのに。
俺にとって龍の唾液は甘くて美味しくて蜂蜜みたいなのに…我慢したんだけどなっ、!?
「そんなに見ても、ダメだよ桃李。」
「べ…別に、何も欲しくないけどっ、?」
「そう。それなら良いんだ。ふふっ。」
じゅわ、と緩く繋いだだけの手が汗ばんだ。
これは、あれだっ。耽淵が、笑うからだっ。そんな風に笑うなんて知らなかったしっ、二人きりは初めてだしっ、
「ふふっ。」
「もうっ、やめろよ…っ。意地悪だぞ、それっ。」
「そうかな?ごめんね桃李。僕のお日様。」
「うっ、」
「慣れてくれないと困るからね。今から沢山言っておこうかな。」
馬車はドカドカ進む。煩いくらいの音を立ててるのに、耽淵の声ははっきり聞こえるし、小さく笑うだけなのに目が優しくて、甘くて…その目を俺は知ってるっ。
俺も、同じだからだ。
ーー早く、俺の黒龍が欲しいっ。
その日初めて足を踏み入れた、雪に埋もれる真っ白い建物。
さっきまで常夏の男の側に居たのに。
「襟巻きあげようか、桃李。」
黒い髪、黒い瞳、凛と澄んだ声が言う。
「ううん。まだ良いや。」
2年ぶりに会った俺の黒龍。
トナカイみたいなものがドカドカと駆けてソリに馬車が乗った様な箱がグングン景色を流していく。
騰礼がくれた桃も、葡萄も、ウサギの形に剥いてくれた林檎の事も思い出して胸が痛むのに、二人横並びで座って…ひんやりとした手を握っていたかった。
「桃李、手が冷えてるよ。」
「うん。でも離したくないんだ。ダメ?」
「それならやはり、僕の襟巻きをあげるよ。暖かくして。只でさえ騰礼の所に居たんだ。風邪を引かないで桃李。」
「ん。」
あっさりと手を引き抜かれて、耽淵が着けていたコートに着いてるフェイクファーみたいなものを巻いてくれた。
「あ…。」
お礼を言う前に、何の躊躇いも無くまた手が繋がれた。
「ありがとう。耽淵。」
「ううん、僕がしたいんだ。桃李。」
久しぶりに聞いた声が、久しぶりに俺の名前を呼んで照れ臭そうに笑う。俺も、会えて嬉しい…っ。でも恥ずかしいから名前を呼ぶだけ、何気ないフリをして手を繋ぐだけで精一杯だった。
騰礼とも、義栄とも、もっと凄いこといっぱいシたのに。
「桃李。」
「ん?」
「会いたかったよ、僕のおひさま。」
「ぉ、ひさま…ふっ、俺が?」
「そうだよ。僕の国ではそう呼ぶんだ。覚えてね桃李。」
「一々、恥ずかしいなぁ。」
義栄は俺の事を姫、って呼ぶ。
騰礼は俺をーー今までも居た筈の仙桃妃とは別格として、俺を見てる。宝石でも眺めてるみたいに眩しそうに目を細めて顎髭をゾリゾリ寄せてくる。
次は、おひさまか。
ロマンチストばっかなのか、神様ってやつは。
「髪、伸びたね桃李。」
「ん。ちょっと焦げたけど切り揃えて貰ったら良い感じになったよ。あと、変なオイルも塗られて伸びた。耽淵に怒られるって騰礼が慌ててさ。毎晩塗るんだっ。」
「ふふっ。焦げたんだ。それは僕、聞いてないな。」
「え」
「その話、詳しく教えてくれる桃李?」
ニッコリ微笑むその笑顔を、俺は現世でよく見た。
キレーな作り笑いってやつだっ、これ。やばっ、やばいごめんな騰礼っ。
「けど、良い事もあるね。」
「そ…そぅ、?」
「ふふっ。あとで教えてあげるよ。この国の注意事項と一緒にね。義栄の所よりは厳しくないから怖がらなくて良いよ。その代わり、襟を仕立て直させないとな。」
ヒヤリ、冷えた視線がうなじに走る。
ぇ。何。何っ。
首…っ、!?
キスマークなんか無いと思うんだけどっ、
だってほら儀式だから。
俺が次の龍の所へ引っ越す時には、元の薄桃色の瞳、薄桃色の髪でないといけない。
騰礼の朱色に染まったまま、耽淵の国に嫁ぐ…なんてのは御法度な訳で、だからこの1週間キスもしなかったのに。
俺にとって龍の唾液は甘くて美味しくて蜂蜜みたいなのに…我慢したんだけどなっ、!?
「そんなに見ても、ダメだよ桃李。」
「べ…別に、何も欲しくないけどっ、?」
「そう。それなら良いんだ。ふふっ。」
じゅわ、と緩く繋いだだけの手が汗ばんだ。
これは、あれだっ。耽淵が、笑うからだっ。そんな風に笑うなんて知らなかったしっ、二人きりは初めてだしっ、
「ふふっ。」
「もうっ、やめろよ…っ。意地悪だぞ、それっ。」
「そうかな?ごめんね桃李。僕のお日様。」
「うっ、」
「慣れてくれないと困るからね。今から沢山言っておこうかな。」
馬車はドカドカ進む。煩いくらいの音を立ててるのに、耽淵の声ははっきり聞こえるし、小さく笑うだけなのに目が優しくて、甘くて…その目を俺は知ってるっ。
俺も、同じだからだ。
ーー早く、俺の黒龍が欲しいっ。
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