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本編'24
7月22日
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夏って頭おかしくなるじゃん。
ちょっとボーっとしてたら、目の前に可愛い子がしゃがみ込んできてキスしてくれる。
「ただいま和己。」
「おかえり良悟。可愛いね。」
「ふっ、なに。眠い?」
「眠いけど、ムラムラする。ちょっとこっち来て。可愛いお尻見せて良悟。」
「見せない。ご飯何にする。」
「えー何が良いかな。」
足の間に立ってくれた良悟が、俺を抱きしめてくれる。
はぁー…良い。
蝉うるさいな。
良悟の声が聞こえないじゃん。
「和己」
昔は1週間の短い命だからって言ってたけど、3週間くらい生きてるらしいんだよねぇ。
それは地上でミンミン鳴いてる間だけだから、土の中ではもっと長く生きてる。
昔は蝉の抜け殻集めてたなぁ。
高校の時も良悟の制服のシャツにくっ付けて遊んだし、逆に良悟はーーあれ、良悟がいない。
さっきまでここに居たのに。
「シロナガ」
「あれ、どこ行ってたの?」
「バンザイして。」
「んー?うわ、冷たっ。」
アイス枕が剥き出しで胸に押し付けられた。
あぁでもこれ気持ち良いねぇー。
今度はソファに座る俺の膝を跨いで、良悟が乗ってくれる。
えーーなにぃ良い眺め。
お水飲むのを見せ付けてるの可愛い。
喉仏がゴクッと動いた。
「えっろ」
いつの間に握ってたのか、気が付くと氷枕を抱き締める反対の手で良悟の腰の骨をサリサリ撫でてた。
あれ、まだ着替えてないの。スラックス暑くない?
そう思ってたらキスをくれた。
冷たい唇がいつもよりぴったりくっ付いて、顎を掴む。
少し上を向かされて、何だろうってドキドキしてたら口に含んでたらしい水を飲ませてくれる。
「ん… … んっ、」
タラタラっと、ゆっくり流れ込んでくる水は良悟の加減でどうとでも出来る。
もっと沢山流し込んでも良いし、ほんの一滴ずつ焦らす様に飲ませてくれても良い。
美味しいねこの水。
「もっとほしいな」
「冷たい?」
「ううん。人肌のお水最高…。もっとくれる?」
「ふふっ、良いよ。」
液体を口移し出来るなんて凄いね良悟。
意外と難しいよねこれ。
流し込む側と、飲み込む側が上手にゴックンしないと溢れちゃう。
俺が飲み込むのを待ってる間、冷たい水は良悟の口の中で少しだけ温くなってる。
それでも冷たいんだから、良悟の口の中は今頃キンキンになってるのかなぁ。
「ぷは。」
あー…うま。
なんだこの水美味すぎじゃない?
「んーまだ熱いな。」
今度はペタペタと俺の首とか腕とか、背中にも手を押し付けてる。
なぁにこれ。冷たくて気持ち良い上に可愛いんだけど。
俺の存在を確かめてるの?
そんな事しないくても実際に良悟の目の前に存在してて、俺の可愛い黒柴くんを穴が開くほど見てるよ。
大丈夫だよ…ん、なんか言ってる、?
あれ。良悟の声が少し遠い。
なんだろ。
「こいつ聞こえてないな」
手を引かれてソファから降りた俺は、何でかうつ伏せになる様に転がされた。
なんだろ、これ今俺さ何かされてるんじゃない?
「うぎゃ」
剥き出しの氷枕が今度は背中に押し付けられた。
冷たい。
ちょっと酷くない?
ねぇ、どこ行くの良悟。
寂しくて物理でも冷たくされて、俺しおしおになっちゃいそう。
でもこれ冷たくて気持ち良いねぇ。
またぼーっとしてたら、今度は洗面器にゴロゴロ氷入れた良悟が戻ってきた。
「うひっ、!?」
俺の頭の前に来て膝で挟み込む様に座ると、首が突然冷たい何かに襲われた。
良悟の手だ。
冷たい掌で首をガッチリ掴んで次は耳をぺたっと塞いだ。
濡れた両手が凄く気持ち良い。
なんか息もしやすいな。
「和己、」
そう言えば良悟の膝の間でうつ伏せに挟まれるなんて、初めてじゃない?
えっちな匂い嗅ぎたいんだけど。
「和己っ。」
あー…やば、ムラムラしてきた。
っていうか、眠いな。すごく眠くなってきた。
「シロナガ、!」
「うわ、はい!?」
「お前っ、熱中症。寝ないで、起きて冷やして。」
「え、ぇ?」
「次、仰向け。ほら、早く。」
「はいっ、!?」
どっから取り出したのかタオルを洗面器に突っ込んで絞ってる。
そのタオル、氷枕に巻いてくれると嬉しいなぁ。
問答無用で頭の下に突っ込まれたけど、硬いなぁこれ。
Tシャツを胸まで捲られて、ビシビシ太ももを叩かれてズボンまで引き抜かれた。
痛い痛い。ちょっと加減して。痛いな。
「あー…でもソレきもちぃー勃っちゃいそ」
良悟が冷たいタオルで全身を拭いてくれる。
パンツの中はダメなの?全然、歓迎するのに。
「水風呂に浸けてやるけど?」
「いやだ。これ最高。♡」
「ぁ、返事した。聞こえる?」
聞こえるに決まってるじゃん、そう言おうとして途端吐き気に襲われた。
いやいや、それが吐き気だけじゃない。
「他は?頭痛とかめまいとかする?」
「する、するわ、全部、めっちゃする、」
「動ける?」
「う、ごいたら吐く」
「好きな様に寝転がって良いよ」
「ううん、これで良い...っ、うゎきもちわるっ。」
「耳鳴りは?」
「しない。大丈夫可愛い声しか聞いてない。」
「その可愛い声も聞いてなかったよ和己。」
ひたすら身体を濡らしたタオルで拭いて、冷やして、拭いて冷やして。偶に扇風機とクーラーの風を送る様にパタパタ振ってくれる。
あぁー…俺これ、処置されてんの?
「のどかわいた」
「飲める?吐く?」
「ううん飲める。」
今度くれた水は氷無しだった。
ソファに背中を預けて持たせてくれたコップの水を少しずつ飲んでいく。
「家の水ってこんな美味しかったっけ」
「それが美味しいなら熱中症。」
「え?」
「さっきも飲んでたけど、それ塩入ってる。砂糖も。俺には不味い。」
「嘘。」
「こっちが普通の水。飲む?」
「飲む、飲む。」
あれま本当。
よく分からないけど、普通の水を飲んだら分かる。よく分かんないけどなんか入ってるのは分かる。それが塩と砂糖ってのは言われても全然分からないけど。なんか飲みやすいね?
「これもうちょっと飲みたい」
凄く美味しい。
そしてコップ1杯の塩と砂糖水を飲み干した頃に気付いた。
ぁ、あれかな。スポーツ飲料みたいな味してきた。
「いや、それ目分量だから駄目。これあげる。塩レモン味の飴。水も普通の飲んで。氷無しで。」
「そうなの。残念。」
「氷枕まだいる?」
「ううん。これ冷たいし硬いし最悪。」
べしっ、と放り出した氷枕には悪いんだけど。新しいの買うから俺。
「ぉ、?なぁーに良悟♡」
また俺の可愛い子が来てくれた。
そんなに何回も膝に来られると、元気になっちゃう。
もう具合悪くないし頑張っちゃおうかなぁ。
「じっとして」
首にペタって手を当てて、腕時計を見てる。
「まだ速い、それに熱い。目も潤んでる。」
「んー…?♡」
おっと。良悟が舌打ちした。
怖いなぁ。
なんで怒ってるの良悟?
「世話が焼けるね飼い主さま。」
「え?なんて?」
また膝から降りちゃった。
俺の黒柴くん今日機嫌悪いの。
塩レモン味の飴ってなんかおいしくないね。
はぁー…つまんない。
寂しい。
「りょーご」
「なーにーっ!」
「さみしぃ、」
「こっち見れば良いじゃんっ!そっちは床、俺はここ!台所!」
あ。ほんと。
俺の可愛い子発見。
癒し。可愛い。なんかパタパタしてるの。
頑張ってなにしてるのかなぁ。
こっち来た。
「お待たせ」
「ううん、全然待ってないよ。」
「ふはっ、格好付けてる。」
「んー好きな子の前で格好付けなくて何時付けるの?」
「はいはい。格好良いね、これ握って。」
「なにこれ」
「氷水のポリ袋。」
両手に1個ずつ持たされたけど、こんなの持ってたら良悟に触れない。
俺は良悟と元気になれる事したいんだよ?
「これ何時まで持ってれば良いの?」
「熱が取れて脈拍が落ち着くまで。」
「それって何時、」
「さぁ?あと3、4時間くらい?」
「えぇ、無理だよ。今なら凄い張り切ってセックス出来るんだけど、俺とシたくない良悟?」
ほんと、爆発しそう。
ちんこにすげぇ熱が行っててさ、ムラムラするの。
良悟が膝の上でこっち向いてるんだよ、俺…腰振りたい。
「熱が篭ってるだけ。」
「余計、発散させないと」
「馬鹿ッ」
「あぁームラムラする、」
「… … 太腿の付け根ってチンコは入らないよな。」
「ん、なんか言った?」
「良いから冷やして。ねぇ、眠くなってきた?」
腰振りたいのに、良悟が頭を抱き寄せてくれる。
何度もよしよし撫でて眠いね、って言われるとさ。
そう言えばすげぇ眠かったんだ。
締切も有ったし、寝苦しいし、朝は眩しいし、帰り道は暑いし。
「疲れた?」
「そうだね、ちょっと疲れたかも」
「一緒寝る?」
「うん。寝るよ...良悟が寝るなら俺も」
ーーーーー
和己を寝かしつけるのは少しコツがいる。
酒で落とすなら簡単。この前は4分だったけど。
仕方ないから氷水のポリ袋を外して、俺の腰と太腿を掴ませる。
あとはピッタリ体をくっ付けて、頭を抱き抱えれば完成。
和己は、俺みたいに誘導されたりしない。
眠いねって言っても眠くはならない。
でもこいつが寝落ちしそうになってたのは本当だし、見るからに疲れてる。具合も悪い。
誘導は出来ないけど、自覚させる事は俺にも出来る。
本当の事を言うだけだ。
流石に疲れが出たのかも。
行き帰り歩きが有るのはどんどんキツい季節になってきてる。
昼最中に外を歩くのは危険だって言われる様になってきた。
俺が迎えに行っても良いけど。
和己が俺を待たせるのを嫌がる。
俺も最近残業になったりして、時間が読めない。
それでも、帰ってきてエアコンも扇風機も点けずにソファに座り込んでる和己を見たら何とかしないといけない。
終始ふわっと笑う具合悪そうな男を放っておくなんて無理だ。
すぐそうやってバカになる。
俺の事しか考えてない、恋してるみたいな顔ばっかしても具合は良くならないんだからな。
残業断ってきて良かった。
最近、他の仕事まで割り振ってくるんだよな。
カウンターに立ってクリーニングを並べて渡すだけだった筈なのに。
備品の発注、シフト、偶に配達まで行かされる。
直ぐそこだから良いと思ってたんだけど。
いよいよ、話が変わって来た。
良いタイミングなのかも知れない。
少し怖くは有るけど。
横に寝かせた和己の頭を抱えて氷枕を突っ込む。
これで頭と首を冷やして、ポリ袋でも掌を冷やす。
少しは冷えてきたな。
ほんとは量りもしてない経口補水液もどきを飲ませるのは良くない。俺、数学苦手だったから何%の塩分なんて言われても分かんないけど。
ちゃんと調べて、ひとつまみの平均と、グラス1杯に必要な塩の量は一緒だったし。
味はそっくりだった。
んーー。1本買うかなぁ。
でも俺の場合全部飲み干しそうだし。
ちょっとずつ飲める気がしないし。
多分、あれの味を知ったら和己は二度と飲まない。
健康な時に飲むと凄く不味いんだよ。
今は脱水してて美味しいって飲んでたけど、本物はもっと不味い。
味も俺が作ったのより濃い筈だ。薄目にしたけどやっぱり気付いてた。
多分...飲まないよなぁ。
飲ませても良いけど、ひとくちだけだろうな。
多分、気持ち悪いって言うと思う。
だってズッキーニがダメなんだから。
その癖、きゅうりとスイカは食べる。同じ瓜だぞ。
メロンみたいな味の瓜が有るって知ったらどんな顔するかな。
しかも黄色。
メロン味のくせに緑じゃないし模様も無いの、こいつ絶対発狂するっ。
基準が良く分からない困ったさんだ。
一昨日そうめんでカルボナーラしようとしたら、やめてって言われた。
今度チャンプルーしてみようと思うし、麻婆茄子のそうめん、なんてのも有った。
お昼は何にしようかな。
和己の分が要らないのに自分の分を作らないといけない。
陸也に写真送らないと心配するしな。
ーーーーー
ピコン、と通知が鳴った。
ここ1週間続く良悟からのメッセージだ。
『クラッカーとポテチ砕いてチョコとドライフルーツとナッツで固めて、栄養ブロック食べてる。プレーン味。』
どこをどう見ても美容に気を遣っている様な昼飯だな。
カロリーと塩分を取って付けた分良しとするか。
『あと和己が熱中症だった。今は爆睡。歩いて帰らせるのはもう無理かも。寝不足過ぎるし夏は禁止したい。』
そうか。
そうだな。
本人は運動だと言い張っているが、それが裏目に出るならやめてもらうしか無いな。
『日傘買うか。』
『俺、昼から和己と仕事するかも。どう思う?』
思わず電話しそうになった指を止めるだけの理性が有った。
何時も俺を翻弄するな、全く。
『掛け持ちは辛く無いか?』
『でもクリーニング屋の残業から逃げ出せる。』
『俺は二人が一緒なら嬉しい。』
もしそうなるなら心配事がひとつ減るな。
良悟は使い勝手が良い。
本人にそのつもりは無いが、よく気が効くし、断らない。
自分には何も出来ないと思っているせいで、出来る事は全部してしまう。
しかも上手い。
俺達の中でチームを組んで仕事をさせるなら、指揮を取るのは圧倒的に良悟だ。
俺は方針を決められない。
今も先輩に教えて貰った手順のままに仕事を進めるだけで。
後輩には俺の跡を着いてきてもらうだけになっているが、良悟は舵が取れる。
先を見据えて動けるというのは、ひとつの武器だ。
そのせいで今までも色々やらされていたな。
少なくとも和己と動くと言うなら、理不尽だと俺が怒る事は無くなるだろうな。
『和己が甘えて来ないか心配。』
『だな。』
仕事で妥協する男じゃないが、放置する所が有る。
後回しにしたり、いっそ面倒だからと断ったりする。
『カッコ悪いからやめろ、と言ってやれば良い。効くぞ。』
『そんなんで効く?』
『効くと思うぞ。』
『スーツ着ようかな。』
『メリハリは大事だからな。』
『ありがとう陸也、あと経口補水液1本買って来て。試しに飲ませてみる。』
それは。マズイな。
前自分で買って飲んでたぞ。
『凄い顔で二度と買わないと叫んでた、飲ませられるか?』
『多分イケる。騙して飲ませてみる。』
『了解。和己を頼む良悟。』
『大丈夫。陸也も気を付けて帰って来て。お疲れ。』
騙して飲ませてみる、か。
和己が聞いたら怒りそうだなっ。
良悟が言うなら何でも飲み食いする奴を、態々騙して飲ませるなら和己は気が付かないだろうな。
というか、どうやって騙すんだ。
酒に入れるか。いや、下戸だからな。
ーーーーー
すっごい良く寝た、と思ったらもう17時だった。
冗談じゃない。まじで。
スマホもテレビもタブレットの時計も17時だった。
俺の黒柴くんはどこ?
扇風機とクーラー、アニメが流れてるタブレットとBluetoothイヤホンのケースが有る。
ぱさっ、と身体からタオルケットが落ちて来た。
「あ、起きてる。おはよー」
「おは、よ…どこ行ってたの?」
「え?お風呂掃除してた。」
「来て良悟。」
腕を広げて、良悟が収まってくれるのを待ってぎゅっと抱き締める。
そう言えば、さっきもこんな風に抱き締めなかったか。
「具合はどう?」
「具合、?」
「覚えてないの...熱中症だった和己。そこのソファで氷枕が硬いって怒ってたよ。」
「ぇー…なにそれ。」
「ほんとに覚えてない?」
「うん。今が17時だって事にもびっくりしてる。俺、昼飯食った?」
「ううん。食べてないよ。お腹空いた?」
「いや、あんまり空いてないかな。」
「おやつ食べる?このくらいのナッツとチョコ。」
冷蔵庫から出してくれたのは手作りっぽいチョコだった。
俺が爆睡してる間にせっせと手作りチョコ仕込んでたの?
「俺の?♡」
「ふはっ、只の行動食。でも確かにこれは和己の。」
平たい四角に切ったチョコを手ずから食べさせてくれた。
コレだけは今、俺のチョコね。嬉しい。
「うまぁ。沁みる。なにこれ。」
「塩分脂質ビタミン食物繊維が入ってる塊。」
「何言ってるのかわかんないなぁ、」
「これにグラノーラ入れたら完璧だった。」
グラノーラってあれ、シリアル?
ふぅん。完全食って奴なのかなぁ。
それにしても、なんか体が重い。
熱中症って何。
俺、帰って来た記憶すら無いんだけど。
「ぅ、わなに良悟、」
首にペタっと掌が当たる。
それだけなら良かったんだけど、腕時計を短パンから取り出して何か…計ってる?
「何してるの」
「シィ、じっとしてて。」
「ぉ、っす。」
針の音がする。
良悟はこの音苦手なのに、今日は今までずっと持ってたの?
ぁ、これアレ?
俺、脈測られてる?
「うん。まぁまぁ。暑く無い?吐き気とか頭痛は?」
可愛い。
俺の目を見て、首を触って手首、胸元までペタペタ触って確かめてる。
俺、こんな看護師さん居たらプロポーズしちゃう。
「良悟が可愛すぎて違う所が元気になりそう、」
「はいはい、」
「ぇ。冷たい。」
「もうその台詞は聞いた。今日の下ネタは寒過ぎ。暖房が要るかも。脳味噌に直結してる。」
「あー…頭悪くなってる気はする、かな。ちょっとまだボーっとする。」
「はい、もう一個食べて。」
あーんしてくれたら、断れない。
何よりこのチョコ美味しい。何だろ甘いのにさっぱりしてる。
「美味しい?」
「美味しい。凄いねこれ。毎日食べたい。」
「あと1個食べたらもう少し寝る?」
「うん。でもお願いがあるな良悟。聞いてくれる?」
なんだろうな。
今日はすごく寂しいんだ。
「俺が寝るまで側に居てくれる」
良悟は良いよって、ソファの背もたれを倒して一緒に横になってくれた。
これこれ。
この良悟のお尻と太腿が無いと、俺寝れないの。
はぁー…しあわせ。
「おやすみ和己。」
「ありがと…りょーご」
意識はあっという間に落ちた。
ーーーーー
話し声がする。誰だ。
「どんな具合だ?」
「まだ寝てる。もうすぐ8時間くらいかな。昼は早かったけど、17時頃測った時は76だった。」
「まぁまぁだな。」
「もう少し下げたい。」
「様子見でも良いかもな。明日明後日にまた測れば良い。気にし過ぎも良く無い良悟。」
「ん。分かった。」
陸也帰って来たのか。
と言う事は19時か、20時か。
寝過ぎたなぁ。
でも起きられそうに無い。何でだ。
「ただいま和己。」
「ん、おかえり」
「起きてるな。具合悪いか。」
「んーぅ、いや…なんか起きれないんだよね...なにこれ、」
「休めって事だ。何か食べられそうか?」
髪を撫でられて、デコにキスされた。
はぁ、キザ。恥ずかしい奴。
でもそうだなぁ。
良悟のチョコ食べたいし、あと喉乾いた。
仕方ないからゴリラに抱き起こして貰って、良悟がコップと昼間に作ってくれたチョコをトレイで持って来てくれる。
優しい。至れり尽くせり。
ザクザクチョコを食べて、ゴクっとコップの水を飲んで気付く。
「何コレ、不味。」
「経口補水液だな。不味いか?」
「不味い。何コレやば。」
「こっちならどう?」
良悟がもう一つコップを運んでくれて、こっちも水に見えるけど。
怪し過ぎない?
「お昼くれた水が良いな。」
「それは覚えてるんだ。ひと口で良いから飲めば分かるよ。」
しょうがないな。
これ以上駄々を捏ねてカッコ悪い所は見せられない。
一思いに飲んだコップの中身は、只の水だった。
「飲ませたかったのは最初の1個目だから。」
ニコッと微笑む久しぶりに見た良悟の営業スマイル。
お陰で自分がまんまと騙された事に気が付いた。
「思い出した。経口補水液ってあれじゃん。健康な人が飲むと不味い奴。俺知らなくてさ…だって良悟が平気な顔して飲んでたじゃん。」
「つまりアレが不味かった和己は健康な人の仲間入り。お疲れ。」
「甲斐甲斐しい看病のお陰だな。」
「いや…それが全く覚えてないんだよ。」
「寒い下ネタ連発してた。腰振りたいってずーっと言うヘンタイ。そのくせ寂しいとか溢す。こっちはバタバタしてるのに。」
凄く寂しかったんだよ。
具合悪くなるのって最悪な気分だね、
手を伸ばして良悟を抱きしめた。
「ごめんね」
頑張り屋さんが頑張ってたんだね。
「今日はまだキスしてないね良悟」
「ん。」
「したいな良悟。屈んでくれる?」
静かに泣きながらくれたキスは、遠慮がちでほんの少し吸い付く程度だった。
「可愛い。小鳥さんのキス好き?」
「好き…でも…もっと元気になったら…違うキスもできる。」
「そうなの?」
一言毎にくれるキスが甘くて擽ったくて心地いい。
「楽しみ。」
「そしたら仕事の話をしよう。」
「待って。仕事どうかしたの良悟」
「だめ…元気になったら話す。」
「元気の基準にもよるんじゃない?」
チラッと視線を落とした良悟は大正解。
ほんとごめんね、俺の愚息が。
「ーーどうする陸也。」
「体力が無いだけで治ってるのかもな。」
「あぁ...成程。じゃあご飯は?まだ眠い?」
「眠いかな。あの...良悟怒ってる?」
「ムカつく、バカ」
小さく愛してるって、また小鳥さんのキスをくれなが囁いてくれるの可愛い。
ごめんね良悟。
俺、良悟が好き過ぎるんだよ。
「俺も愛してる。」
ちょっとボーっとしてたら、目の前に可愛い子がしゃがみ込んできてキスしてくれる。
「ただいま和己。」
「おかえり良悟。可愛いね。」
「ふっ、なに。眠い?」
「眠いけど、ムラムラする。ちょっとこっち来て。可愛いお尻見せて良悟。」
「見せない。ご飯何にする。」
「えー何が良いかな。」
足の間に立ってくれた良悟が、俺を抱きしめてくれる。
はぁー…良い。
蝉うるさいな。
良悟の声が聞こえないじゃん。
「和己」
昔は1週間の短い命だからって言ってたけど、3週間くらい生きてるらしいんだよねぇ。
それは地上でミンミン鳴いてる間だけだから、土の中ではもっと長く生きてる。
昔は蝉の抜け殻集めてたなぁ。
高校の時も良悟の制服のシャツにくっ付けて遊んだし、逆に良悟はーーあれ、良悟がいない。
さっきまでここに居たのに。
「シロナガ」
「あれ、どこ行ってたの?」
「バンザイして。」
「んー?うわ、冷たっ。」
アイス枕が剥き出しで胸に押し付けられた。
あぁでもこれ気持ち良いねぇー。
今度はソファに座る俺の膝を跨いで、良悟が乗ってくれる。
えーーなにぃ良い眺め。
お水飲むのを見せ付けてるの可愛い。
喉仏がゴクッと動いた。
「えっろ」
いつの間に握ってたのか、気が付くと氷枕を抱き締める反対の手で良悟の腰の骨をサリサリ撫でてた。
あれ、まだ着替えてないの。スラックス暑くない?
そう思ってたらキスをくれた。
冷たい唇がいつもよりぴったりくっ付いて、顎を掴む。
少し上を向かされて、何だろうってドキドキしてたら口に含んでたらしい水を飲ませてくれる。
「ん… … んっ、」
タラタラっと、ゆっくり流れ込んでくる水は良悟の加減でどうとでも出来る。
もっと沢山流し込んでも良いし、ほんの一滴ずつ焦らす様に飲ませてくれても良い。
美味しいねこの水。
「もっとほしいな」
「冷たい?」
「ううん。人肌のお水最高…。もっとくれる?」
「ふふっ、良いよ。」
液体を口移し出来るなんて凄いね良悟。
意外と難しいよねこれ。
流し込む側と、飲み込む側が上手にゴックンしないと溢れちゃう。
俺が飲み込むのを待ってる間、冷たい水は良悟の口の中で少しだけ温くなってる。
それでも冷たいんだから、良悟の口の中は今頃キンキンになってるのかなぁ。
「ぷは。」
あー…うま。
なんだこの水美味すぎじゃない?
「んーまだ熱いな。」
今度はペタペタと俺の首とか腕とか、背中にも手を押し付けてる。
なぁにこれ。冷たくて気持ち良い上に可愛いんだけど。
俺の存在を確かめてるの?
そんな事しないくても実際に良悟の目の前に存在してて、俺の可愛い黒柴くんを穴が開くほど見てるよ。
大丈夫だよ…ん、なんか言ってる、?
あれ。良悟の声が少し遠い。
なんだろ。
「こいつ聞こえてないな」
手を引かれてソファから降りた俺は、何でかうつ伏せになる様に転がされた。
なんだろ、これ今俺さ何かされてるんじゃない?
「うぎゃ」
剥き出しの氷枕が今度は背中に押し付けられた。
冷たい。
ちょっと酷くない?
ねぇ、どこ行くの良悟。
寂しくて物理でも冷たくされて、俺しおしおになっちゃいそう。
でもこれ冷たくて気持ち良いねぇ。
またぼーっとしてたら、今度は洗面器にゴロゴロ氷入れた良悟が戻ってきた。
「うひっ、!?」
俺の頭の前に来て膝で挟み込む様に座ると、首が突然冷たい何かに襲われた。
良悟の手だ。
冷たい掌で首をガッチリ掴んで次は耳をぺたっと塞いだ。
濡れた両手が凄く気持ち良い。
なんか息もしやすいな。
「和己、」
そう言えば良悟の膝の間でうつ伏せに挟まれるなんて、初めてじゃない?
えっちな匂い嗅ぎたいんだけど。
「和己っ。」
あー…やば、ムラムラしてきた。
っていうか、眠いな。すごく眠くなってきた。
「シロナガ、!」
「うわ、はい!?」
「お前っ、熱中症。寝ないで、起きて冷やして。」
「え、ぇ?」
「次、仰向け。ほら、早く。」
「はいっ、!?」
どっから取り出したのかタオルを洗面器に突っ込んで絞ってる。
そのタオル、氷枕に巻いてくれると嬉しいなぁ。
問答無用で頭の下に突っ込まれたけど、硬いなぁこれ。
Tシャツを胸まで捲られて、ビシビシ太ももを叩かれてズボンまで引き抜かれた。
痛い痛い。ちょっと加減して。痛いな。
「あー…でもソレきもちぃー勃っちゃいそ」
良悟が冷たいタオルで全身を拭いてくれる。
パンツの中はダメなの?全然、歓迎するのに。
「水風呂に浸けてやるけど?」
「いやだ。これ最高。♡」
「ぁ、返事した。聞こえる?」
聞こえるに決まってるじゃん、そう言おうとして途端吐き気に襲われた。
いやいや、それが吐き気だけじゃない。
「他は?頭痛とかめまいとかする?」
「する、するわ、全部、めっちゃする、」
「動ける?」
「う、ごいたら吐く」
「好きな様に寝転がって良いよ」
「ううん、これで良い...っ、うゎきもちわるっ。」
「耳鳴りは?」
「しない。大丈夫可愛い声しか聞いてない。」
「その可愛い声も聞いてなかったよ和己。」
ひたすら身体を濡らしたタオルで拭いて、冷やして、拭いて冷やして。偶に扇風機とクーラーの風を送る様にパタパタ振ってくれる。
あぁー…俺これ、処置されてんの?
「のどかわいた」
「飲める?吐く?」
「ううん飲める。」
今度くれた水は氷無しだった。
ソファに背中を預けて持たせてくれたコップの水を少しずつ飲んでいく。
「家の水ってこんな美味しかったっけ」
「それが美味しいなら熱中症。」
「え?」
「さっきも飲んでたけど、それ塩入ってる。砂糖も。俺には不味い。」
「嘘。」
「こっちが普通の水。飲む?」
「飲む、飲む。」
あれま本当。
よく分からないけど、普通の水を飲んだら分かる。よく分かんないけどなんか入ってるのは分かる。それが塩と砂糖ってのは言われても全然分からないけど。なんか飲みやすいね?
「これもうちょっと飲みたい」
凄く美味しい。
そしてコップ1杯の塩と砂糖水を飲み干した頃に気付いた。
ぁ、あれかな。スポーツ飲料みたいな味してきた。
「いや、それ目分量だから駄目。これあげる。塩レモン味の飴。水も普通の飲んで。氷無しで。」
「そうなの。残念。」
「氷枕まだいる?」
「ううん。これ冷たいし硬いし最悪。」
べしっ、と放り出した氷枕には悪いんだけど。新しいの買うから俺。
「ぉ、?なぁーに良悟♡」
また俺の可愛い子が来てくれた。
そんなに何回も膝に来られると、元気になっちゃう。
もう具合悪くないし頑張っちゃおうかなぁ。
「じっとして」
首にペタって手を当てて、腕時計を見てる。
「まだ速い、それに熱い。目も潤んでる。」
「んー…?♡」
おっと。良悟が舌打ちした。
怖いなぁ。
なんで怒ってるの良悟?
「世話が焼けるね飼い主さま。」
「え?なんて?」
また膝から降りちゃった。
俺の黒柴くん今日機嫌悪いの。
塩レモン味の飴ってなんかおいしくないね。
はぁー…つまんない。
寂しい。
「りょーご」
「なーにーっ!」
「さみしぃ、」
「こっち見れば良いじゃんっ!そっちは床、俺はここ!台所!」
あ。ほんと。
俺の可愛い子発見。
癒し。可愛い。なんかパタパタしてるの。
頑張ってなにしてるのかなぁ。
こっち来た。
「お待たせ」
「ううん、全然待ってないよ。」
「ふはっ、格好付けてる。」
「んー好きな子の前で格好付けなくて何時付けるの?」
「はいはい。格好良いね、これ握って。」
「なにこれ」
「氷水のポリ袋。」
両手に1個ずつ持たされたけど、こんなの持ってたら良悟に触れない。
俺は良悟と元気になれる事したいんだよ?
「これ何時まで持ってれば良いの?」
「熱が取れて脈拍が落ち着くまで。」
「それって何時、」
「さぁ?あと3、4時間くらい?」
「えぇ、無理だよ。今なら凄い張り切ってセックス出来るんだけど、俺とシたくない良悟?」
ほんと、爆発しそう。
ちんこにすげぇ熱が行っててさ、ムラムラするの。
良悟が膝の上でこっち向いてるんだよ、俺…腰振りたい。
「熱が篭ってるだけ。」
「余計、発散させないと」
「馬鹿ッ」
「あぁームラムラする、」
「… … 太腿の付け根ってチンコは入らないよな。」
「ん、なんか言った?」
「良いから冷やして。ねぇ、眠くなってきた?」
腰振りたいのに、良悟が頭を抱き寄せてくれる。
何度もよしよし撫でて眠いね、って言われるとさ。
そう言えばすげぇ眠かったんだ。
締切も有ったし、寝苦しいし、朝は眩しいし、帰り道は暑いし。
「疲れた?」
「そうだね、ちょっと疲れたかも」
「一緒寝る?」
「うん。寝るよ...良悟が寝るなら俺も」
ーーーーー
和己を寝かしつけるのは少しコツがいる。
酒で落とすなら簡単。この前は4分だったけど。
仕方ないから氷水のポリ袋を外して、俺の腰と太腿を掴ませる。
あとはピッタリ体をくっ付けて、頭を抱き抱えれば完成。
和己は、俺みたいに誘導されたりしない。
眠いねって言っても眠くはならない。
でもこいつが寝落ちしそうになってたのは本当だし、見るからに疲れてる。具合も悪い。
誘導は出来ないけど、自覚させる事は俺にも出来る。
本当の事を言うだけだ。
流石に疲れが出たのかも。
行き帰り歩きが有るのはどんどんキツい季節になってきてる。
昼最中に外を歩くのは危険だって言われる様になってきた。
俺が迎えに行っても良いけど。
和己が俺を待たせるのを嫌がる。
俺も最近残業になったりして、時間が読めない。
それでも、帰ってきてエアコンも扇風機も点けずにソファに座り込んでる和己を見たら何とかしないといけない。
終始ふわっと笑う具合悪そうな男を放っておくなんて無理だ。
すぐそうやってバカになる。
俺の事しか考えてない、恋してるみたいな顔ばっかしても具合は良くならないんだからな。
残業断ってきて良かった。
最近、他の仕事まで割り振ってくるんだよな。
カウンターに立ってクリーニングを並べて渡すだけだった筈なのに。
備品の発注、シフト、偶に配達まで行かされる。
直ぐそこだから良いと思ってたんだけど。
いよいよ、話が変わって来た。
良いタイミングなのかも知れない。
少し怖くは有るけど。
横に寝かせた和己の頭を抱えて氷枕を突っ込む。
これで頭と首を冷やして、ポリ袋でも掌を冷やす。
少しは冷えてきたな。
ほんとは量りもしてない経口補水液もどきを飲ませるのは良くない。俺、数学苦手だったから何%の塩分なんて言われても分かんないけど。
ちゃんと調べて、ひとつまみの平均と、グラス1杯に必要な塩の量は一緒だったし。
味はそっくりだった。
んーー。1本買うかなぁ。
でも俺の場合全部飲み干しそうだし。
ちょっとずつ飲める気がしないし。
多分、あれの味を知ったら和己は二度と飲まない。
健康な時に飲むと凄く不味いんだよ。
今は脱水してて美味しいって飲んでたけど、本物はもっと不味い。
味も俺が作ったのより濃い筈だ。薄目にしたけどやっぱり気付いてた。
多分...飲まないよなぁ。
飲ませても良いけど、ひとくちだけだろうな。
多分、気持ち悪いって言うと思う。
だってズッキーニがダメなんだから。
その癖、きゅうりとスイカは食べる。同じ瓜だぞ。
メロンみたいな味の瓜が有るって知ったらどんな顔するかな。
しかも黄色。
メロン味のくせに緑じゃないし模様も無いの、こいつ絶対発狂するっ。
基準が良く分からない困ったさんだ。
一昨日そうめんでカルボナーラしようとしたら、やめてって言われた。
今度チャンプルーしてみようと思うし、麻婆茄子のそうめん、なんてのも有った。
お昼は何にしようかな。
和己の分が要らないのに自分の分を作らないといけない。
陸也に写真送らないと心配するしな。
ーーーーー
ピコン、と通知が鳴った。
ここ1週間続く良悟からのメッセージだ。
『クラッカーとポテチ砕いてチョコとドライフルーツとナッツで固めて、栄養ブロック食べてる。プレーン味。』
どこをどう見ても美容に気を遣っている様な昼飯だな。
カロリーと塩分を取って付けた分良しとするか。
『あと和己が熱中症だった。今は爆睡。歩いて帰らせるのはもう無理かも。寝不足過ぎるし夏は禁止したい。』
そうか。
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本人は運動だと言い張っているが、それが裏目に出るならやめてもらうしか無いな。
『日傘買うか。』
『俺、昼から和己と仕事するかも。どう思う?』
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何時も俺を翻弄するな、全く。
『掛け持ちは辛く無いか?』
『でもクリーニング屋の残業から逃げ出せる。』
『俺は二人が一緒なら嬉しい。』
もしそうなるなら心配事がひとつ減るな。
良悟は使い勝手が良い。
本人にそのつもりは無いが、よく気が効くし、断らない。
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しかも上手い。
俺達の中でチームを組んで仕事をさせるなら、指揮を取るのは圧倒的に良悟だ。
俺は方針を決められない。
今も先輩に教えて貰った手順のままに仕事を進めるだけで。
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『カッコ悪いからやめろ、と言ってやれば良い。効くぞ。』
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それは。マズイな。
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『凄い顔で二度と買わないと叫んでた、飲ませられるか?』
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『了解。和己を頼む良悟。』
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騙して飲ませてみる、か。
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というか、どうやって騙すんだ。
酒に入れるか。いや、下戸だからな。
ーーーーー
すっごい良く寝た、と思ったらもう17時だった。
冗談じゃない。まじで。
スマホもテレビもタブレットの時計も17時だった。
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扇風機とクーラー、アニメが流れてるタブレットとBluetoothイヤホンのケースが有る。
ぱさっ、と身体からタオルケットが落ちて来た。
「あ、起きてる。おはよー」
「おは、よ…どこ行ってたの?」
「え?お風呂掃除してた。」
「来て良悟。」
腕を広げて、良悟が収まってくれるのを待ってぎゅっと抱き締める。
そう言えば、さっきもこんな風に抱き締めなかったか。
「具合はどう?」
「具合、?」
「覚えてないの...熱中症だった和己。そこのソファで氷枕が硬いって怒ってたよ。」
「ぇー…なにそれ。」
「ほんとに覚えてない?」
「うん。今が17時だって事にもびっくりしてる。俺、昼飯食った?」
「ううん。食べてないよ。お腹空いた?」
「いや、あんまり空いてないかな。」
「おやつ食べる?このくらいのナッツとチョコ。」
冷蔵庫から出してくれたのは手作りっぽいチョコだった。
俺が爆睡してる間にせっせと手作りチョコ仕込んでたの?
「俺の?♡」
「ふはっ、只の行動食。でも確かにこれは和己の。」
平たい四角に切ったチョコを手ずから食べさせてくれた。
コレだけは今、俺のチョコね。嬉しい。
「うまぁ。沁みる。なにこれ。」
「塩分脂質ビタミン食物繊維が入ってる塊。」
「何言ってるのかわかんないなぁ、」
「これにグラノーラ入れたら完璧だった。」
グラノーラってあれ、シリアル?
ふぅん。完全食って奴なのかなぁ。
それにしても、なんか体が重い。
熱中症って何。
俺、帰って来た記憶すら無いんだけど。
「ぅ、わなに良悟、」
首にペタっと掌が当たる。
それだけなら良かったんだけど、腕時計を短パンから取り出して何か…計ってる?
「何してるの」
「シィ、じっとしてて。」
「ぉ、っす。」
針の音がする。
良悟はこの音苦手なのに、今日は今までずっと持ってたの?
ぁ、これアレ?
俺、脈測られてる?
「うん。まぁまぁ。暑く無い?吐き気とか頭痛は?」
可愛い。
俺の目を見て、首を触って手首、胸元までペタペタ触って確かめてる。
俺、こんな看護師さん居たらプロポーズしちゃう。
「良悟が可愛すぎて違う所が元気になりそう、」
「はいはい、」
「ぇ。冷たい。」
「もうその台詞は聞いた。今日の下ネタは寒過ぎ。暖房が要るかも。脳味噌に直結してる。」
「あー…頭悪くなってる気はする、かな。ちょっとまだボーっとする。」
「はい、もう一個食べて。」
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何よりこのチョコ美味しい。何だろ甘いのにさっぱりしてる。
「美味しい?」
「美味しい。凄いねこれ。毎日食べたい。」
「あと1個食べたらもう少し寝る?」
「うん。でもお願いがあるな良悟。聞いてくれる?」
なんだろうな。
今日はすごく寂しいんだ。
「俺が寝るまで側に居てくれる」
良悟は良いよって、ソファの背もたれを倒して一緒に横になってくれた。
これこれ。
この良悟のお尻と太腿が無いと、俺寝れないの。
はぁー…しあわせ。
「おやすみ和己。」
「ありがと…りょーご」
意識はあっという間に落ちた。
ーーーーー
話し声がする。誰だ。
「どんな具合だ?」
「まだ寝てる。もうすぐ8時間くらいかな。昼は早かったけど、17時頃測った時は76だった。」
「まぁまぁだな。」
「もう少し下げたい。」
「様子見でも良いかもな。明日明後日にまた測れば良い。気にし過ぎも良く無い良悟。」
「ん。分かった。」
陸也帰って来たのか。
と言う事は19時か、20時か。
寝過ぎたなぁ。
でも起きられそうに無い。何でだ。
「ただいま和己。」
「ん、おかえり」
「起きてるな。具合悪いか。」
「んーぅ、いや…なんか起きれないんだよね...なにこれ、」
「休めって事だ。何か食べられそうか?」
髪を撫でられて、デコにキスされた。
はぁ、キザ。恥ずかしい奴。
でもそうだなぁ。
良悟のチョコ食べたいし、あと喉乾いた。
仕方ないからゴリラに抱き起こして貰って、良悟がコップと昼間に作ってくれたチョコをトレイで持って来てくれる。
優しい。至れり尽くせり。
ザクザクチョコを食べて、ゴクっとコップの水を飲んで気付く。
「何コレ、不味。」
「経口補水液だな。不味いか?」
「不味い。何コレやば。」
「こっちならどう?」
良悟がもう一つコップを運んでくれて、こっちも水に見えるけど。
怪し過ぎない?
「お昼くれた水が良いな。」
「それは覚えてるんだ。ひと口で良いから飲めば分かるよ。」
しょうがないな。
これ以上駄々を捏ねてカッコ悪い所は見せられない。
一思いに飲んだコップの中身は、只の水だった。
「飲ませたかったのは最初の1個目だから。」
ニコッと微笑む久しぶりに見た良悟の営業スマイル。
お陰で自分がまんまと騙された事に気が付いた。
「思い出した。経口補水液ってあれじゃん。健康な人が飲むと不味い奴。俺知らなくてさ…だって良悟が平気な顔して飲んでたじゃん。」
「つまりアレが不味かった和己は健康な人の仲間入り。お疲れ。」
「甲斐甲斐しい看病のお陰だな。」
「いや…それが全く覚えてないんだよ。」
「寒い下ネタ連発してた。腰振りたいってずーっと言うヘンタイ。そのくせ寂しいとか溢す。こっちはバタバタしてるのに。」
凄く寂しかったんだよ。
具合悪くなるのって最悪な気分だね、
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ほんとごめんね、俺の愚息が。
「ーーどうする陸也。」
「体力が無いだけで治ってるのかもな。」
「あぁ...成程。じゃあご飯は?まだ眠い?」
「眠いかな。あの...良悟怒ってる?」
「ムカつく、バカ」
小さく愛してるって、また小鳥さんのキスをくれなが囁いてくれるの可愛い。
ごめんね良悟。
俺、良悟が好き過ぎるんだよ。
「俺も愛してる。」
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