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「鱗さま」
「なーにセツ。」
最初は義兄さま、と呼ぶセツをむず痒いから辞めてくれ、と言うと。
代わりにそう呼ぶようになった。
俺もセツとくっつくのは嫌いじゃない。
よく分からないけど、結界で覆われたこの町は俺の家族にも影響があった。
俺が、青海と一緒に家に戻ると何故だか。
俺は結婚報告をしに来た事になっていた。
嫁ぎ先は連綿と続くこの辺りで一番立派な稲置神社。
そこに婿入りすると思っていた。
まぁ、間違っては無いな。
俺は極少ない荷物だけ持って、5年ぶりに家を出た。
今度は家出じゃなく結婚と言う大義名分を持って。
だから、今は本当にセツや青海が家族だ。
「私とデートに行きませんか。」
俺は未だに慣れないでいる。
どうもこの二人から出るカタカナが脳みそを混乱させる。
「流石に浮気はダメだと思うぞ」
「浮気じゃありませんっ、!見て下さい、これ絶対兄さんに似合うと思うんです。」
「ふーん。」
「なので、先ずは私とお買い物デートに行きましょう」
「良いねノッた。」
ーーーーー
その日、待ち合わせ場所に現れた青海は特別だった。
髪を上げ、薄い茶色のチェスターコートを羽織り白いマフラーと白いニットで逞しい身体付きを覆うと、長い足を更にスラリと見せる黒のスキニーを履いていた。
隣にいる紺も、外国人モデルかって様相で。
かなり人目を集めている。
俺とセツは互いに顔を見合わせた。
ーーやり過ぎた
二人は大いに反省し、ハラハラしたが。
実際には、絶世の美少年と色気たっぷりの青年が並んでいるだけで、20分前から人目を集めており、女性だけでなくソチラの男性も声を掛けようかとチラチラ窺っていた。
「紺様、とても素敵です。」
「お前寒く無いのか。」
キラキラの金髪美形が、眉を顰めて黒い爪で美少年の顎を掬う。
それだけで周囲はため息を漏らした。
「妙、か...」
「そんな訳ないだろ。俺の見立ては間違い無い。」
ニィッと笑う美青年が、脚の長いモデルの胸にトンと拳を当てる。
当てられた拳を上からスルリと撫でる手に、揃いの指輪が光るのを見て周囲はまた、ほぅとため息を吐いた。
「青海、」
「何だ。」
「皆が見てる」
「ダメか」
「ダメだろ、ほら早く行こう。」
手を繋ぐのも自由、キスをするのも自由、愛を囁いても良い。
けど、今俺が許せるのは手を繋ぐくらいかな。
あからさまに握るのはダメだろ。
恥ずかしいし。
指先を絡めるだけの手繋ぎをしたのに、前を行く紺とセツは堂々と腕を組んでいる。
「鱗太郎?」
「ちょっと、緊張して来た。」
人混みがあまり得意では無いし、キラキラしたかっこいい男と手を繋いで歩くのも初めてだし。
デートより、山歩きとか、キスとか、肌を合わせた数の方が多い。
「俺が、学校に通い始めた時も同じ様な気持ちになった。」
「学校?あんたが?」
「神職に必要で、高校と大学に行った。」
笑ってしまった。
槍と狩りが上手い男が、鉛筆と通学鞄、制服を着て学校に通ってたって?
「どんなだった?モテたろ。」
首を捻って唸る青海は面白い顔をしてる。
キムチを食べた時もこんな顔してた。
何でこんな物を食うんだって、だいぶ頭を抱えてた。
今も、そんな変な顔してる。
「勉強は面白かったが、イマイチ馴染めなかったな。」
「じゃあモテた?」
「恐らく、そうだが。全て断った。」
ふーん、と返した俺は悪く無い。
恋人が突然消えて100年待った。
ひと一人の一生が終わるくらいを一人で生きるなら。
別の恋人がひとりふたりくらい居ても、仕方無い。
「鱗太郎。」
「何?」
「恋人がいるから気持ちには応えられない、と全て断った。」
「そんなんで諦める奴居るのかよ。」
俺でもそんな理由じゃ諦めきれない。
繋いだ指先を少しだけキュッと握った。
「諦める諦めないでは無いがな。」
それは、孤独の100年の中で唯一の希望だった。
あの日、結界に入る前に誓った必ず待っていると言う約束だ。
俺も、ちゃんと帰って来るって言った。
100年も掛かったみたいだけど。
「それでも諦めない奴は居ただろ?」
「そうだな。」
「だって、あんたは良い男だし。凄く格好良い。」
多分、何と言われても俺は納得出来ない。
青海も証明出来ないし。
少しだけ卑屈になっているかも知れない。
「初めの30年、社を出る事も出来なかった。箸が使えない、厠は白い、洗濯機は煩い。鉛筆も握れない、漢字ドリルの前にひらがな、算数だった。何より、テレビの言葉は半分も理解出来ない。」
「それは、ヤバイな。」
「そうだ。その"ヤバい"もお前が使っていたなと思ったが、色んな場面で使うと分かって混乱した。俺は賢くない。100年の半分を高校受験までに使った。あとは大学で資格を取って稲置様、松様の為に努めた。此方はやる事が多過ぎる。お前の肌を思い出して辿るか、義務的に処理するだけだ。これでも、まだ不安か。」
「い、や、充分っ、」
俺が悪かったと言わざるを得ない。
そもそも再会して3時間も楽しんだんだ。
あの時の青海は、凄かった。
しつこくて、目が据わってて手が身体中を這い回った。
全部だ。
多分身体の全部を触られた。
頭皮、奥歯、喉、胸や腹。もっと下も、ローションが必要な孔とその間の膨らみも。全部触られた。
「変なこと聞いて悪かったっ、」
「俺も、聞きたい事が有る。」
「え、何?」
「今夜、触れても良いか。」
デートの初めに言うセリフじゃ無いだろ、とか。俺もあんたが欲しいとか、色んな言葉が胸をよぎったけど、此処は路上で人目もあるから。
変な言い方しか出来なかった。
「考えとく、」
考えるまでも無ぇのに、何格好付けてんだ。
既に腰がそわついてるって言うのに。
「なーにセツ。」
最初は義兄さま、と呼ぶセツをむず痒いから辞めてくれ、と言うと。
代わりにそう呼ぶようになった。
俺もセツとくっつくのは嫌いじゃない。
よく分からないけど、結界で覆われたこの町は俺の家族にも影響があった。
俺が、青海と一緒に家に戻ると何故だか。
俺は結婚報告をしに来た事になっていた。
嫁ぎ先は連綿と続くこの辺りで一番立派な稲置神社。
そこに婿入りすると思っていた。
まぁ、間違っては無いな。
俺は極少ない荷物だけ持って、5年ぶりに家を出た。
今度は家出じゃなく結婚と言う大義名分を持って。
だから、今は本当にセツや青海が家族だ。
「私とデートに行きませんか。」
俺は未だに慣れないでいる。
どうもこの二人から出るカタカナが脳みそを混乱させる。
「流石に浮気はダメだと思うぞ」
「浮気じゃありませんっ、!見て下さい、これ絶対兄さんに似合うと思うんです。」
「ふーん。」
「なので、先ずは私とお買い物デートに行きましょう」
「良いねノッた。」
ーーーーー
その日、待ち合わせ場所に現れた青海は特別だった。
髪を上げ、薄い茶色のチェスターコートを羽織り白いマフラーと白いニットで逞しい身体付きを覆うと、長い足を更にスラリと見せる黒のスキニーを履いていた。
隣にいる紺も、外国人モデルかって様相で。
かなり人目を集めている。
俺とセツは互いに顔を見合わせた。
ーーやり過ぎた
二人は大いに反省し、ハラハラしたが。
実際には、絶世の美少年と色気たっぷりの青年が並んでいるだけで、20分前から人目を集めており、女性だけでなくソチラの男性も声を掛けようかとチラチラ窺っていた。
「紺様、とても素敵です。」
「お前寒く無いのか。」
キラキラの金髪美形が、眉を顰めて黒い爪で美少年の顎を掬う。
それだけで周囲はため息を漏らした。
「妙、か...」
「そんな訳ないだろ。俺の見立ては間違い無い。」
ニィッと笑う美青年が、脚の長いモデルの胸にトンと拳を当てる。
当てられた拳を上からスルリと撫でる手に、揃いの指輪が光るのを見て周囲はまた、ほぅとため息を吐いた。
「青海、」
「何だ。」
「皆が見てる」
「ダメか」
「ダメだろ、ほら早く行こう。」
手を繋ぐのも自由、キスをするのも自由、愛を囁いても良い。
けど、今俺が許せるのは手を繋ぐくらいかな。
あからさまに握るのはダメだろ。
恥ずかしいし。
指先を絡めるだけの手繋ぎをしたのに、前を行く紺とセツは堂々と腕を組んでいる。
「鱗太郎?」
「ちょっと、緊張して来た。」
人混みがあまり得意では無いし、キラキラしたかっこいい男と手を繋いで歩くのも初めてだし。
デートより、山歩きとか、キスとか、肌を合わせた数の方が多い。
「俺が、学校に通い始めた時も同じ様な気持ちになった。」
「学校?あんたが?」
「神職に必要で、高校と大学に行った。」
笑ってしまった。
槍と狩りが上手い男が、鉛筆と通学鞄、制服を着て学校に通ってたって?
「どんなだった?モテたろ。」
首を捻って唸る青海は面白い顔をしてる。
キムチを食べた時もこんな顔してた。
何でこんな物を食うんだって、だいぶ頭を抱えてた。
今も、そんな変な顔してる。
「勉強は面白かったが、イマイチ馴染めなかったな。」
「じゃあモテた?」
「恐らく、そうだが。全て断った。」
ふーん、と返した俺は悪く無い。
恋人が突然消えて100年待った。
ひと一人の一生が終わるくらいを一人で生きるなら。
別の恋人がひとりふたりくらい居ても、仕方無い。
「鱗太郎。」
「何?」
「恋人がいるから気持ちには応えられない、と全て断った。」
「そんなんで諦める奴居るのかよ。」
俺でもそんな理由じゃ諦めきれない。
繋いだ指先を少しだけキュッと握った。
「諦める諦めないでは無いがな。」
それは、孤独の100年の中で唯一の希望だった。
あの日、結界に入る前に誓った必ず待っていると言う約束だ。
俺も、ちゃんと帰って来るって言った。
100年も掛かったみたいだけど。
「それでも諦めない奴は居ただろ?」
「そうだな。」
「だって、あんたは良い男だし。凄く格好良い。」
多分、何と言われても俺は納得出来ない。
青海も証明出来ないし。
少しだけ卑屈になっているかも知れない。
「初めの30年、社を出る事も出来なかった。箸が使えない、厠は白い、洗濯機は煩い。鉛筆も握れない、漢字ドリルの前にひらがな、算数だった。何より、テレビの言葉は半分も理解出来ない。」
「それは、ヤバイな。」
「そうだ。その"ヤバい"もお前が使っていたなと思ったが、色んな場面で使うと分かって混乱した。俺は賢くない。100年の半分を高校受験までに使った。あとは大学で資格を取って稲置様、松様の為に努めた。此方はやる事が多過ぎる。お前の肌を思い出して辿るか、義務的に処理するだけだ。これでも、まだ不安か。」
「い、や、充分っ、」
俺が悪かったと言わざるを得ない。
そもそも再会して3時間も楽しんだんだ。
あの時の青海は、凄かった。
しつこくて、目が据わってて手が身体中を這い回った。
全部だ。
多分身体の全部を触られた。
頭皮、奥歯、喉、胸や腹。もっと下も、ローションが必要な孔とその間の膨らみも。全部触られた。
「変なこと聞いて悪かったっ、」
「俺も、聞きたい事が有る。」
「え、何?」
「今夜、触れても良いか。」
デートの初めに言うセリフじゃ無いだろ、とか。俺もあんたが欲しいとか、色んな言葉が胸をよぎったけど、此処は路上で人目もあるから。
変な言い方しか出来なかった。
「考えとく、」
考えるまでも無ぇのに、何格好付けてんだ。
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