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私は、生かされた。
反旗を翻す恐れのある不穏分子は、処分されてしかるべき。
特に、一度でも帝位をかけて争った兄弟は。
それなのに蘇芳は、私を生かした。
もちろん、私はそんな事をする気は全く無い。
むしろ初めから、自分を消してでも蘇芳に帝位を渡すつもりだった。
でもそんな事を知るはずもない、私を嫌ってさえいた蘇芳は、なぜ私を生かしたのだろう。
ひどく殺風景な部屋の中で、長椅子に腰掛け、考え込む。
あの戦とも呼べないような戦の後、私はここに閉じ込められた。
蘇芳の宮の一角だと、聞いている。
わざわざそれを教えてくれる律儀さに、頬が緩む。
多少、言動はぶっきらぼうにはなれど、あの頃と本質は変わっていない。
見聞きしたこと、感じたこと、気付いたこと、その全てを、一生懸命、拙くも私に話してくれた、あの頃と。
蘇芳はもう、私の腕の中にすっぽりと収まるような小さな子どもではない。
立派な、次期皇帝たる男性に向けるべき言葉ではないけれど、今でもやはり、可愛いと思ってしまう。
思考が横道に逸れたところで、誰かが部屋に足を踏み入れる気配がした。
そちらに何の気なしに視線をやり、それが蘇芳だと気付いて驚く。
まさか蘇芳が私の所に来るとは思わず、半ば反射で立ち上がる。
「やめろ」
蘇芳は次の皇帝だからと礼を執ろうとして、肩を掴まれ止められた。
苛立ちを示すように、蘇芳の眉は寄せられている。
「すお……陛下」
「やめろ。俺を陛下と呼ぶな。なりたくて皇帝などになるわけではない」
私が呼び名を呼ぶのは気に障るだろうと敬称で呼べば、蘇芳は更に眉間に皺を寄せる。
怒らせたいわけではないのに。
私が何かする度に、蘇芳の機嫌を損ねてしまう。
どうしたらいいものかと、途方に暮れる。
「ごめんなさい」
何か言わねばと焦った結果、零れ落ちたのは謝罪だった。
「ごめんなさい、蘇芳」
謝る度に、蘇芳の眉間の皺は深くなる。
それに焦りが加速し、また謝罪の言葉を重ねてしまう。
「ごめんなさい」
「やめろ」
唐突に、強く引き寄せられた。
唇に温かく柔らかいものが触れる。
「んっ……ふぅ……!?」
蘇芳の顔が近い。
唇に触れているこれはつまり、そういうことで。
……蘇芳に、口付けられている。
蘇芳が、私に。
口付けを。
あまりの衝撃に緩んだ唇の隙間から、蘇芳の舌が侵入する。
「んぅ……ん……はぁ……」
口腔の粘膜を撫でるように触れられ、背筋にぞくぞくとした甘い痺れが走った。
力が、少しずつ抜けていく。
私を支えるように抱きとめる、少し高めの体温が心地良い。
「ふっ……ぅん……ふぁ……んんっ!?」
昔は、私の腕の中に収まっていたのは蘇芳だった。
それが今や、抱き締められているのは私の方。
大きくなったと、妙に冷静な頭の片隅で感慨深くなりつつ口付けを受け止めていると、蘇芳の舌が私の舌に絡み付き、扱き上げられた。
未知の感覚に震え、力を失った身体を蘇芳に預ける。
胸に押し付けるかたちになった耳に届く蘇芳の鼓動は、大きく、速い。
「す、おう……?」
乱れた息を整えながら蘇芳を見上げると、煌々と輝く金色に射すくめられた。
魅入られたように身体が動かなくなり、意識の全てを蘇芳に絡め取られる。
金の奥底に揺らめくのは、情欲の色。
その輝きに、思考すらも麻痺していく。
全く力の入らない身体を抱き上げ、奥へと足を向ける蘇芳。
さすがに、何をするつもりなのかは私にもわかる。
けれど、抵抗する気はない。
蘇芳の望むがままにさせてやりたいから。
そして何より、私も、それを望んでいるのだから。
反旗を翻す恐れのある不穏分子は、処分されてしかるべき。
特に、一度でも帝位をかけて争った兄弟は。
それなのに蘇芳は、私を生かした。
もちろん、私はそんな事をする気は全く無い。
むしろ初めから、自分を消してでも蘇芳に帝位を渡すつもりだった。
でもそんな事を知るはずもない、私を嫌ってさえいた蘇芳は、なぜ私を生かしたのだろう。
ひどく殺風景な部屋の中で、長椅子に腰掛け、考え込む。
あの戦とも呼べないような戦の後、私はここに閉じ込められた。
蘇芳の宮の一角だと、聞いている。
わざわざそれを教えてくれる律儀さに、頬が緩む。
多少、言動はぶっきらぼうにはなれど、あの頃と本質は変わっていない。
見聞きしたこと、感じたこと、気付いたこと、その全てを、一生懸命、拙くも私に話してくれた、あの頃と。
蘇芳はもう、私の腕の中にすっぽりと収まるような小さな子どもではない。
立派な、次期皇帝たる男性に向けるべき言葉ではないけれど、今でもやはり、可愛いと思ってしまう。
思考が横道に逸れたところで、誰かが部屋に足を踏み入れる気配がした。
そちらに何の気なしに視線をやり、それが蘇芳だと気付いて驚く。
まさか蘇芳が私の所に来るとは思わず、半ば反射で立ち上がる。
「やめろ」
蘇芳は次の皇帝だからと礼を執ろうとして、肩を掴まれ止められた。
苛立ちを示すように、蘇芳の眉は寄せられている。
「すお……陛下」
「やめろ。俺を陛下と呼ぶな。なりたくて皇帝などになるわけではない」
私が呼び名を呼ぶのは気に障るだろうと敬称で呼べば、蘇芳は更に眉間に皺を寄せる。
怒らせたいわけではないのに。
私が何かする度に、蘇芳の機嫌を損ねてしまう。
どうしたらいいものかと、途方に暮れる。
「ごめんなさい」
何か言わねばと焦った結果、零れ落ちたのは謝罪だった。
「ごめんなさい、蘇芳」
謝る度に、蘇芳の眉間の皺は深くなる。
それに焦りが加速し、また謝罪の言葉を重ねてしまう。
「ごめんなさい」
「やめろ」
唐突に、強く引き寄せられた。
唇に温かく柔らかいものが触れる。
「んっ……ふぅ……!?」
蘇芳の顔が近い。
唇に触れているこれはつまり、そういうことで。
……蘇芳に、口付けられている。
蘇芳が、私に。
口付けを。
あまりの衝撃に緩んだ唇の隙間から、蘇芳の舌が侵入する。
「んぅ……ん……はぁ……」
口腔の粘膜を撫でるように触れられ、背筋にぞくぞくとした甘い痺れが走った。
力が、少しずつ抜けていく。
私を支えるように抱きとめる、少し高めの体温が心地良い。
「ふっ……ぅん……ふぁ……んんっ!?」
昔は、私の腕の中に収まっていたのは蘇芳だった。
それが今や、抱き締められているのは私の方。
大きくなったと、妙に冷静な頭の片隅で感慨深くなりつつ口付けを受け止めていると、蘇芳の舌が私の舌に絡み付き、扱き上げられた。
未知の感覚に震え、力を失った身体を蘇芳に預ける。
胸に押し付けるかたちになった耳に届く蘇芳の鼓動は、大きく、速い。
「す、おう……?」
乱れた息を整えながら蘇芳を見上げると、煌々と輝く金色に射すくめられた。
魅入られたように身体が動かなくなり、意識の全てを蘇芳に絡め取られる。
金の奥底に揺らめくのは、情欲の色。
その輝きに、思考すらも麻痺していく。
全く力の入らない身体を抱き上げ、奥へと足を向ける蘇芳。
さすがに、何をするつもりなのかは私にもわかる。
けれど、抵抗する気はない。
蘇芳の望むがままにさせてやりたいから。
そして何より、私も、それを望んでいるのだから。
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