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猫だるま古書店・訪問編
いざ、神田神保町へ
しおりを挟む翌日、ミトラはJR秋川駅まで母に車で送ってもらい、JR五日市線立川行に乗車した。立川駅でJR中央線快速東京行に乗り換え、およそ四十五分で御茶ノ水駅に着く。
下車後は徒歩で七分ほど歩き、いよいよ見えてきたのが、日本全国各地から古書マニアが通うと有名な神田神保町だ。
靖国通りと白山通りが交わる神保町交差点を中心に、その周辺地域にかけて、大小合わせ約百八十店舗の古書店が立ち並ぶ。本好きにはとても魅力的な街に違いない。
ミトラは路上で足を止め、「うっ」と息を詰めた。
「……覚悟はしてたけど、霊気きっつう」
古書を専門に扱う書店が密集しているせいか、本魂の気配がものすごく濃い。
本魂となったつくも神特有のねばついて重苦しい圧が、霧のようにこの界隈を隅々まで覆っていて、ずっしりとのしかかってくる。
とてもじゃないけど、このままだと前に進めない。
「よかった。術道具、一通り揃えてきて」
ミトラは肩に下げたトートバッグから霊水の入った小瓶を取り出した。蓋を外してぐいと飲む。一番手っ取り早い、霊力の底上げだ。
霊水の他にも、霊符や短剣、塩、人形、鏡、遁甲盤などが入っている。
ただ衣装だけがない。本当は術を使うのなら式服が一番安全で、しかも動きやすいのに。
「でも着物・袴・水干姿で東京のど真ん中を歩くわけにはいかないしなー」
絶対にコスプレだと勘違いされる。それは嫌だ。
仕方ないので、白い七分の綿シャツにジーンズ。草履の代わりにスニーカーだ。
腰まで届くほど長く伸ばした黒髪は、後頭部で一つにまとめて垂らしている。
首には勾玉のネックレス、左手首には白硬玉の念珠。どれも魔除けだ。
ミトラは少し視線を落とし、自分の影に呼びかけた。
「――チズ。おいで」
「はあい」
舌足らずな声と共に、薄紅色の着物姿の美少女式神がミトラの影の中からするりと出てくる。
「およびですか。あるじさま」
大きな赤い瞳と小さな赤い唇。ふっくらした白い頬。サラサラの黒髪を二つに分けて赤い紐でキュッと結び、小首を傾げるチズはどえらく可愛い。
途端に外野がざわめく。
「うおっ、かわいー」
「おい、見ろよ。すげぇ和風美少女キタ」
小柄で華奢な庇護欲をそそる容姿のチズを、通行人たちがガン見して過ぎていく。
中には早速スマホを構える男もいて、ミトラが睨むとばつが悪そうに腕を下ろす。
「ったく、油断も隙もない……チズ、お手」
「おて!」
「それはバンザイ。お手はこう」
ミトラは素ボケしたチズに正しいお手を教えつつ、彼女の掌に指で隠形の手印を書く。
「これで人に見えても本魂には見えない、と」
「あるじさま。うち、おて、おぼえました!」
チズが得意げに胸を張る。
ミトラは「ほめて」とキラキラ眼を輝かせるチズの頭をなでなでして、言い聞かせた。
「これから本魂の巣窟街を歩いて抜けるから、フォローよろしく」
「ふろ?」
「違う。……もし本魂が襲ってきても、私に近づけないように対処してってこと」
言い直して念を押すと、チズは真剣な顔でコクコク頷いた。
……本当にわかったのかな?
いまいち不安は残るものの、一ヶ所に長くじっとしてても危険だ。本魂に見つかってしまう。
折悪しく、ちょうど『神保町さくらみちフェスティバル・春の古本まつり』が開催中だった。
イラストレーターの原画展やトークショー、音楽演奏会など様々なイベントが行われ、期間限定茶屋や廉価古本のワゴンセールも盛況で、どこもかしこも大賑わいだ。
その人混みの中に、あまり感じのよくない本魂もたくさん紛れている。
……ちょっと、いやすごく怖いけど、じーちゃんの頼みだ。行くしかない!
ミトラは精神統一した。
「行くよ」
「はあい」
パン! パン!
二柏手を打つ。
続けて口を開く。
「摩利支天の加護を賜りし 高橋の名において 恐み恐みも申す」
目指すは神保町四丁目一番地、『猫だるま古書店』。
ミトラは本魂たちの欲にまみれた圧の中に、頭から突っ込んだ。
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