5 / 14
猫だるま古書店・訪問編
ただいま隠密行動中
しおりを挟む
すぐに咒文を唱える。
「極めて汚濁き事も 滞り無ければ 穢濁きはあらじ 内外の玉垣 清し浄しと白す」
パン!
一柏手を打つ。
一切成就祓の祝詞でも、これだけ濃い霊気だと一度の読誦ではあまり効果がないようだ。
「極めて汚濁き事も」
ミトラは更に念を込めて読誦を繰り返す。
前を見て、人や物にぶつからないよう小走りで急ぐ。
「滞り無ければ 穢濁きはあらじ」
身体にまとわりつく本魂の圧は、まるで汚染された泥土によく粘る納豆を混ぜたみたいな感触で、非常に気持ち悪い。
「内外の玉垣 清し浄しと白す!」
掻き分けるように進んでも、なにかどろりとしたものが肌にべっとりと絡みつく。
足裏もアスファルトの地面から糸を引く感じだ。ちょうど蜘蛛の巣にかかった虫みたいに、もがけばもがくほど脱け出せなくなる状態によく似てる。
……うう、気色悪ぅ。
三度目の読誦は、左手首の念珠に念を注いで唱えた。
最後に、パン! と強く一柏手を打つ。
「ふう」
ゆっくりと霧が晴れるように、本魂の圧が薄らぐ。霊力の低い本魂は、本体である本に戻ったのだろう。
ミトラは不快な気分で辺りを見ながら、ぼやく。
「……ま、一時的なんだけどね。それにしても予想以上に本魂の数が多いわー。それだけ古い本があるってことかなぁ」
本魂は本が古ければ古いほど強くなる。
本に込められた思念や執着の分だけ、善にも悪にも転ぶ。
個々に性格も違って、おとなしく本の中にいればよし。そうでなければ、人に化けたり、動物に化けたり、霊体でふらふらしたり、言うこと成すこと本魂も色々だ。
「これだけドロドロの嫌な霊気が溜まってるとなると、神保町には欲求不満な本魂がやたらと多いってことなんだよねぇ。……うん、絡まれたら厄介だな。急ごう」
標識を探したけど、神保町四丁目の案内が見つからない。仕方ないので、靖国通りを九段下方面に向かう。三丁目がその近辺なので、四丁目はもっと奥に違いない。
神保町交差点に差しかかったところで、ミトラは目の前に広がる光景にギョッとした。
「なにこの人だかり……」
うんざりするほどごった返している。
周辺は高層ビルや出版関連の建物がずらりと並び、飲食店も多く、車の往来も激しい。
祭りらしくのぼり旗がはためき、紅白の提灯が吊るされている。
歩道には古本を積んだワゴンが置かれ、欲しい本を物色する人でムチャクチャ混雑していた。
ミトラは一気に突っ切りたい気持ちを諦めた。チズを振り返り、唇に人差し指をあてて言う。
「しー」
「しー」
チズが両手で口元を押さえた。
ミトラは頷き、小さく耳打ちする。
「人波に紛れて行こう」
「はあい」
目立たないよう、周囲と足並みを乱さず歩く。チズはトコトコとついてくる。
ちなみに、すれ違いざま耳に届く「あの子メッチャ可愛い」とか「声かけてみるか」という下心満載な声は聞こえないふりだ。
雑多な喧騒に集中するミトラの耳に、肉声ではない本魂の声が響いた。
「……なにかおるなあ」
「おるなあ」
軽い相槌と辺りを探る鋭い視線。
ギクリとして、ミトラは思わず固まった。
つられてチズも立ち止まる。
息を殺して耳を澄ます。緊張のあまり、額にじっとりと嫌な汗がにじむ。
「姿が見えんの。ちと珍しくないか」
「ほっほう。なんと、この気配は器ごと乗っ取れそうじゃな」
「うむ。遊べそうな人の子だのう……近いのう。どこかのう」
怖い会話を聞いて、ミトラは震えた。ついうっかり、そちらを見てしまう。
……うっわ、やば!
バッチリ眼が合った――ような気がした。
「極めて汚濁き事も 滞り無ければ 穢濁きはあらじ 内外の玉垣 清し浄しと白す」
パン!
一柏手を打つ。
一切成就祓の祝詞でも、これだけ濃い霊気だと一度の読誦ではあまり効果がないようだ。
「極めて汚濁き事も」
ミトラは更に念を込めて読誦を繰り返す。
前を見て、人や物にぶつからないよう小走りで急ぐ。
「滞り無ければ 穢濁きはあらじ」
身体にまとわりつく本魂の圧は、まるで汚染された泥土によく粘る納豆を混ぜたみたいな感触で、非常に気持ち悪い。
「内外の玉垣 清し浄しと白す!」
掻き分けるように進んでも、なにかどろりとしたものが肌にべっとりと絡みつく。
足裏もアスファルトの地面から糸を引く感じだ。ちょうど蜘蛛の巣にかかった虫みたいに、もがけばもがくほど脱け出せなくなる状態によく似てる。
……うう、気色悪ぅ。
三度目の読誦は、左手首の念珠に念を注いで唱えた。
最後に、パン! と強く一柏手を打つ。
「ふう」
ゆっくりと霧が晴れるように、本魂の圧が薄らぐ。霊力の低い本魂は、本体である本に戻ったのだろう。
ミトラは不快な気分で辺りを見ながら、ぼやく。
「……ま、一時的なんだけどね。それにしても予想以上に本魂の数が多いわー。それだけ古い本があるってことかなぁ」
本魂は本が古ければ古いほど強くなる。
本に込められた思念や執着の分だけ、善にも悪にも転ぶ。
個々に性格も違って、おとなしく本の中にいればよし。そうでなければ、人に化けたり、動物に化けたり、霊体でふらふらしたり、言うこと成すこと本魂も色々だ。
「これだけドロドロの嫌な霊気が溜まってるとなると、神保町には欲求不満な本魂がやたらと多いってことなんだよねぇ。……うん、絡まれたら厄介だな。急ごう」
標識を探したけど、神保町四丁目の案内が見つからない。仕方ないので、靖国通りを九段下方面に向かう。三丁目がその近辺なので、四丁目はもっと奥に違いない。
神保町交差点に差しかかったところで、ミトラは目の前に広がる光景にギョッとした。
「なにこの人だかり……」
うんざりするほどごった返している。
周辺は高層ビルや出版関連の建物がずらりと並び、飲食店も多く、車の往来も激しい。
祭りらしくのぼり旗がはためき、紅白の提灯が吊るされている。
歩道には古本を積んだワゴンが置かれ、欲しい本を物色する人でムチャクチャ混雑していた。
ミトラは一気に突っ切りたい気持ちを諦めた。チズを振り返り、唇に人差し指をあてて言う。
「しー」
「しー」
チズが両手で口元を押さえた。
ミトラは頷き、小さく耳打ちする。
「人波に紛れて行こう」
「はあい」
目立たないよう、周囲と足並みを乱さず歩く。チズはトコトコとついてくる。
ちなみに、すれ違いざま耳に届く「あの子メッチャ可愛い」とか「声かけてみるか」という下心満載な声は聞こえないふりだ。
雑多な喧騒に集中するミトラの耳に、肉声ではない本魂の声が響いた。
「……なにかおるなあ」
「おるなあ」
軽い相槌と辺りを探る鋭い視線。
ギクリとして、ミトラは思わず固まった。
つられてチズも立ち止まる。
息を殺して耳を澄ます。緊張のあまり、額にじっとりと嫌な汗がにじむ。
「姿が見えんの。ちと珍しくないか」
「ほっほう。なんと、この気配は器ごと乗っ取れそうじゃな」
「うむ。遊べそうな人の子だのう……近いのう。どこかのう」
怖い会話を聞いて、ミトラは震えた。ついうっかり、そちらを見てしまう。
……うっわ、やば!
バッチリ眼が合った――ような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる