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猫だるま古書店・訪問編
セーフかアウトか!?
しおりを挟む茶屋で寛ぐのは、着流し姿の一見穏やかで人が好さそうなじーちゃんたち。
だが間違えようもなく本魂だ。霊気も霊力も霊格も、半端なく強い。人間のふりしてのんびり茶を啜っているけど、足元に影がない。その代わり、魂の糸のようなものが光っている。
しかも流暢な喋り方からして、かなり古い本の宿主のような気がする。
万一見つかりでもしたら、マジで身体を乗っ取られるかもー!? いや!
……向こうからこっちは見えていないはずだし!
セーフ!?
ミトラはダラダラと冷や汗をかきながら、ゴクリと唾を飲む。そろりと視線を逸らす。
その瞬間、じーちゃん本魂たちが猛烈な勢いでこちらにぶっ飛んできた。
「アウトだったー!」
「あうとだったー!」
子供みたいになんでもミトラの真似をしたがるチズは、呑気にはしゃぐ。
「チズ、おいで!」
叫んでダッ、と駆け出す。ミトラは急いで結界の咒文を唱えた。
「祓え給い 浄め給え 急急如律令!」
まさに間一髪だった。
読誦直後、結界に、ドン! と霊体がぶち当たる音が響く。
続けて忌々しそうな呟きが聞こえる。
「うぬう。なんじゃ、なにやら硬い殻があるのう」
「うひょひょひょひょ。殻など壊せばよいわい。どうだ、わしとおぬしでやってみんか」
言い終えるが早いか、じーちゃん本魂たちの霊気がぶわっと膨れ上がる。
ミトラは真っ青になり、チズと一緒に転げるように逃げ出す。
「すみません、通ります! ごめんなさい、前に行かせてくださいっ!」
大勢が行き来する混雑の中をむりやり走るのだから、当然人にぶつかる。
「きゃあっ」
「痛てぇな! ねぇちゃん、気ぃつけろや!」
「ちょっと、どこ見て歩いてるのよ!」
「うおっ。なんだなんだ!?」
大迷惑この上ないとんだ祭り荒らしだが、ミトラも必死だ。
罵詈雑言と文句を浴びながら、「すみません」と「ごめんなさい」を繰り返し、強引に人波を掻き分ける。ミトラは息せき切って、表通りから裏通りへ通じる道へ逸れた。
そうこうする間にも、どんどん背後の霊圧が増してくる。
かつてない危機感を覚え、恐る恐る振り返る。ミトラは思わず「ひえっ」と悲鳴を上げた。
「かーらーだーをーよーこーせーえええええ」
「どーこーにーかーくーれーたーあああああ」
いまや咆哮を上げて、凄まじい数の本魂が一塊の群団となって追ってくる。
ちょうど居合わせた中には霊感のある人もいて、怯えた顔でキョロキョロ辺りを見回す。
「ねぇ、なんか寒気がしない?」
「いま急にゾクッとした!?」
段々と騒ぎが大きくなってきた。
それもそのはず。
たとえ結界でミトラたちの姿が見えなくても、「なんとなく」や「なにか面白そうだ」と流されやすい本魂たちがこぞって集結しつつある。
ミトラはトートバッグから除不浄の霊符を抜いて、両手に持った。念を込める。符を構え、ヤケクソで唸った。
「だーかーらーこの街に来るのは嫌だったのにいいいいいい」
……恨むよ、じーちゃん!
ミトラは力ずくで結界を破ろうと押し寄せる本魂を、霊符で右に左に薙ぎ祓いつつ、裏小路をひた走る。
彼女の背後では、戦闘モードに入ったチズが素手で奮闘していた。
「えい、えい」
着物の袖を揺らしつつ、チズは群がる本魂をちぎっては投げ、ちぎっては投げる。
「やあ。とう。てい」
チズの長い髪が舞う。小さな手が本魂をむずと掴んでは放り捨てる。
一途にミトラの背中を守りながら、チズが言う。
「あるじさま。けっかいがやぶられそうです」
「わかってる! もうちょい、頑張って。って、ここどこ!?」
そのとき、『神保町三丁目』という標識がミトラの眼に入った。
思わず、通りすがりのぽっちゃりおばちゃんを捕まえてミトラは訊いた。
「あの! 神保町四丁目一番地ってどっちでしょうか!?」
いきなり大声で問われたおばちゃんはびっくりした顔をして、それから怪訝そうに答えた。
「どっちって……神保町は三丁目までさ。四丁目なんてないよ」
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