12 / 14
猫だるま古書店・訪問編
本の所有者
しおりを挟む「ええっ。どうして!?」
ミトラは驚きのあまり、強い語調で問い詰めた。
アジャリが着物の袖に両腕を通して腕組みする。
「この本の本魂が『出戻るのは嫌だ』と駄々をこねているからです」
本魂、と聞いただけでミトラは震え上がった。つい素で喚く。
「本魂憑きの本だなんて聞いてないし!」
するとアジャリも取り繕った表情をやめて、敬語を崩す。
「落ち着いて。僕が悪さをさせないよ」
頼もしく微笑んだ後、アジャリは少し言い辛そうに打ち明けた。
「実を言うと、ここには年代物の古書がたくさんあるから、本魂も結構な数がいてね。だけど勝手な真似ができないよう強力な結界を張ってあるし、僕が生殺与奪の権利を握っている。誰も僕には逆らえないんだ。だから、君の身の安全は保障するよ。怖がらなくても大丈夫。ね?」
穏やかそうなのに、どこか不敵で怖い感じがする笑顔に気圧されて、ミトラは頷いた。
おずおずと訊ねる。
「それなら……私はどうすれば? 本魂憑きの本なんて持ち帰っても、扱いに困るんですけど」
アジャリが視線を問題の本に落とす。
「『いずれ必要になるから手放すな』って言ってるね。彼曰く、那加麿氏が亡くなった時点で、この本の所有者は君らしいよ」
「は!? なんで!?」
「君が高橋流第四十七代目次期当主だから」
アジャリがあっさり告げた。
ミトラはサッと気色ばむ。アジャリを警戒し、強張った顔で座布団から腰を浮かせた。心の動揺を悟られないよう感情を抑え、視線を彼に据えたまま凄む。
「……誰に聞きました?」
鋭い問いかけに、アジャリはちょいちょいと指を動かし、件の本を指す。
「彼の主張によると、この本は代々高橋流の当主に受け継がれてきた物みたいだね」
ミトラは拳を握り、冷然と言い返した。
「高橋流の当主は、私の父ですけど」
「神社の宮司じゃなくて、陰陽師の跡目の方。術の伝承者だから、君で間違ってない」
淡々と、だが確信を得ている声でアジャリは言った。
しばらく無言で見つめ合う。
ややあって根負けしたミトラは深い溜め息をついた。
「……まだ身内以外には秘密なんです。公にはしないでくださいよ」
「うん、わかった」
素直にコクリと頷くアジャリに、なぜかイラっとくる。
ミトラは不機嫌そうにそっぽを向いて、ブツブツ独りごちた。
「でもわからない。この本が私に受け継がれる物なら、どうしてじーちゃんはわざわざこの店に本を返しに行けなんて遺言を残したのかなあ」
「さあ、どうしてだろうね」
勝手にミトラの独り言を聞き拾ったアジャリが、口に手をあて、含み笑いを漏らす。
……嫌な笑い方だ。
ミトラはニヤニヤする彼をジト目で見て訊く。
「なにか知ってるなら教えてくださいよ」
だがアジャリは茶目っ気たっぷりに片目を瞑って、うやむやにしてしまう。
「喉が渇いたね。お茶にしようか」
そう言うと、アジャリは着物の袂から小さな鈴を出して鳴らした。
間を置かず、スッと襖が開く。
片膝をついて控えていたのは、頭に萎烏帽子をかぶり、服は直垂に括袴を合わせ、脛に布を巻いた脛巾の若い男だ。
「お呼びでしょうか」
「茶を頼む」
「は」
男は短く応答し、襖を閉める。
ふと沈黙が落ちた。
ミトラはなにげなく手元の鎮奇怪符の霊符に眼を遣り、ここで初めて違和感を覚えた。
「……あれ?」
よく見れば、筆跡が違う。紙質も普段ミトラが使用する物よりずっと上質な物だ。
「まさか」
そのまさかだった。
符に込められた力が異なる。ミトラの至誠の念ではなく、凄まじく強い神気が宿っている。
ミトラの顔から血の気が引いた。霊符を握る手がブルブルと震える。
「この符、私の物じゃない……!」
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる