本魂呼びの古書店主(代理)

安芸

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猫だるま古書店・訪問編

本の所有者

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「ええっ。どうして!?」

 ミトラは驚きのあまり、強い語調で問い詰めた。
 アジャリが着物の袖に両腕を通して腕組みする。

「この本の本魂ほんたまが『出戻るのは嫌だ』と駄々をこねているからです」

 本魂、と聞いただけでミトラは震え上がった。つい素で喚く。

「本魂きの本だなんて聞いてないし!」

 するとアジャリも取り繕った表情をやめて、敬語を崩す。

「落ち着いて。僕が悪さをさせないよ」

 頼もしく微笑んだ後、アジャリは少し言い辛そうに打ち明けた。

「実を言うと、ここには年代物の古書がたくさんあるから、本魂も結構な数がいてね。だけど勝手な真似ができないよう強力な結界を張ってあるし、僕が生殺与奪せいさつよだつの権利を握っている。誰も僕には逆らえないんだ。だから、君の身の安全は保障するよ。怖がらなくても大丈夫。ね?」

 穏やかそうなのに、どこか不敵で怖い感じがする笑顔に気圧けおされて、ミトラは頷いた。
 おずおずと訊ねる。

「それなら……私はどうすれば? 本魂憑きの本なんて持ち帰っても、扱いに困るんですけど」

 アジャリが視線を問題の本に落とす。

「『いずれ必要になるから手放すな』って言ってるね。彼いわく、那加麿なかまろ氏が亡くなった時点で、この本の所有者は君らしいよ」
「は!? なんで!?」
「君が高橋流第四十七代目次期当主だから」

 アジャリがあっさり告げた。
 ミトラはサッと気色ばむ。アジャリを警戒し、強張った顔で座布団から腰を浮かせた。心の動揺を悟られないよう感情を抑え、視線を彼に据えたまま凄む。

「……誰に聞きました?」

 鋭い問いかけに、アジャリはちょいちょいと指を動かし、くだんの本を指す。

「彼の主張によると、この本は代々高橋流の当主に受け継がれてきた物みたいだね」

 ミトラは拳を握り、冷然と言い返した。

「高橋流の当主は、私の父ですけど」
「神社の宮司ぐうじじゃなくて、陰陽師の跡目あとめの方。術の伝承者だから、君で間違ってない」

 淡々と、だが確信を得ている声でアジャリは言った。
 しばらく無言で見つめ合う。
 ややあって根負けしたミトラは深い溜め息をついた。

「……まだ身内以外には秘密なんです。おおやけにはしないでくださいよ」
「うん、わかった」

 素直にコクリと頷くアジャリに、なぜかイラっとくる。
 ミトラは不機嫌そうにそっぽを向いて、ブツブツ独りごちた。

「でもわからない。この本が私に受け継がれる物なら、どうしてじーちゃんはわざわざこの店に本を返しに行けなんて遺言を残したのかなあ」
「さあ、どうしてだろうね」

 勝手にミトラの独り言を聞き拾ったアジャリが、口に手をあて、含み笑いを漏らす。

 ……嫌な笑い方だ。

 ミトラはニヤニヤする彼をジト目で見て訊く。

「なにか知ってるなら教えてくださいよ」

 だがアジャリは茶目っ気たっぷりに片目を瞑って、うやむやにしてしまう。

「喉が渇いたね。お茶にしようか」

 そう言うと、アジャリは着物のたもとから小さな鈴を出して鳴らした。
 間を置かず、スッとふすまが開く。
 片膝をついて控えていたのは、頭に萎烏帽子なええぼしをかぶり、服は直垂ひたたれ括袴くくりはかまを合わせ、すねに布を巻いた脛巾はばきの若い男だ。

「お呼びでしょうか」
「茶を頼む」
「は」

 男は短く応答し、襖を閉める。
 ふと沈黙が落ちた。
 ミトラはなにげなく手元の鎮奇怪符ちんきかいふの霊符に眼をり、ここで初めて違和感を覚えた。

「……あれ?」

 よく見れば、筆跡が違う。紙質も普段ミトラが使用する物よりずっと上質な物だ。

「まさか」

 そのまさかだった。

 符に込められた力が異なる。ミトラの至誠しせいの念ではなく、凄まじく強い神気が宿っている。
 ミトラの顔から血の気が引いた。霊符を握る手がブルブルと震える。

「この符、私の物じゃない……!」

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