本魂呼びの古書店主(代理)

安芸

文字の大きさ
14 / 14
猫だるま古書店・訪問編

ドア・イン・ザ・フェイスの罠

しおりを挟む

 ミトラはそう申し出て、座布団から下り畳に両手をつく。
 アジャリは「困ったな」と呟いて、頭を掻いた。

「君にお願いしたいことなら、あるにはあるけど……」

 ミトラはパッと顔を輝かせ、勢い込んで問い詰めた。

「なんですか。言ってください」

 アジャリは顔を赤くした。恥ずかしそうなそぶりで懐からある物を取り出し、ミトラに手渡す。
 ミトラが受け取ったのは四つ折りの紙だ。なんだろう、といぶかりながら紙を広げる。

「『婚姻届』?」

 実物は初めて見た。
 ミトラが「これがなにか?」と眼をぱちくりすると、アジャリはボソッと告げた。

「僕の奥さんになって」
「――は?」

 唐突すぎて理解できない。ミトラは思わず声を大にして訊き返した。
 アジャリは着物の裾を優雅にさばき、ミトラの目の前に移動して正座する。
 そして色気を備えた大人の男のくせに、やたらと可愛く照れて言う。

「僕の奥さんになってください」
「いや、無理です」

 ミトラは即行で『婚姻届』を突き返し、きっぱり断る。

「僕が嫌い……?」

 アジャリは悲しそうな顔をした。ミトラは慌てて首を横に振り、否定する。

「そうじゃなくて、私はまだ十五歳です。法律で結婚できる年齢に達してませんし、それに」

 ミトラは先を言いかけて黙り込む。

「それに?」

 案の定、言葉の続きが気になったのか、アジャリが追及してくる。

「……個人的なことなので喋りません。とにかく、結婚は無理です! 他になにかありませんか」

 だがアジャリはしつこかった。キラキラ笑顔を浮かべて、膝を詰めて迫ってくる。

「婚約でもいいよ」
「えっと、できれば婚姻関係を除いたお願いがいいです」

 ミトラが尻込みし逃げ腰になると、素早い動きでアジャリに手を押さえられた。
 アジャリがにっこり笑う。

「じゃあ僕の恋人になって」
「ひー」

 ミトラはとうとうを上げた。心配性な兄のトチ狂った脳内妄想が現実になってしまった。
 離れたいのに手を放してくれないアジャリが、言質げんちを取ろうと訊いてくる。

「いま『はい』って言った?」
「言ってませんよ、一言も!」

 アジャリの耳はずいぶんと彼に都合よくできているらしい。
 なんだか強引に押し切られそうな雰囲気にぞっとして、ミトラは悲鳴まがいの声を放つ。

「結婚とか婚約とか恋愛以外の頼みごとなら、なんでもしますから!!」

 ミトラの必死さが伝わったのか、アジャリは渋々と妥協案を出してくる。

「だったら、この店の店主を任せようかな。いい?」
「はい!」

 つい、流れと勢いで返事してしまった。
 ミトラが我に返るより先に、アジャリは上手うまく話をまとめてしまう。

「よかった。じゃあ早速今日から住み込みで頼むね。これからよろしく、高橋日月たかはしかづきちゃん」

 にやりと腹黒く笑ったのは、アジャリか猫だるまか――。

 同席しながら物静かに置物化していた源氏は、そっと溜め息をついた。

しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

紅葉
2017.12.02 紅葉

読後「ヒェッ」と小さく叫んでしまいました。
本魂ちょっと不気味ですね。
そっか、そんな感じなんだな。と脳内補正。
ミトラちゃんの活躍を期待しております。

2017.12.04 安芸

 こんばんは、紅葉様! 感想ありがとうございます。

 本魂は、神寄りの物の怪、という括りに設定しております。
 なので、色々ですね。
 ミトラはこれからも頑張りますので、引き続きよろしくお願い致します。
 安芸でした。

解除
紅葉
2017.12.01 紅葉

お兄さまのキャラも安芸さまらしいキャラで嬉しかったです。
チズちゃんは普通の人にも見えるのですね。
この先も楽しみです。

2017.12.02 安芸

 こんばんは、紅葉様! 感想ありがとうございます。
 
 たびたびのご来訪嬉しいです~。
 まだ名無しの兄ですが、妹愛が炸裂したら再び出番が来ることでしょう。
 チズは式神なのでフツーに見えます。
 フツーじゃなくても見える奴らも盛りだくさん……。
 引き続きよろしくお願い致します。
 安芸でした。
 

解除
紅葉
2017.11.27 紅葉

ミトラちゃんは本に憑くつくも神だけに影響をうけるのですね。それなのに古書店が軒を連ねるところに行かなきゃならないなんて、それは大変だ~。
次話も楽しみにしています。

2017.11.30 安芸

 こんばんは、紅葉様! 感想ありがとうございます。
 
 ミトラは本魂に対して耐性がものすごーく低いです。そのため本魂にはビビりになってしまい、古書店はやばい場所になります。でも本好きではあるという、割と可哀想な性質持ちですね。
 明日からは連続更新しますので、よろしくお願い致します。
 安芸でした。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。