Soldaten! (ゾルダーテン!)

柴崎きりを

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第四章 青海の檻

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 ぱん、という音が遠くから響いてきた。

 赤羽隼あかばねしゅんは反射的にベッドから飛び起きると、直ぐさま入り口のドアに張り付き、辺りの気配を伺った。

 今のは……銃声。

 未だに船酔いで青い顔をしながらも、部屋の外で何が起きているのか、息を殺して何とか様子を探ろうとする。
 昨日乗船してから今の今まで、まともに飯も水も取れていない。胃に何か入れると、直ぐにトイレに駆け込む羽目になった。
 おかげで丸一日半、ベッドで横になってるかトイレの便器を抱え込んでるかしかなく、内臓が裏返るかと思うくらい吐いて吐いて吐きまくった。
身体は完全な脱水状態で動きが重く、頭の中は薄く濁った膜が張ってるように思考が冴えない。
 しかし先程聞こえた破裂音は明らかに銃弾の発射音。何万何億回と聞いた音、聞き間違えるはずはない。
 自分が寝込んでる間に何か異常事態が起きたのだと察知し、重い体と頭を無理やり覚醒させて、まずは事態の把握と何か武器になるものを調達しに行く。

 今手元に有る武器になる様な物は、昔から愛用しているツールナイフ一丁と3Dプリンターで加工した使い捨ての拳銃と弾丸六発しかない。
 万が一を想定して使い捨ての拳銃を用意してきたのだが、まさかこんな海の上で本当に必要になる事態に出くわすとは、正直隼は予想していなかった。
 
 それもまた、日本という国の平和というぬるま湯に少しづつ浸ってしまったが故の、隼の油断でもあった。
 しかし今はそんな事をひとり後悔してる場合ではない。
 今この船内で何が起こっているのか、そして隼の第一の使命である美優の無事を確認する必要がある。その上で敵の数、装備と配置、目的を把握しなければならない。
 
 そう簡単に救援や救助に来れない洋上で事を起こすのだから、相手は相当に練った作戦でいるはず。

隼は考える。

 まず敵がどう行動を起こすにせよ、165人全員の乗員を人質にする必要がある。そしてそれを自分たちの目の届く範囲で一元管理するには、それ相応の広い場所が必要になる。そうなると人質が集められる場所は船上のデッキか船内で様々なイベトが行われる多目的ホールしかない。
 だが先程隼の耳に聞こえた発砲音は明らかに屋外での破裂音。ということは美優を含めた乗員たちは皆船上のデッキに集められている可能性が高い。

まずは外に出なければ。

 隼は一旦扉から離れると、まずは自分の荷物からツールナイフ、使い捨ての拳銃と弾薬六発、そして幾重にも輪上に束ねた細い鋼線を取り出す。拳銃は運動着のズボンの腰のゴム部分で挟み、ツールナイフと鋼線はそれぞれズボンの左右のポケットに仕舞う。
 続いてバンダナを鼻と口を覆うようにして巻き、顔を隠す。
 そしてもう一枚バンダナを取り出すと、今度はそれをツールナイフで半分に切り裂き、それを左右の手に指を抜いた状態で巻きつける。グローブの代わりにバンダナで手を保護するのだ。

沸々ふつふつと傭兵時代の感覚が蘇ってくる。静かに、でも血がたぎるような熱い感覚が頭の芯から足先まで駆け巡る。

 次に何か使えるものは無いかと狭い部屋中を見回し、そして同室の仲間の荷物に目をつける。
 ルームメイトの荷物はやや大きめのスポーツバッグに、着替えや携帯ゲーム、電子辞書にお菓子を目一杯詰め込んできたようで、ほぼ遠足か修学旅行のノリだ。
特に何も目ぼしいものは無いと見切りをつけようとしたところで、バッグを漁る指にこつんと固いものが当たった。
 取り出してみるとちょうど手の平ぐらいの、ヘアーセットに使う手鏡だった。
それもポケットに忍ばせると、気配を殺しながら再び部屋のドアへと忍びよる。
音も無くドアに近づくと、隼はぐっと身を屈め、ピタリとドアにくっつきノブに手を掛け、ゆっくりとそして数センチだけドアを開く。

 隼は開いた隙間の地面スレスレの所から手鏡を静かに差し込み、鏡を使って辺りに敵が潜んでないか確認する。
 鏡に映る廊下はおよそ広いとは言えない、すれ違う時に少し気を使わなければならない程の幅で、左右に長く伸びている。

 この船は五階構造になっており、一階、二階は貨物室、トラックや乗用車の貨物運搬に使うトラックデッキとなっている。乗員の船室やレストラン、ラウンジバーなどの娯楽施設は三階から上に当たり、隼はいま三階の二等船室に居る。
 
 人気のない廊下はひっそりと静寂が漂い、唾を呑む音すら辺りに響きそうだ。
 隼は扉から滑る様に出て、身を屈めて拳銃を下向きに構えながら、音も無くそして素早くホールエントランス側へと向かう。

(続く)
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