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第四章 青海の檻
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ホールエントランスは船のほぼ中央に位置する広々とした空間で、船を垂直に貫くように螺旋階段が設置され、上階から下階まで行き来できる。
壁際にはいくつかの自動販売機が静かな唸り声をあげ、ホールの隅の方には小さいながらガラス張りの喫煙ブースがある。
隼はホールエントランスに近づくと一旦歩みを止め、入り口の縁に身を隠すようにしながら中の様子をうかがう。
息を殺してじっと耳を澄ましながら辺りを見回すと、丁度隼の居る反対側の方、螺旋階段の辺りに二人の男がうろうろしている。
二人とも船員の服を着てはいるが、明らかに挙動が不自然だ。そして手にはなにか黒くてごつい物を持っている。どうやら銃を所持しているようだ。
「しかしよぉ、ガキども前の方に全部集めてんだから、こんな所に見張りしてたって意味ないんじゃねぇ?」
「だよなぁ。でも、ま、面倒な事はせずにこうやってサボれるわけだから楽でいいんじゃねぇか?」
二人の男がタバコを加えながら、緊張感の欠片もない様子で談笑している。およそ見張りの役割に見合うような連中ではないようだ。辺りを全く警戒していない。ほぼ素人のようだ。
(……さて。どうするか)
隼は見張り二人をどう処理するか、隠密に事を進めるために一瞬思案する。
と、そこへ。
ポケットに入れていた携帯電話が着信のベルをけたたましく鳴らす。
狭い通路側に居るからベルの音は大きく反響してホールに居る見張りの二人の耳にも届く。
(ちっ。マズったな…。このタイミングで鳴らしやがって。ロブのアホめ。)
携帯電話を消音設定にしていなかった隼の迂闊さ。この辺りがやはり船酔いで鈍っている思考力の表れだろう。ちなみにこの携帯電話の番号を知っているのはロバートしかいない。電話をかけてきたロバートを呪いながら、どう動くか瞬時に判断する。
(この一瞬でやるなら…あれか)
隼は独り呟くとツールナイフのブレードを引き上げ、直ぐ上の天井を見上げた。
ホールに携帯の着信ベルが大きく鳴り響く。
「…ひっ!」
「! おいっ。誰かいやがるっ」
携帯ベルの音に酷く驚愕した見張りの二人は、互いに顔を見合わせながら顔に緊張の色を浮かべる。まさか誰かが居るというのは思いもよらなかったのだろう。
「お、おい。どっ、どうする?」
「何ビビってんだよ。オマエ行けよ」
「いやオマエこそ行けよ。どうせガキが隠れてんだろうし」
どっちが見に行く、行かない、なんて二人で数分ほどグダグダやりながら、結局二人で確かめに行くことで落ち着いた。
縦列に並び五メートル程の間隔を開けて、男二人は通路に向かっていく。
手には銃を持ちながらも、腰が引けながら前に進んでいく二人。辺りをきょろきょろと落ち着きなく見回しながら、緊張の面持ちで通路を進む。
軍事訓練も何も受けていない、完全な素人の仕草だ。
先頭の男がビクビクしながらもゆっくり歩みを進め、音がしたと思われる辺りの船室のドアを開けようとする。
一瞬頭の上の空気が揺らぐ。そして。
狭い通路の天井に、まるで突っ張り棒の様に手足を伸ばして天井に張り付き隠れてた隼が突如、後方に付いてた男の後ろへと、正にハヤブサが舞い降りるかのように音も無く降り立つ。
後方の男が妙な気配を後ろに気付いた時、男の運命はそこで終わった。
隼は男の後ろ髪を掴み、ぐっと前へと押し込み強引に俯かせると、隼のツールナイフが男の盆の窪に、生命維持に重要な神経系の集束する延髄にずむりと突き立てる。
頭蓋骨と頸椎の隙間をつきナイフのブレードが延髄を切断すると、白目をむきながら男は声を上げる間もなく絶命し、そのまま床に崩れ落ちる。
どさり、と何かが床に倒れ落ちる音に驚いて前方にいたもう一人の男が、不意にこちらを向く。
相棒が床に何故か倒れてる、そう認識した瞬間には男の胸元に隼が黒豹の様に飛び込み、今度は男の喉元へツールナイフが突き刺さる。
喉に一瞬固く冷たいものが入り込んできた刹那、それは灼ける様な激痛へと変わる。
声帯を切断されてるので男が断末魔を上げようとするが、ひゅーという空気が漏れる音の後、ゴボゴボと口から湧き水の様に溢れ出した血が邪魔をして、叫ぶこともできない。
もう一人の男もそのまま絶命すると、近くの船室へそのまま二人纏めて男の死体を放り込む。当然男達の持っていた拳銃と弾丸を奪い、それを装備する。
(……さて。)
改めて隼は思案する。
先程の銃を持ってる男達の存在のおかげで、この船が何者かに乗っ取られたことはハッキリした。
相手の規模と目的を知りたいところだが、まずは美優を始め同乗している生徒たちがどこに集められているか把握する必要がある。
(さっき船室で聞こえた銃声は間違いなく外からの音だった。…ということはおそらく集められているのは船前方部のデッキ上か)
周囲を警戒しながら、隼はホールエントランスに歩みを進め、中央にある上下垂直に船を穿つ螺旋階段の前まで来ると、その階段には目もくれず、そのまま外の通路へとつながる扉へと歩みを急ぐ。
扉を薄く開け予め手鏡で通路の様子を確認した後、隼はホールエントランスから外の三階通路へと出る。
(続く)
壁際にはいくつかの自動販売機が静かな唸り声をあげ、ホールの隅の方には小さいながらガラス張りの喫煙ブースがある。
隼はホールエントランスに近づくと一旦歩みを止め、入り口の縁に身を隠すようにしながら中の様子をうかがう。
息を殺してじっと耳を澄ましながら辺りを見回すと、丁度隼の居る反対側の方、螺旋階段の辺りに二人の男がうろうろしている。
二人とも船員の服を着てはいるが、明らかに挙動が不自然だ。そして手にはなにか黒くてごつい物を持っている。どうやら銃を所持しているようだ。
「しかしよぉ、ガキども前の方に全部集めてんだから、こんな所に見張りしてたって意味ないんじゃねぇ?」
「だよなぁ。でも、ま、面倒な事はせずにこうやってサボれるわけだから楽でいいんじゃねぇか?」
二人の男がタバコを加えながら、緊張感の欠片もない様子で談笑している。およそ見張りの役割に見合うような連中ではないようだ。辺りを全く警戒していない。ほぼ素人のようだ。
(……さて。どうするか)
隼は見張り二人をどう処理するか、隠密に事を進めるために一瞬思案する。
と、そこへ。
ポケットに入れていた携帯電話が着信のベルをけたたましく鳴らす。
狭い通路側に居るからベルの音は大きく反響してホールに居る見張りの二人の耳にも届く。
(ちっ。マズったな…。このタイミングで鳴らしやがって。ロブのアホめ。)
携帯電話を消音設定にしていなかった隼の迂闊さ。この辺りがやはり船酔いで鈍っている思考力の表れだろう。ちなみにこの携帯電話の番号を知っているのはロバートしかいない。電話をかけてきたロバートを呪いながら、どう動くか瞬時に判断する。
(この一瞬でやるなら…あれか)
隼は独り呟くとツールナイフのブレードを引き上げ、直ぐ上の天井を見上げた。
ホールに携帯の着信ベルが大きく鳴り響く。
「…ひっ!」
「! おいっ。誰かいやがるっ」
携帯ベルの音に酷く驚愕した見張りの二人は、互いに顔を見合わせながら顔に緊張の色を浮かべる。まさか誰かが居るというのは思いもよらなかったのだろう。
「お、おい。どっ、どうする?」
「何ビビってんだよ。オマエ行けよ」
「いやオマエこそ行けよ。どうせガキが隠れてんだろうし」
どっちが見に行く、行かない、なんて二人で数分ほどグダグダやりながら、結局二人で確かめに行くことで落ち着いた。
縦列に並び五メートル程の間隔を開けて、男二人は通路に向かっていく。
手には銃を持ちながらも、腰が引けながら前に進んでいく二人。辺りをきょろきょろと落ち着きなく見回しながら、緊張の面持ちで通路を進む。
軍事訓練も何も受けていない、完全な素人の仕草だ。
先頭の男がビクビクしながらもゆっくり歩みを進め、音がしたと思われる辺りの船室のドアを開けようとする。
一瞬頭の上の空気が揺らぐ。そして。
狭い通路の天井に、まるで突っ張り棒の様に手足を伸ばして天井に張り付き隠れてた隼が突如、後方に付いてた男の後ろへと、正にハヤブサが舞い降りるかのように音も無く降り立つ。
後方の男が妙な気配を後ろに気付いた時、男の運命はそこで終わった。
隼は男の後ろ髪を掴み、ぐっと前へと押し込み強引に俯かせると、隼のツールナイフが男の盆の窪に、生命維持に重要な神経系の集束する延髄にずむりと突き立てる。
頭蓋骨と頸椎の隙間をつきナイフのブレードが延髄を切断すると、白目をむきながら男は声を上げる間もなく絶命し、そのまま床に崩れ落ちる。
どさり、と何かが床に倒れ落ちる音に驚いて前方にいたもう一人の男が、不意にこちらを向く。
相棒が床に何故か倒れてる、そう認識した瞬間には男の胸元に隼が黒豹の様に飛び込み、今度は男の喉元へツールナイフが突き刺さる。
喉に一瞬固く冷たいものが入り込んできた刹那、それは灼ける様な激痛へと変わる。
声帯を切断されてるので男が断末魔を上げようとするが、ひゅーという空気が漏れる音の後、ゴボゴボと口から湧き水の様に溢れ出した血が邪魔をして、叫ぶこともできない。
もう一人の男もそのまま絶命すると、近くの船室へそのまま二人纏めて男の死体を放り込む。当然男達の持っていた拳銃と弾丸を奪い、それを装備する。
(……さて。)
改めて隼は思案する。
先程の銃を持ってる男達の存在のおかげで、この船が何者かに乗っ取られたことはハッキリした。
相手の規模と目的を知りたいところだが、まずは美優を始め同乗している生徒たちがどこに集められているか把握する必要がある。
(さっき船室で聞こえた銃声は間違いなく外からの音だった。…ということはおそらく集められているのは船前方部のデッキ上か)
周囲を警戒しながら、隼はホールエントランスに歩みを進め、中央にある上下垂直に船を穿つ螺旋階段の前まで来ると、その階段には目もくれず、そのまま外の通路へとつながる扉へと歩みを急ぐ。
扉を薄く開け予め手鏡で通路の様子を確認した後、隼はホールエントランスから外の三階通路へと出る。
(続く)
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