Soldaten! (ゾルダーテン!)

柴崎きりを

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第四章 青海の檻

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「あの銃を持ってる奴、確か佐々岡とかいう……」

 船酔いの半死状態でオリエンテーリングに参加してた隼の記憶にうっすらと残る名前と顔。
 こんな大それたことをするような雰囲気は感じなかったのだが、しっかり皮を被っていたのだということを思い知らされる。
 今のところ敵と思しきは佐々岡以外は視界に入っていないが、おそらくあらゆる所から生徒達を監視しているのだろう。殺気があちこちから感じ、肌がピリピリと粟立っている。

「……ふむ。とりあえずアイツらが何者なのか、見極めなきゃいけないな。下手に動くと…」
そう思った矢先、佐々岡が天をも落とすような大声で、生徒たちに向け言葉を投げつけた。

「我々は『真なるメシア』の使いである!!」

――●●●――

 蒼天に少しずつ雲が混じり出し、陽を遮る時間が多くなってきた。
 船上に集められた165名の生徒たちは緊張と恐怖で身を震わせながら、佐々岡の怒号で更に身を固くする。

「我々は『真なるメシア』の使いである!!」

 佐々岡の言葉が響き、小中学生の生徒たちは皆一様にポカンとした表情をしている。美優を始め高校生以上の者たちも最初は怪訝そうな顔をしていたが、やがて思い出したようにハッとした顔をする。

『真なるメシア』。
今から十年ほど前に天海光耀あまみこうようという男を筆頭に設立された新興宗教団体で、何もない空間から砂金を出す、座禅を組みながら空中浮遊をするなど数々の奇跡をテレビの画面を通して披露し、日本中を騒然とさせた。

「自分は真なる神の使いである。故に神の恩恵を受けている。」
そう言って瞬く間に若い世代中心の信者を集め、一時は一町村を形成できるほどのコミュニティをも持つ宗教団体だった。
 しかし内部での活動としては非常に怪しく、信者たちからは干乾ひからびる程の献金を吸い上げ、『神の恩恵を受けるための修行』としては入信間もない信者に集団リンチのような暴行をし、女性信者には『洗礼』と称しては天海光耀を始め幹部信者たちへの性行為を強要させるなど、おおよそ宗教行為からかけ離れた悪行が浮き彫りになってきた。
 そのうちに信者になり自宅に戻らなくなった娘や息子たちを取り返そうとした家族たちが次々と行方不明となり、やがて死体となって発見される事態が続く。
それがマスコミに知れると世間は手のひらを返したように『真なるメシア』を訝しみ、公安も静かに動き出した。

 そんな逆風をも意に介さず、天海光耀は「我々が間違っているのではない。世の中が、この国がそもそも間違えているのだ。そして間違いは正さねばならない」そう言って天皇排除論を掲げ、事有るごとに政権批判し自分達の思想こそがこの国の、世界に平穏をもたらすという旨の発言を繰り出し、やがて教団施設で化学薬品の研究や重火器の製造などの黒い噂が流れ出すなど、一時の栄華から一気に不穏な集団へと変貌してしまう。

そしてそんな中で起きる国会議員宿舎の爆破事件。
国会議員含む死傷者23人もの被害を出したこの事件は、周辺地域の防犯カメラと公安のマークしていた人物の照合結果、『真なるメシア』の幹部信者8名がそれに一致し全国指名手配後、数年かけて全員逮捕した。
教団のトップである天海光耀は殺人、国家転覆など多々の罪状で逮捕され裁判で死刑判決が下るが、本人は至って平然と「膿みきって爛れたこの国を浄化させねばならない」などと獄中で呟き続けている。
この爆破事件をきっかけに教団は一気に縮小瓦解していくが、未だ残っている天海光耀の盲目的信者は、地下に潜り教団の名を隠しながらも少しずつまた信者を勧誘し、天海の思想を広めている。

その『真なるメシア』が何故ここに。何故この少年少女達の船に紛れ込んでいるのか。

そんな生徒達の不安と疑問を余所に、銃を持ったまま佐々岡が再び大きく声を張り上げる。

「我々は『真なるメシア』の天祖てんそである天海光耀あまみこうようを、膿んで腐りきったこの国から救うべく、今こそ蜂起した!!この国をもう一度、真の神のおわす国へと生まれ変わらせるために、堕落しきった為政者たちと偽りの神の子である現天皇を、全て排除せねばならない!!」
 
 左手の握り拳を強く振りかざし唾を飛ばしながら、佐々岡の怒声ともとれる熱弁が、デッキ上に集められた生徒達に浴びせられる。
 それと同時に操舵室や船後方部から、佐々岡と同じように船のスタッフの変装をして紛れた教団の者たちが、バラバラと何か機材を抱えながら佐々岡の元に集まりだした。

 「…君達のような若く純粋な心の持ち主達を人質のような真似に遭わせるのは、正直心苦しく思っている。だがしかし、我ら天祖の天海光耀の命と天秤にかけるには、君達若者の大勢の純粋な心と命でなければ、釣り合わないのだ!!」
佐々岡が変わらぬ勢いで熱弁してる間に、その周囲で教団の人間たちが何やら機材のセッティングをしていく。
 ノートパソコン、ビデオカメラ、ルーターに小型の発電機、それらを所定の位置に置き手際よく接続していく。まるで何かテレビ中継でもするかのような雰囲気だ。

(一体、何を始める気なの……?)
 他の生徒達と同様に美優も小刻みに震え怯えながらも、目の前で着々と組み上げられている機材から目が離せない。
 ただそれは興味というよりも、これから起こる事への不安と恐怖で瞳が離せないのだ。横に居る山川梓は美優の袖を掴みながら怯えている。

 と、船に波の砕ける音に混じり、遠くから何か機械の唸り上げるようなモーター音が聞こえてきた。
 それは始めは微かな音だったが、徐々にそしてはっきりと船上の全員に聞こえてくるものとなった。
「…時間通りだな」
佐々岡が船腹の方角へ視線をやると、一艘のプレジャーボートが、大きなエンジン音を上げて近づいてきた。

(続く)
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