上 下
44 / 58
第四章 青海の檻

11

しおりを挟む
* * *
突然に現れた覆面の人物と美優の逃亡に場が騒然とする。
佐々岡の手足であり同志でもある信者たちは軒並み股間を銃で撃たれ、悲鳴を上げながらその場を転げ回っている。
このままではマズイ。自分たち「真なるメシア」の力を日本いや世界に誇示するつもりが、予想外の反抗で信者同志達が大きく動揺し統制が崩れてしまっている。ここは何とか状況を立て直さなければ、佐々岡は近くの信者たちに命令しようとする。

「お、おいっ、その娘…」
「その娘を逃がすなッ!!足を打ち抜いても構わん、必ず押さえろ! それとあのネズミをさっさと始末しろ!そいつは危険だ!!」
あわあわと動揺しながらも他の無事な信者達に命令しようとする佐々岡を制して、鋭い声で信者達と自分の連れてきた部下に指示を飛ばす片山。

「佐々岡司祭、ここから先は我々『メシアの兵』の領分となります。以後私の方から貴方の部下達にも指示を出しますので、司祭はここでゆっくりと見物なさってください」
「い、いや、しかし」
「よろしいですね?」
「……分かった。よろしく頼む」

有無を言わさぬ圧力で佐々岡を黙らせる片山。しかしその佐々岡の目には片山に対する苛立ちが、そして片山の目は佐々岡へ侮蔑の光を互いにそしてあからさまに突き刺している。
(……ちっ。たかが兵隊の分際でっ)
(……ふん。小物が)

佐々岡から目を離し、ヘッドセット式のトランシーバーで片山は抑揚のない冷静な声で、船内各地に待機している部下たちに指示を出し始める。

AアルファワンよりBブラヴォー―1へ。ネズミが紛れ込んだ。小鹿も一緒だ。ネズミは即座に始末、小鹿は捕えろ。小鹿は多少痛めつけても構わん」
「B―1よりA―1へ。了解カピー
「A―1よりCチャーリー―1へ。そちらは引き続き作業を優先。完了次第報告しろ」
「C―1よりA―1へ。了解カピー。引き続き作業を続行する」
通信を切ると片山の精悍な顔つきがより一層引き締まる。肩から吊り下げているSMGサブマシンガンのトリガーに人差し指を掛ける。

(……さて、退屈な子守になると思ったら、面白いことになりそうだな。ッククク)
予期せぬ抵抗に遭い戦士の本能が蠢きだす片山。その口元だけが、妖しく喜びに歪んでいた。

(続く)
しおりを挟む

処理中です...