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空間の鼓動 4
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フラットは、胡坐をかいて座りこんでいた。
「わたしたちも、五人だけになったな」
時乃も、寂しさを隠せない。茶色の瞳が潤んでいた。だが、さっぱりした気質のため、直ぐに気持ちを切り替えた。逆にこの性格が、悪とか、冷酷とか言われる。
「フィン計画は、続行で、OSの宣伝、販売拠点、人員の確保、たのむ」
フィンは、青い瞳を澄香に向け。
「了解!澄香。計画通り進めますぅ」
時乃は、メルティに、優しく顔を向け。
「メルティ!後藤家の人たちのことをたのむ。雑用で申し訳ないが、助けてあげてほしい」
時乃はメイティに視線を移し。
「メイティ引き続き、フィンの補佐をたのむ」
時乃は、フラットのことを一番心配していた。顔には出さないが、部下を失ったことで、一番辛いのではと考えていた。
「フラット!少し休むといい。わたしが、やれることはやる」
フラットは、気の強そうな顔をしっかり保ち。
「いや、大丈夫!澄香の手伝いをしよう。そうだな!日本征服でも」
フラットは、少し目に笑みを浮かべ。
「幼稚園バスでも乗っ取るか」
時乃は、お腹を抱えて笑う。フラットが冗談なのか、そんなことを言ったので。
「フラット!面白いじゃないか。では、こう言うのはどうだ。坊主に強力育毛剤を掻けるとか」
フラットは、薄茶色の瞳に涙を浮かべて、大笑いした。
「澄香!最高。ほんと悪だな、お前」
「そうと決まれば、強力育毛剤を持ってくる」
時乃は、有明に入ると、住居区画に移動した。そして、ショッピングモールに入る。人気はなく、自動自立型のロボットが、清掃などの作業をしている。
時乃は、薬局に入り、強力育毛剤を手に取る。
『一晩で、あなたもロン毛。毛ロヨンハイ』
買い物籠に、五十本ほど入れる。フルオートレジで、カードをスキャンして、清算する。
※
フラットは、デジタル迷彩服を着用。背中には最軽量のSPCシステム。空を飛ぶための機械である。燃料は、圧縮燃料。地球のものではないので、小型で高性能である。
時乃は、有明から出てきた。育毛剤を二人分に分け、フラットに渡す。
「フラット!作戦実行」
「了解!澄香」
(アリス。SPC軽量型)
(空間転移)聖方陣が形成される。
時乃は、窓から勢いよく飛び出す。同時に、SPCが装着され、千切れた風船のように、軽く空へ浮き上がる。
フラットもマニュアル操作で、SPCを起動、空へ浮かんで行く。
「フラット、大きな寺の坊主から適当に狙おう」
「了解!澄香」
フラットは、デジタル迷彩を使用して、夜の闇に溶け込んだ。
(空間転移。深さ十五秒)
時乃の体が、半透明になる。色薄くなった真鋳色の髪が、月の光をあびて、怪しく光る。時乃は、寺に侵入すると、音も無く移動し、坊主の寝ている枕元に膝をついた。
(通常空間へ)
時乃は、素早く催眠スプレーを使用し、頭に強力育毛剤を丁寧に手で塗りこむ。
「明日が楽しみだな、お坊さん」
(空間転移、深さ十五秒)
時乃は、半透明になり、再び夜の闇に消えていった。
夜の空をロールしながら、飛行する。月の光が、真鋳色の髪に反射し怪しく光る。
時乃は、後藤家の二階に、ふわっと降り立ち。
(通常空間へ)
時乃は、フィン、メイティの前に数歩歩いて行く。突然酷い頭痛が起こり、そして、意識を失いその場に倒れた。
フィンは、慌てて時乃を支える。
「澄香!どうしたの」
日本人が、普通にこれを見たら『ばちが、あたったのじゃ。たたりじゃ』と言ったかもしれない。
時乃は、朝まで目を覚まさなかった。最初に後藤家で眠りについた三畳の部屋に、真鋳色の髪を広げて布団の中にいた。
しばらくすると、時乃は、頭を押さえながら可愛らしい寝巻き姿で出てきた。
「澄香、大丈夫ぅ」
フィンが心配そうに近寄る
「いや。頭が痛い。初めてだ、こんなの」
「んー」
フィンが、頭を少し傾け、手を時乃の生体USBにつける。
「この世界で、空間制御の力を使うと、反動があるようですね。本来、こちらの世界ではないものですから、当然かもしれないぅ」
時乃は、頭を押さえながら。
「そうか、長くは戦えないな」
「ゆくゆくは、亜空間に戻る必要があるかもしれないぅ」
「ふむ」
フィンは、先を見越したように。
「早々ですが、日本人のバトルPパイロット及び士官を育成しては、どうでしょう」
「なるほど。そうきたか、しかしこの地球の人間で大丈夫なのか」
「地球人は、思った以上に優秀ですよ」
「了解した。速やかに実行を」
「了解、澄香」
時乃は、顔を上げて。
「皆は?」
「下で、食事をしていますよ」
「なるほど」
時乃は、頭に手をあてながら一階に下りる。
リビングの扉を開けると、テーブルに、後藤五郎、輝、メルティ、メイティ、フラットが食事をしていた。メルティが料理全般しているので、素晴らしい料理が用意されている。
フラットが時乃に気づき。
「澄香大丈夫か、俺が帰ってきたときには、意識がなくて驚いたぞ」
時乃は、心配かけないように。
「大丈夫だ」と言った。
「ならいいけどな。昨日のことニュースに出ているぞ、ほら」
『今朝、九州各地の寺の住職の頭髪が、ロン毛になるという、怪事件が発生しました。現在、警察では、捜査本部を設置して調査しています』
フラットは、目を細めて、時乃を見る。
「悪だなー澄香は」
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