ヘイそこのいっぺん死んだ彼女! 俺と一緒にドラゴン狩らない?

尾形モモ

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断ち切る

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「ナナリーは難聴とはいえある程度、貴族令嬢としての知識を身に着けていますし私の代わりは十分に務まります。私は家を出て、適当な職業に就きますよ。だからダニエル様はどうかナナリーと、お幸せになってください」

 それだけ言うとレイチェルは、無作法にもその場から全力で走り去っていく。

 背後から婚約者や両親が自分を咎め、止めようとする声が聞こえたが今のレイチェルはそんなことに構う余裕などあかった。何より、もう彼らの声は聴きたくなかった。



 もう嫌だ。自由になりたい。この場所から飛び出したい。そして――自分を正当に愛し、評価してもらえる人間に会いたい。その気持ちだけがレイチェルを突き動かし、「新たな世界へと向かってみたい」という望みへと向かわせていた。

 そんな弾き出されたような思いのまま、レイチェルは自室の扉を開けると部屋の中へ閉じこもる。



「……でも、もう死ぬのは嫌だ」

 一人になったレイチェルはその場で蹲り、絞り出すようにそう呟く。

 レイチェルは一度、この部屋で自らの命を絶った。弾ける痛み、流れ落ちる鮮血。どれも間違いない、確かに現実に起こったことだ。



 しかし――どういうわけかレイチェルは、死んでいなかった。



 単純に生き返ったのではない、時間が巻き戻ったのだ。受け入れられない現実に、眩暈を感じながらレイチェルは自身の置かれた状況を整理する。

 今は、婚約者として親睦を深めるために行われた茶会の最中だ。場所はレイチェルの生家であるガーランド家の屋敷で、レイチェルはダニエルとともに茶を飲んでいた。そこに、両親とナナリーが割り込んできて……いずれ婿入りするダニエルをもてなそうとした、と言えば聞こえはいいだろう。だが実際はナナリーの話を聞いてほしくて、ナナリーはナナリーで滅多に会うことのない同年代の男性に構ってほしくて勝手に横やりを入れてきたのだった。それをレイチェルが指摘しようものなら、一方的にレイチェルが悪者扱いされるだけなので何も言わなかったが……その状況をどうにかしようとは思わなかったのは、ダニエルも一緒だ。

 ダニエルは「優しい男」だが、「他人を思いやることができる人間」ではない。困っている人を助ける、自分ができる限りの施しはする――けれど、それだけだ。揉め事を嫌うが、自分が矢面に立ってそれを解決しようとは思わない。誰にとっても当たり障りのない人間を演じながら、何もかも他人任せにして生きている。

 ガーランド家の姉妹、レイチェルとナナリーに関することについてのことだってそうだった。彼はレイチェルを愛していないわけではないし、ナナリーとの間に姉妹格差があることもわかりきっている。レイチェル本人にそう訴えられたことがあるのだから、気づかないわけがない。



 だが――ダニエルは何もしなかった。それどころか、レイチェルの心にあった最後の何かを結果的に断ち切ってしまったのである。
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