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覚悟
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レイチェルは自分の胸に手を当てると、呼吸を整える。
――大丈夫、私はまだ生きている。
死の間際、自ら命を絶ったことを後悔した。痛くて、苦しくて、涙が出るほど辛くて――それでも、本当は生きていたかった。
なぜ自分が死ななければならないのか、なぜこんなにまで苦しい思いをしなければならないのか……絶望しながら死んでいったレイチェルだが、どういうわけか彼女はやり直すチャンスを得た。生き返ったか、はたまた生まれ変わったのか、それはレイチェルにもわからない。ただ一度死んで、その決断を後悔した彼女は今、ある覚悟を決めていた。
机に向かうと引き出しに手をかけ、短刀を取り出す。かつては自分の命を消すことに使ってしまったそれは、質素だが上品な装飾が為されている。
「危ないから絶対に鞘から取り出さないように」
そう約束した上でレイチェルに譲られたそれは、祖父が武官として働いていた時に所持していた護身用のものである。そして、この家で唯一「ナナリーと同じかそれ以下の品ではなく、かつレイチェルのためだけに家族が与えてくれたもの」であった。レイチェルはその柄をそっと握りしめると――今度は鞄を取り出し、必要なものを全て詰め込んでいく。
「レイチェル! 何をやっているんだ、ここを開けろ!」
「ナナリーとダニエルさんが困っているでしょう! すぐ戻りなさい!」
遅れてやってきた両親が怒鳴り声とともに、レイチェルの部屋の扉を叩く。
……この期に及んでレイチェルを慮ることは、一切しないつもりらしい。だが、今のレイチェルにとってはそんなことどうでも良かった。ひとしきり荷物をまとめると最後に短刀をドレスの裾に隠し込み、キッと扉の方へ向き直る。
レイチェルが扉を開ければ、そこには目を吊り上げた両親と困ったような顔のナナリー、そしてオロオロした様子のダニエルの姿があった。
「ほら、何をしているんだレイチェル! 早くナナリーとダニエル君に謝りなさい! 全く、どうしてお前はそう僻みっぽい性格をしているんだ! 姉のくせに妹に嫉妬して、周りに迷惑ばかりかけて……少しは恥ずかしいと思わないのか!」
「そうよ! ナナリーは耳が聞こえない、親にも見捨てられた可哀想な子なのよ! それなのにどうしてあなたは、そんなに意地悪するの! もっと伯爵家令嬢として、きちんとしてちょうだい!」
――あぁ、この人たちはいつもこうだ。
喚き散らす両親を前に、レイチェルの気持ちは驚くほど冷え切っていた。
――大丈夫、私はまだ生きている。
死の間際、自ら命を絶ったことを後悔した。痛くて、苦しくて、涙が出るほど辛くて――それでも、本当は生きていたかった。
なぜ自分が死ななければならないのか、なぜこんなにまで苦しい思いをしなければならないのか……絶望しながら死んでいったレイチェルだが、どういうわけか彼女はやり直すチャンスを得た。生き返ったか、はたまた生まれ変わったのか、それはレイチェルにもわからない。ただ一度死んで、その決断を後悔した彼女は今、ある覚悟を決めていた。
机に向かうと引き出しに手をかけ、短刀を取り出す。かつては自分の命を消すことに使ってしまったそれは、質素だが上品な装飾が為されている。
「危ないから絶対に鞘から取り出さないように」
そう約束した上でレイチェルに譲られたそれは、祖父が武官として働いていた時に所持していた護身用のものである。そして、この家で唯一「ナナリーと同じかそれ以下の品ではなく、かつレイチェルのためだけに家族が与えてくれたもの」であった。レイチェルはその柄をそっと握りしめると――今度は鞄を取り出し、必要なものを全て詰め込んでいく。
「レイチェル! 何をやっているんだ、ここを開けろ!」
「ナナリーとダニエルさんが困っているでしょう! すぐ戻りなさい!」
遅れてやってきた両親が怒鳴り声とともに、レイチェルの部屋の扉を叩く。
……この期に及んでレイチェルを慮ることは、一切しないつもりらしい。だが、今のレイチェルにとってはそんなことどうでも良かった。ひとしきり荷物をまとめると最後に短刀をドレスの裾に隠し込み、キッと扉の方へ向き直る。
レイチェルが扉を開ければ、そこには目を吊り上げた両親と困ったような顔のナナリー、そしてオロオロした様子のダニエルの姿があった。
「ほら、何をしているんだレイチェル! 早くナナリーとダニエル君に謝りなさい! 全く、どうしてお前はそう僻みっぽい性格をしているんだ! 姉のくせに妹に嫉妬して、周りに迷惑ばかりかけて……少しは恥ずかしいと思わないのか!」
「そうよ! ナナリーは耳が聞こえない、親にも見捨てられた可哀想な子なのよ! それなのにどうしてあなたは、そんなに意地悪するの! もっと伯爵家令嬢として、きちんとしてちょうだい!」
――あぁ、この人たちはいつもこうだ。
喚き散らす両親を前に、レイチェルの気持ちは驚くほど冷え切っていた。
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