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秘密

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 ダニエルはどんな時も結局、自分のことしか考えていない。

 さらに質が悪いのは、それを素直に認めず自分の良いところだけを周りに見せようとする卑怯者なことだ。

 例えば自分が悪者になってでも相手を説得しようとか、問題解決に向けてじっくり考え自ら前線に立って動こうという覚悟など持ち合わせていない。ただ他の人間がなんとかしてくれると、漠然と考え怠惰に生きている。それを認めて開き直る度量すらないのだ、だからこうやってガーランド家の屋敷に来て、レイチェルがいないことを確認しても別に何かしなければと考えることはしない。

 どんな時でも保身が第一で、そのくせ状況打破の方法を考える行動力も卑屈な自分を認める潔さも持ち合わせていない。ただなんとなく、何か考えているようなふりをしてその場をやり過ごす以外のことはできないのだ。そんな優柔不断な態度が、周りを――特にレイチェルを傷つけていたことを彼は知らない。

 そんな卑怯で、臆病だった彼が予想できるはずなどない。レイチェルが一度は自ら死を選び、生き返ってから新しい人生を始めようとしたこと。その上、第二王子にそれを見抜かれた上「ドラゴンを狩ろう」なんて提案したことなど――。



「姉上……メアリー元王女は今まで僕が見てきた人間の中でもトップクラスに死んだ回数が多い人間なんだよ。その数、なんと数百回以上! ……もはや正確な数もわからないほど、何度も君と同じ『死に戻り』を繰り返したんだ。その果てにケンタウロスを皆殺しにする、なんて過激なことをしでかしてしまったんだけどね……曲がりも何も王子として、そして彼女の弟として弁護させてもらう。あれには実は、深い深いわけがあるんだよ」

 女主人の頼みを断れずに、ひとまずフェスターの話を聞くことになったレイチェル。

 茶菓子をつまみ、軽い口調で話すフェスターは遊び人のようだが……自分が一度、死んだ身であることを見抜かれたレイチェルはその内容を信じざるをえない。加えて――メアリー元王女、という良くも悪くも高名な人物の名前に好奇心をそそられるところもあった。



 メアリー元王女は美しくも気高く、聡明な少女で早くからその将来を期待された王女だった。そんな彼女がケンタウロス――人間の上半身に馬の下半身を持った半人半獣の一族を皆殺しにするという残虐な振る舞いを行ったこと、それに対し王位剥奪並びに追放という異例の沙汰を下されたことは様々な憶測を呼んだ。死亡の隠蔽、無実の罪、王室の陰謀など様々な噂が流れているがどれも決定打に欠けている。



 ――どうせなら、もっとものすごい秘密を知ってしまいたい気もするわ。



 自分で自分の命を捨てながら、それを大いに後悔し舞い戻ってきたレイチェル。絶対に起こらないと考えていたことが、現実に自分の身で起こった。そうなると今まで信じていた世界の全てに、何か謎があるような気がする。

 自分の知らない、世界の外側にとんでもない秘密が隠されている。その一端にあるだろうフェスターという男が、目的は何であれこちらに向かって手を差し伸べている……それは世界を滅ぼす魔王に「こちらに加担しないか?」と誘われているような、妖しく背徳的な魅力があった。
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