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事態

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 フェスター自身も、長らく極秘とされていた姉の話をするのが愉快なのかレイチェルを見つめる目はどこか楽し気だ。



 だが再び、実姉であるメアリー元王女の名を口にすると――ほんの少し感傷的な色を瞳に滲ませる。



「もともと、ケンタウロスたちは人間と友好関係を結ぶべくこの国に接触を求めてきた。それを一方的にぶち壊したのがメアリー元王女、という話になっているが……メアリー元王女によれば、彼らはこの国を征服し人間たちを自分の奴隷にするつもりだったらしい」

「そんな、まさか……」

「信じられない、だろう? けど『加護』の力で、僕にはメアリー元王女が実際に死を何度も経験したことだけはわかった。……彼女によればケンタウロスは人間をはるかに凌ぐ身体能力を持っていたが、その性格は極めて残忍で凶暴だった。彼らはその本性を隠し、この国に侵入を果たすと有力貴族たちを皆殺しにして王家の断絶に走った。男は手足をもぎ取ってその体が擦り切れるまで引きずり回し、女は自分たちの欲求を満たすための道具として酷使した後、最後には全員を生きたまま火あぶりにしたそうだ……そうやって屈辱にまみれた死を迎え、復讐を誓ったら姉上は生き返ることになったらしい」

 先ほどまでの陽気さが嘘のように、陰りを見せながらそう話すフェスター。

 フェスタ―の口から紡がれるケンタウロスたちの残虐な振る舞いは、今まで貴族令嬢として生きてきたレイチェルにとって信じがたいものだった。しかしフェスターは極めて真剣な顔で、自分の感情を押さえつけるように淡々とメアリー元王女のことを語り続ける。

「最初はケンタウロスとこの国が関係を持つことを防ぐのに尽力したらしい。父上である国王陛下や王子・王女である弟妹、家臣たちや有力貴族に必死で事の次第を訴えケンタウロスを退けようとした。それがダメなら、有志の軍隊を作ってケンタウロスに抗戦したりケンタウロスと和平交渉を結ぶためあらゆる金品財宝を用意したり……だが何度やってもケンタウロスは王家の人間を惨殺し、そうしてメアリー元王女は死を繰り返した。……その果てに『もうどうしようもない』という結論に至って……」



 ケンタウロスの虐殺という事態を起こした。



 短い一言に、レイチェルは息を飲んだ。
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