猫と結婚した悪役令嬢

尾形モモ

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激震

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 おっと、いけない。今は私の結婚式なのだ。相手が猫だろうが何だろうが、主役は私。その私がぼんやりしていたらゲストにも迷惑だ。

 こんな公爵令嬢と猫の結婚式という冗談みたいな式にも、参列者はいる。

 私を心配そうに見つめるのは、仲のいい友人たち。心配しないで、私は大丈夫。絶対、ルドルフ殿下の婚約者にならずこのまま幸せになってやるんだから。

 語学の先生も芸術の先生もみんな、大丈夫。貴方たちから教わったことはこのクララ・リントナーの身に確かに刻まれています。だから決して、先生たちの教え子として恥じ入るような行いをすることはありません。

 教会で今日、式を執り行ってくださる方々も。こんな茶番に付き合ってくれてありがとう。あなたたちの仕事は人々の幸せな門出を祝う、素敵なものです。……ちょっと待て神父、今笑っただろ。お前は別だ。ハゲろ。ハゲろ。ハゲ散らかせ。

 それでも私は隣にいる猫、もとい「クラウス公爵」の方を見つめる。

 考えてみればこの猫もいい迷惑だ。人懐っこくて子どもたちに慕われていたのに、ただたまたまそこを通りがかっただけでこんなしょうもない舞台に付き合わされてしまった。これから私の「夫」として衣食住――衣はいらなかいもしれないが――を保証される代わりに、野良猫として生きる自由を奪われてしまったのだ。


「っしょ、それでは、新郎と新婦は誓いの口づけを」


 まだ笑ってる神父は、ひくつく頬を必死に押さえてなんとかそう言ってみせる。チクショウ、ハゲるだけじゃなくて太る呪いもかけてやる。そんな悪態をつきつつ、私は夫となるクラウス侯爵に向き直る。



 その時、彼の耳がぴくりと動いた。それから喉を鳴らすと、甘えるように私の足下へすりすり。



 その瞬間——私の世界に、激震が走った。



 ズドッカァァァァァン(*クララの心情を擬音にてお送りしえおります)



 か、か、か……



 可愛い……!




 思えば野良猫は危ないから、といって遠ざけられていた。
 この猫自体はよく見かけたけれど、自分から近づこうとしたことはなかったし触ろうなんて思ったこともなかったのだ。だけど、その猫——私の「夫」になったクラウス公爵を見てみれば。なんと愛らしい姿なのだろう。これぞ神が作りたもうた奇跡、可愛いの圧倒的支配者。その小さな体におそるおそる、私は手を伸ばす。

 抱き上げれば、柔らかな毛の感触から温かさが伝わってきた。その真ん丸な瞳、立派な髭、小さな鼻にキュートな口元に顔を近づければ――私はもう、身も心も立派な「クラウス公爵夫人」になっていた。
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