鉛の矢を持ったキューピッド~なぜか婚約破棄に巻き込まれる留学生たち~

尾形モモ

文字の大きさ
12 / 35
ブタ王子と婚約破棄~誰も不幸にならなかった~

ソラ・アオイロ③

しおりを挟む
「確かに私はあなたと仲睦まじいソラ・アオイロ様に嫉妬し、少々厳しく問い詰めたこともありました! その点に関しては反省し、彼女に謝罪いたします! だから殿下、どうかあなたとの婚約を破棄することだけはやめてください!」

 ブタ王子を相手に必死で涙を流し、恥も外聞も殴り捨て泣き縋るカトリーヌに、観衆たちは困惑の色を示す。

 あの美しいカトリーヌが、なんだってあのブタ王子からの婚約破棄をそんなに嫌がるのか? もともとあんな不細工な王子と結婚するのなんて嫌がる女性の方が多いだろう。ましてカトリーヌはこの国でも有数な美少女で、公爵令嬢という立場にもある。そんな彼女が、王子と仲のいい留学生を妬んだというのか? ありえない、カトリーヌにとっては外国の少女だなんてその気になればどうとでもすることができるはずだ。同様に、このブタ王子から婚約破棄されたとして、痛くも痒くもないだろう。

 あ、ひょっとして王妃の座を譲りたくないのか?

 やっと辿り着いた一つの推測に周りが納得する中、それをカトリーヌが次の言葉で打ち消す。

「どうしてもソラ様を正妃にと仰るのなら、私は側室でもかまいません! 週に一回でも貴方が私に愛を向けてくだされば、私は満足です!」

 えぇ……

 驚愕と困惑に会場が包まれる。

 いくら側室を持つのが当たり前とは言え、公爵令嬢の身分であれば正室にされるのが当然。それがいくら留学生とはいえ外国の、爵位も持たない令嬢の下に置かれるなど相当な屈辱のはずだ。

 しかしカトリーヌは目に涙をいっぱいに溜め、必死でそれを訴えている。公爵令嬢としての矜持も一人の女としての意地もありはしない。ただ愛する男に縋り付き、みっともないと思えるほど泣きわめくその姿に人々は呆然とすることしかできなかった。

 もはや何を口にすればいいのかわからない。そんな微妙な空気の中で一人、歩み出て口を開いたのは当事者の一人。ソラ・アオイロであった。



「あなたは本気で王子を愛しているのですね。その言葉に、嘘偽りはございませんか?」



 拙い外国語で、カトリーヌへ問いかけるソラ。

 カトリーヌから王子を奪った優越感も、女として公爵令嬢を出し抜いてやったという嘲りも見られない。学者が調査をするように、医師が診察するようにただただ事実を確認するためだけの質問。そんなソラ・アオイロの問いかけに、カトリーヌは必死に頷いてみせる。

「当然です! 私は心の底からフレデリック王子を愛しています! だから――」

「――わかりました私が王子に懸想したのは、王子が自分の婚約者に愛されていないのではないかと相談されたからでした。でもあなたが本心から王子を愛していらっしゃるのであれば、私はもう必要ないでしょう。私は側室となり、あなた方ご夫婦を影ながら支えていきたいと存じます。この場にいる皆様には大変ご迷惑をおかけしましたが、何卒ご了承ください」

 急に熱っぽく、何か話そうとしたカトリーヌをソラ・アオイロはやや食い気味に止める。そうして半ば強引に話を終えるとパーティーは何事もなかったかのように再開され、観衆は狐につままれたような顔をすることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

処理中です...