結婚した次の日に同盟国の人質にされました!

だるま 

文字の大きさ
67 / 101
父の従者は幼馴染

父の従者は幼馴染③

しおりを挟む
 三人で夕食を食べた後カフェを出て、イグナーツが所持している馬車で離宮まで送ってもらう。

「では明日までに『山羊の角物産』についての概要をまとめます」

 ジルとマルゴットが下車すると、イグナーツは御者台から一度下り、二人が離宮に入るのを見届けようとしてくれる。

「急いではいないから、明日じゃなくてもいいわよ?」

「いえいえ、お嬢様の頼み事なら最優先で対応させていただきますので」

「有難う。明日は一日中大学に居る予定なの」

「そうでしたか。では明日の昼にブラウベルク帝国大学のカフェテリアに来ていただけますか? 資料をお持ちしますので」

 何故ジルが通う大学にカフェテリアがある事を知っているのかと、微妙な気持ちでイグナーツを見詰める。だが彼は何を勘違いしたのか、照れた様に笑うだけだ。ため息が出てしまう。

「離宮なので危険は少ないかと思いますが、母屋までお気を付け下さい」

「有難う……。ちなみにイグナーツはどこに滞在しているのかしら?」

「私は帝都内のホテルです。ジル様が新居に移ったら、私もそこに住みますし、それまでの辛抱ですね」

 どういうわけか彼はジル達と同居する気満々の様だ。
 思わず顔を顰めてしまう。マルゴットも腹が立ったらしく、ゴホンゴホンと咳払いした。

「残念だけど、変人が立ち入る事が出来ない様に呪い(まじない)をかける予定だから……」

「変人ってどこにいるのかな?」

「アンタだよ」

 不穏な空気を感じたのか守衛が身を乗り出して此方を見ている。早めに引き上げた方がいいだろう。

「マルゴット、行きましょ。お休みなさいイグナーツ」

「はい、ジル様」

「お嬢様、良い夢を……」

 二人で離宮に戻ると、使用人から一通の手紙を差し出された。

「あら、誰からの手紙かしら?」

「皇太子殿下からの手紙だそうです。昼頃にオイゲン氏が届けに来ました」

 ハイネからの手紙と聞き、心が浮き立つ。

(ハイネ様がフリュセンへ出発してから始めて貰う手紙だわ)

 二週間程前に再び戦地へと赴いたハイネに何かしてあげたくて、ジルは健康維持に役立つ様な保存食を作る事にした。
 石窯でドライトマトを作り、オイルに漬け込み、彼に送り届けてもらったのだ。それが一週間前だったから、彼は保存食を受け取った後直に返事を書いた事になる。

 彼に出したトマト料理が不評だったから、自信を失っていたが、今回はどうだっただろうとドキドキする。一応同封した手紙に美味しく食べる為のレシピを書いてみたのだが、試してもらえただろうか?

 マルゴットと別れ、自室のデスクへと向かう。暖かな明かりのランプの下で改めて見ると、夜色の封筒が金色の封蝋で閉じられている。
 封蝋に押された印は皇室のもので、シンプルながらも品を感じられた。

 ジルは以前ハイネから適当な茶封筒で手紙を貰った事を思い出し、軽く噴き出す。

(ハイネ様にとって、ちゃんとした手紙を出すに値する相手になれたと思えばいいのかしら?)

 あの茶封筒で貰った手紙とラナンキュラスはジルを大いに励ましてくれた。だから全く嫌な感じはしなかった。でも格式ある手紙も、それ自体が特別な贈り物の様で嬉しい。

 ペーパーナイフを使い、中から便せんを取り出す。

”フリュセンから軍事境界線を超え、公国を南下し続けている。この国の景色は美しいな。戦争中なのに、時々風景に圧倒されてる。
 トマトのオイル漬け有難う。一個食ってみたら旨かった。
                ――ハイネ・クロイツァー・フォン・ブラウベルク”

(ハイネ様、私の祖国だからと気を遣って下さっているのね)

 ハイネらしい簡潔な文章に心温まる。祖国との戦争なのだから、当然公国の民の事が心配だ。だけど口に出さなくてもちゃんと分かっていてくれているようだ。
 オイル漬けも気に入ってくれた様なのでほっとした。レッドペッパーを入れなくて正解だった。

 ジルは羽根ペンを手に取る。

(さて、何と返事を書こうかしら?)

◇◇◇

 翌朝、黒魔術サークルに用があるマルゴットと別れたジルが大学の構内を歩いていると、前方に子供の姿を見つける。

(教授か職員の子供かしら?)

 首を傾げて通りすぎようとする。しかしその子が道の角を曲がろうと方向転換し、横顔が見えると、ジルは(あら?)と凝視した。見覚えがあったからだ。

(もしかして、コルト様……?)

 アチコチに跳ねた金髪に、ハイネを幼くした様な生意気な顔立ち。この国の第三皇子コルト・クロイツァー・フォン・ブラウベルクで間違いないだろう。
 ハイネが以前、ハーターシュタインから奪還すると言っていたが、本当に連れて帰る事に成功していたようだ。

 彼が弟を見捨てていなかった事が嬉しくて、コルト皇子を微笑みながら見送ろうとする。人質交換の際に少し顔合わせした程度の関係なので、向うは覚えていないだろうし、今のジルの身分を考えると、気安く話しかけるべきではない様に感じられるのだ。

「ん……?」

 コルトはジルの視線に気が付いた様で、歩みを止め、こちらに顔を向けた。

「君とどこかで会った気がする」

 少し吊り上がった目でジルを見上げるコルトは撫でたくなる程可愛らしい。緩みそうになる頬を引き締め、スカートを摘まみ上げる。

「ジル・クライネルトと申します。この大学の植物学研究科で学んでおりますの」

 ジルは余計な事を口にしない様に最低限の挨拶をした。

「ジルって、どこかで聞いた事がある様な……。あ! 君、前太ってなかった?」

 意外と鋭いコルトに驚きながら頷く。

「よくお気付きになられましたわね」

「ああ、やっぱり……。何で痩せちゃったの? ポッチャリ感が良かったのに……。残念だなぁ」

「ええと……」

「痩せた人は女として見れないけど、代わりに僕と友達になってよ。僕って子供だし皇子様だから大学でボッチなんだ」

「友達ですか? 私でいいのでしたら、是非!」

 ハイネの弟と友人になるというのは、予想もしてない展開なので、ジルは妙に楽しい気持ちになる。もしかしたら、ジルが知らないハイネの情報を教えてもらえるかもしれない。

「コルト様はその歳でもう大学生なのですの?」

「うん。飛び級したからね」

「優秀なのですね」

「ハイネ程じゃないよ……。あ、植物学を専攻してるなら、知り合いの教授を紹介してあげるよ。貴族の次男で大学で働いてる人なんだ」

「まぁ、有難うございます!」


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...