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勇者もどき追放作戦

勇者もどき追放作戦④

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 どのくらい眠っただろうか? 頬の辺りがジンワリと温かく感じ、意識が浮上する。頬から気配が消えると、次は首に不自然な感覚が移る。

(ん……?)

 寝ている事も出来ず、目を開けてみると、整った顔がマリの顔を見下ろしていた。試験体066だ。

「何してるの……!?」

 頭に血が上り、彼の襟首を掴んでベッドに押し倒す。チェストからピストルを取り出し、侵入者の眉間にグリッと当てる。

「アンタ、よっぽど死にたいみたいだね。まさか私を襲うとか」

「……治療しただけ」

「え……」

 絆創膏の上から傷を押さえてみると、確かに痛みが消えている。首もだ。
 彼はその手に白く神聖な光を灯し、顔の横に置いていたマリの手の傷にあてた。目の前で傷がみるみるうちに消えていく。信じないマリの為に、実際に魔法を使ってみせたのだろう。
 ゴブリンと戦った時に付いた傷を確かに気にしていた。それを癒やしてくれるのは有難いのだが、人の寝室に勝手に入って来るのは許しがたい。

「礼は言わない。首の傷はアンタに付けられた事忘れてないし」

「僕も忘れてないけど……」

 自分の暴挙の詫びのつもりで治してくれたのだろうか? それで仕掛けて来た事が全て帳消しされるなんて思わないでほしい。マリは少年の顔を強く睨み付けた。

「アンタとはレアネーでお別れって事で。金輪際私と関わってこないでくれる?」

「……何となく、君とは離れない方がいい気がしてる……。よくわからないけど」

 訳の分からない自論で居残ろうという彼の言葉に苛立ちが募る。間接照明に照らされる彼の瞳は、無機質で、とても話が通じそうにない。コイツこそモンスターなんじゃないかと思ってしまう。
 その底知れない目を見下ろすうちに、マリの頭の中に悪い考えが浮かんだ。

 ピストルをチェストに戻し、右手で彼の頬をゆっくり撫でる。

「いいよ。側に置いてあげても。アンタが私にした事全部許してあげる」

「……?」

 訝しげな表情を浮かべる少年に優しく笑いかける。

「その代わり、コルルに優しくしてあげて。女の子が傷つく姿を見たくないの。彼女の頼み事は何でもきいてあげてね」

「……分かった」

 素直に頷く彼に満足し、ササっと上から離れる。

「そーいうわけだから宜しく!」

 考える様な素振りを見せる彼をベッドの上に置き去りにし、マリは寝室を出て行った。ドアから出てすぐに、その場にへたり込む。

(なんか私、もの凄い悪女みたいな事しちゃった様な……。ていうか、あんな至近距離でよく会話出来たな!)

 アメリカに住んでいるにも拘らず、割と小さい頃に婚約者を決められたマリは、異性との関わりにおいて、経験値がゼロに近い。それなのに、ベッドでエロい雰囲気を醸し出せたのは奇跡に近い(尤も、相手は人形並みに反応が薄かったのだが……)。

(まぁ、これで、あの変な男をキャンプカーから追い出せる……)

 コルルの発言の中にあった、『結婚相手に選ばれた者は一生街の外に出られない』という言葉を利用して、あの少年をこの街に置き去りにしようと考えたのである。少々可哀想ではあるが、相手は猫耳が生えた美少女だ。そんな子と一生ラブラブに過ごせるんだから特に問題はないだろう。

(私もアレックスと婚約破棄して、彼氏作ろう! メッチャイケメンで、頭がまともな人がいいな!)

 気合いを入れ直し、立ち上がる。スマートフォンの画面を見ると、時刻は午後十八時を過ぎている。
 さっきセバスちゃんが魔法で出してくれたハンバーガーを食べたので、お腹は特に減ってないが、あれだけだと流石に栄養が足りない。

(何かスープでも作ろうかな)

 セバスちゃんも休んでるのか、キャンプカーは停車中で、調理するにはちょうどいい。
 大型の冷蔵庫を開く。ミッチリと詰まった食材の中から、人参や生クリーム、バターを取り出す。
 さらに、棚から形のいい玉ねぎやジャガイモを選び、アサリの缶詰も手に取る。
 それらをキッチンスペースに運び、野菜を細かく刻んでいく。フライパンの上でバターを溶かすと、車内に甘い匂いが漂う。

 野菜を炒め、水や生クリーム、アサリの缶詰を汁ごと入れて、コンソメで味を整えたらクラムチャウダーの完成だ。
 それを四つの木製の器に盛り付ける。興味津々の表情で様子を伺いに来たコルルに、二つの器と、焼いたバゲットを渡し、自分とセバスちゃんの分は、運転席に持って行く。

 セバスちゃんは座席を倒し、寝ていた。かなりの距離を運転していたのだから、疲れてしまったのだろう。彼の為に持って来た器は、ウッカリ倒してしまわないような所に置く。
 一人で食べるのもちょっと寂しいものだが、熱々のうちに食べたい。助手席に座り、すぐに木製のスプーンでクラムチャウダーをすくう。パクリと食べると、口いっぱいにクリーミーなコクと、アサリの旨味が広がった。

(牛乳じゃなくて、生クリームにして正解だったね)

 野菜の煮え具合も程良く、多少歯応えが残っているおかげで、スープだけでもちゃんとしたご馳走を食べている気分になる。

 キャンプカーの後方から、コルルが「すっごく美味しい~!」と騒ぐのが聞こえた。将来食に関わる仕事をしたい者としては、自分が作った料理に対して美味しいと言われる事に弱く、頬が熱くなった。
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