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魔人襲来
魔人襲来②
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マリはグイグイ引っ張る白髪の少年に抗う。ヒョロい割に力強いので、立ち止まった後に足に体重をかけた。
「悪いけど、逃げるのはアンタ一人! セバスちゃんを見捨てられないから!」
決死の覚悟だ。バッグの中にはピストルを忍ばせてある。人間の見た目に近い種族の者を撃つなんて、想像するだけでゾッとするけど、無力なマリは、これを使うしかないだろう。何とかしてセバスちゃんを取り戻したい。
試験体066は感情の読めない表情でそんなマリを見つめる。
「セバスちゃんは、使用人だけど、私の友人なの! でもアンタは彼をどうでもいいと思ってるだろうし、私達を見捨てたらいい!」
アメジストの瞳を強く見つめ、決意を口にする。この少年は一昨日会ったばかりだし、マリに物の様に扱われている。だから、ここまで言ったらマリを置いて、一人で立ち去るだろう。そう思ったのに……。
急に、身体が固まった。戸惑いの声をあげようにも、舌や唇が緩慢にしか動かない。
「アン……タ……。私に……何か、した?」
「君の身体の時間を止めさせてもらった……。喋り辛そうなのは効きすぎたからかな……」
「ふっ……ざけ、んな……」
動けないマリの身体はいとも容易く彼の肩に担ぎ上げられた。安定しない姿勢と、剥き出しの太とももを掴まれている生々しい感覚で、叫びそうになる。
(最低最低最低!!)
動く様になったら絶対何発か殴ってやろうと決める。だけど、手の感触は直ぐに忘れた。少年があり得ない動きで、石や、家畜の小屋、納屋の屋根にジャンプし、家々を飛び移り始めたからだ。真下しか見えないマリはたまったもんじゃない。
「キャーーー!!!」
麻痺が緩和され、動きが良くなってきた口で、遠慮なく叫ぶ。絶叫マシーンなんかまだ可愛いものだというくらいの、とんでもない動きだ。一体この少年の身体能力はどうなっているのか? 本当に人間なんだろうか?
獣人達の能力は分からないものの、彼等がこの少年を追いかけるなんて、絶対に無理な気がする。
飛び移った家の数が二十を超えたくらいで、少年は石畳の路面に着地し、マリは肩から下された。
生まれたての子鹿の様に足がガクガクし、そのまま座り込む。セバスちゃんの事を思えば、すぐ立ち上がって戻らなければならないと思うのに、魔法の影響が残っているせいもあるのか、全く力が入らない。
「大丈夫……?」
「大丈夫なんかじゃない! 勝手すぎ! それに私の太ともあんな風に鷲掴みするなんて、この変態!」
「ごめん……。でもあのままじゃ、ただ捕まえられるだけだったと思う……」
「……つぅ……」
彼の言う通りだ。ピストルにしか頼れないのに、銃弾は、招待客全員分あるわけじゃない。というか、人に向かって撃ちまくるなんて、やっぱり無理だっただろう……。
「マリちゃん!?」
どうしたら良いのかと、上手く動かない頭で必死に考えていると、覚えのある声が自分の名を呼んだ。その声の主の方を見ると、立派な建物の入り口近くに、フレイティア公爵が立っていた。マリの只ならぬ様子に目を丸くし、近寄って来る。
「どうしたんだい? そこの少年に何かされた?」
「公爵……。そういうわけじゃ……ないけど……。知人の結婚式に出てたら、魔人? という存在が現れて、追われてる……。昨日のハンバーガーのオッサンは、魔人に捕まってしまって」
公爵はこのレアネー市を治めている人物。市民がおかしな事に巻き込まれてしまっているわけだから、ちゃんと伝えなければいけないと思った。そして、話しながら、彼ならばセバスちゃんを救えるかもしれないという事に気がつく。
「ま……魔人だって……!? この街に!?」
昨日会った時から、公爵は落ち着いた雰囲気だったのに、マリの話を聞き、狼狽えた。それだけ魔人というのはヤバイ存在なのだろう。
「魅了の術で操られている者達が五十人程いる……。下手な事をしたら沢山の人を殺してしまいそうだから逃げている」
試験体066は聞きようによっては、ヤバイ説明をした。彼は魔法を最小限に留めていたらしい。
「そんなに多いのか」
「この街に状態異常を治せる術者は何人いる……?」
「対象者が五十人もいるとなると、冒険者ギルドに常駐している神聖魔法の使い手では足りなさそうだね」
マリには良く分からない事を話し始めた二人。口を挟めないような雰囲気だ。
「公爵! 大変です!」
「どうしたんだい? 今話の途中なんだけど」
「申し訳ありません! ですが、今市庁舎内に居る者達の様子がおかしくて!」
声の主は、昨日オークの肉を持って来てくれた、公爵の従者だった。
彼の後方にある建物から、挙動のおかしい者達がフラフラと出て来ている。コルルの結婚式会場で、魔人の術にかかってしまった獣人達の様子に似ている。
「魔人の術がここまで及んでいるのかも……。この街から出よう。危険だ」
「こんなに距離が離れてるのに!?」
少年に肩を支えられ、何とか立ち上がる。ここまで強力な術を使える者の近くにいるセバスちゃんはどうなっているのだろうと、目の前が真っ暗になる様な感覚だ。だけど、今はそれどころでもない。市庁舎から出てきた者達は、マリ達に近付いて来ている。コイツらも、自分達を捕まえようとしているのかーー。
「公爵! ここは自分が食い止めます。術がどの程度なのか分からないですので、貴方は一度街から出て下さい!」
「ここら一帯が魔人の手中にあるようだ。仕方がない。マリちゃん、と少年、僕の馬車に乗って。一度街を出よう」
「悪いけど、逃げるのはアンタ一人! セバスちゃんを見捨てられないから!」
決死の覚悟だ。バッグの中にはピストルを忍ばせてある。人間の見た目に近い種族の者を撃つなんて、想像するだけでゾッとするけど、無力なマリは、これを使うしかないだろう。何とかしてセバスちゃんを取り戻したい。
試験体066は感情の読めない表情でそんなマリを見つめる。
「セバスちゃんは、使用人だけど、私の友人なの! でもアンタは彼をどうでもいいと思ってるだろうし、私達を見捨てたらいい!」
アメジストの瞳を強く見つめ、決意を口にする。この少年は一昨日会ったばかりだし、マリに物の様に扱われている。だから、ここまで言ったらマリを置いて、一人で立ち去るだろう。そう思ったのに……。
急に、身体が固まった。戸惑いの声をあげようにも、舌や唇が緩慢にしか動かない。
「アン……タ……。私に……何か、した?」
「君の身体の時間を止めさせてもらった……。喋り辛そうなのは効きすぎたからかな……」
「ふっ……ざけ、んな……」
動けないマリの身体はいとも容易く彼の肩に担ぎ上げられた。安定しない姿勢と、剥き出しの太とももを掴まれている生々しい感覚で、叫びそうになる。
(最低最低最低!!)
動く様になったら絶対何発か殴ってやろうと決める。だけど、手の感触は直ぐに忘れた。少年があり得ない動きで、石や、家畜の小屋、納屋の屋根にジャンプし、家々を飛び移り始めたからだ。真下しか見えないマリはたまったもんじゃない。
「キャーーー!!!」
麻痺が緩和され、動きが良くなってきた口で、遠慮なく叫ぶ。絶叫マシーンなんかまだ可愛いものだというくらいの、とんでもない動きだ。一体この少年の身体能力はどうなっているのか? 本当に人間なんだろうか?
獣人達の能力は分からないものの、彼等がこの少年を追いかけるなんて、絶対に無理な気がする。
飛び移った家の数が二十を超えたくらいで、少年は石畳の路面に着地し、マリは肩から下された。
生まれたての子鹿の様に足がガクガクし、そのまま座り込む。セバスちゃんの事を思えば、すぐ立ち上がって戻らなければならないと思うのに、魔法の影響が残っているせいもあるのか、全く力が入らない。
「大丈夫……?」
「大丈夫なんかじゃない! 勝手すぎ! それに私の太ともあんな風に鷲掴みするなんて、この変態!」
「ごめん……。でもあのままじゃ、ただ捕まえられるだけだったと思う……」
「……つぅ……」
彼の言う通りだ。ピストルにしか頼れないのに、銃弾は、招待客全員分あるわけじゃない。というか、人に向かって撃ちまくるなんて、やっぱり無理だっただろう……。
「マリちゃん!?」
どうしたら良いのかと、上手く動かない頭で必死に考えていると、覚えのある声が自分の名を呼んだ。その声の主の方を見ると、立派な建物の入り口近くに、フレイティア公爵が立っていた。マリの只ならぬ様子に目を丸くし、近寄って来る。
「どうしたんだい? そこの少年に何かされた?」
「公爵……。そういうわけじゃ……ないけど……。知人の結婚式に出てたら、魔人? という存在が現れて、追われてる……。昨日のハンバーガーのオッサンは、魔人に捕まってしまって」
公爵はこのレアネー市を治めている人物。市民がおかしな事に巻き込まれてしまっているわけだから、ちゃんと伝えなければいけないと思った。そして、話しながら、彼ならばセバスちゃんを救えるかもしれないという事に気がつく。
「ま……魔人だって……!? この街に!?」
昨日会った時から、公爵は落ち着いた雰囲気だったのに、マリの話を聞き、狼狽えた。それだけ魔人というのはヤバイ存在なのだろう。
「魅了の術で操られている者達が五十人程いる……。下手な事をしたら沢山の人を殺してしまいそうだから逃げている」
試験体066は聞きようによっては、ヤバイ説明をした。彼は魔法を最小限に留めていたらしい。
「そんなに多いのか」
「この街に状態異常を治せる術者は何人いる……?」
「対象者が五十人もいるとなると、冒険者ギルドに常駐している神聖魔法の使い手では足りなさそうだね」
マリには良く分からない事を話し始めた二人。口を挟めないような雰囲気だ。
「公爵! 大変です!」
「どうしたんだい? 今話の途中なんだけど」
「申し訳ありません! ですが、今市庁舎内に居る者達の様子がおかしくて!」
声の主は、昨日オークの肉を持って来てくれた、公爵の従者だった。
彼の後方にある建物から、挙動のおかしい者達がフラフラと出て来ている。コルルの結婚式会場で、魔人の術にかかってしまった獣人達の様子に似ている。
「魔人の術がここまで及んでいるのかも……。この街から出よう。危険だ」
「こんなに距離が離れてるのに!?」
少年に肩を支えられ、何とか立ち上がる。ここまで強力な術を使える者の近くにいるセバスちゃんはどうなっているのだろうと、目の前が真っ暗になる様な感覚だ。だけど、今はそれどころでもない。市庁舎から出てきた者達は、マリ達に近付いて来ている。コイツらも、自分達を捕まえようとしているのかーー。
「公爵! ここは自分が食い止めます。術がどの程度なのか分からないですので、貴方は一度街から出て下さい!」
「ここら一帯が魔人の手中にあるようだ。仕方がない。マリちゃん、と少年、僕の馬車に乗って。一度街を出よう」
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