27 / 156
土の神殿へ
土の神殿へ②
しおりを挟む
公爵はキャンプカーの速度を180㎞/時まで出したが、それで満足したらしく、以後は80㎞/時で走行してくれるようになった。
スピードに対してのヒヤヒヤ感は無くなったものの、まだ安心出来ない。
光溢れるニューヨークで暮らしていたマリにとっては、この世界の夜はあまりにも暗い。ヘッドライトで照らされている場所の様子はかろうじて分かるが、気を抜いて運転したら何かと衝突しそうな雰囲気だ。このまま彼を運転席に一人残して大丈夫なのだろうかと心配になる。
「私、夕飯の支度をしたいんだけど、一人で大丈夫……ではないよね? 無理だよね?」
「僕はもうこの乗り物の動かし方を熟知してしまったよ! まるで恋人同士みたいにいい関係になってる! この四角いのも、時々チャーミングな声で話しかけてくれるしね」
公爵はカーナビを撫でながら、ヘラヘラと笑った。マリは余計に不安になる。外が暗いから、というより、公爵が周辺機器をどう思ってるのかという部分がだ。ギャクを言ってるのかどうなのか、彼の場合分かりづらすぎる。
公爵はマリが彼を信じていない事に気が付いたようで、照れ臭そうにした。
「マリちゃんはさっきから、僕がこの乗り物で、他人を傷つけてしまわないか心配してるんだよね? こうみえて僕は治癒魔法を使えるから、何か起こっても、息の根があれば、治してあげられるよ」
その言葉の内容的にフラグが立ち過ぎていて笑えないが、あまり心配しすぎるのも失礼だろうから、思いきって彼に任せてしまう事にした。彼に限らず、マリだって事故を完全に回避するのは無理なのだ。
「じゃあお願い。昨日貰ったオークの肉を使って夕食を作ってみるから、後で三人で食べよう」
「ああ! そういえば、昨日オークの肉をマリちゃんにあげたんだった。マリちゃんの世界風の料理にしてほしいな」
「昨日それも約束したし、そのつもり! ていうか、この世界の料理が分からないから、馴染みの料理に肉を使うしかないんだけどね」
「楽しみだなぁ!」
公爵に、運転中何かあったら必ず呼ぶ様に言い、マリはキャンプカーの後方へと向かう。ドア付近に差し掛かると、試験体066が相変わらずボンヤリした表情で座っていて、切れ長の目でマリを見る。
「アンタまだそんな所に座ってんの? ソファにでも座れば?」
「この車の中に居てもいいのかどうかハッキリしないから……」
マリは少年の言い分に呆れた。遠慮してドア付近に座り続けていたらしい。
「居てもいいよ」
「結局結婚しなかったけど……」
「……それはもうどーでもいいから!」
マリの私室での、少年とのやり取りを思い出し、顔が暑くなる。今更蒸し返さないでほしい。ヤケクソ気味にマリは少年に手を差し伸べた。
「夕食作りを手伝ってよ! どーせ暇なんでしょ!?」
彼はマリの手をマジマジと見ながら頷いた。戸惑うようにユックリと伸ばされる手。重ねてくれたそれをグイッと引っ張り、立ち上がらせる。
(デッカイ子供みたい。今までどうやってアメリカ社会で生きてこれたんだろ?)
彼に関しては不思議だらけだが、これから色々と知っていけばいいだろう。もう友好的に接すると決めたのだ。根気よく接してみよう。
少年の手をパッと手放し、付いて来るように言う。
「夕食作りって……なに?」
「え!? 世間知らずなの?」
「情報としては知っているけど、知ってる事と違った言い方をされると、結びつかなかったりする……。というか、野生生物を狩って、解体して、肉を焚き木で焼くんだよね? 同じ事をすればいい?」
「原始人かよ!」
公爵と話すのも、かみ合わず、辛かったが、この少年は輪をかけて話辛い。コッソリ疑っていたのだが、NASAに捕らえられていた宇宙人とかなんじゃないだろうか?
友好的に接すると決めたものの、マリの中に半分流れている大阪人の血が騒ぎ、ツッコミを入れたくなる。
深呼吸して気持ちを落ち着かせ、平静を装った。
「料理のやり方は私が教えてあげるから真面目に手伝ってよね」
「有難う……。実はマリさんの料理、今まで食べたどんな物より美味しかった。どうやって作ってるのか興味があったんだ……」
「……!?」
ニコリと笑う少年に驚愕する。そんな事を言われたら嬉しいに決まってる。でも彼の前で素直に喜ぶのはプライドが許さないので、表情が変わらない様に気をつけながら、軍人だった祖父の様に、「うむ!」と仰々しく頷くにとどめておいた。
二人でキッチンスペースに行く。マリは冷凍庫の中から凍ったオーク肉の塊を取り出した。それをだいたい100g程切り、残りを冷凍庫に戻す。切り取った肉を更に幾つかのブロックに分け、電子レンジに入れて解凍する。
「何を作るの……?」
ほんの少し楽しそうに、マリの作業を見ていた少年が問いかける。
「豚汁ならぬ、オーク汁を作るよ! 日本料理なんだ。食べると身体があったまるし、栄養満点!」
「へぇ……。日本料理に詳しいのか……」
「母さんが日本出身だから、色々作ってくれて……」
自分がハーフである事を打ち明けるのは、少し勇気が必要だった。純粋な白人である彼はどう思うのだろうか?
「両親の人種が違うと、二つの文化に触れられるのな? 楽しそう……」
嘘の無い表情だ。マリは彼を疑った事を反省した。
スピードに対してのヒヤヒヤ感は無くなったものの、まだ安心出来ない。
光溢れるニューヨークで暮らしていたマリにとっては、この世界の夜はあまりにも暗い。ヘッドライトで照らされている場所の様子はかろうじて分かるが、気を抜いて運転したら何かと衝突しそうな雰囲気だ。このまま彼を運転席に一人残して大丈夫なのだろうかと心配になる。
「私、夕飯の支度をしたいんだけど、一人で大丈夫……ではないよね? 無理だよね?」
「僕はもうこの乗り物の動かし方を熟知してしまったよ! まるで恋人同士みたいにいい関係になってる! この四角いのも、時々チャーミングな声で話しかけてくれるしね」
公爵はカーナビを撫でながら、ヘラヘラと笑った。マリは余計に不安になる。外が暗いから、というより、公爵が周辺機器をどう思ってるのかという部分がだ。ギャクを言ってるのかどうなのか、彼の場合分かりづらすぎる。
公爵はマリが彼を信じていない事に気が付いたようで、照れ臭そうにした。
「マリちゃんはさっきから、僕がこの乗り物で、他人を傷つけてしまわないか心配してるんだよね? こうみえて僕は治癒魔法を使えるから、何か起こっても、息の根があれば、治してあげられるよ」
その言葉の内容的にフラグが立ち過ぎていて笑えないが、あまり心配しすぎるのも失礼だろうから、思いきって彼に任せてしまう事にした。彼に限らず、マリだって事故を完全に回避するのは無理なのだ。
「じゃあお願い。昨日貰ったオークの肉を使って夕食を作ってみるから、後で三人で食べよう」
「ああ! そういえば、昨日オークの肉をマリちゃんにあげたんだった。マリちゃんの世界風の料理にしてほしいな」
「昨日それも約束したし、そのつもり! ていうか、この世界の料理が分からないから、馴染みの料理に肉を使うしかないんだけどね」
「楽しみだなぁ!」
公爵に、運転中何かあったら必ず呼ぶ様に言い、マリはキャンプカーの後方へと向かう。ドア付近に差し掛かると、試験体066が相変わらずボンヤリした表情で座っていて、切れ長の目でマリを見る。
「アンタまだそんな所に座ってんの? ソファにでも座れば?」
「この車の中に居てもいいのかどうかハッキリしないから……」
マリは少年の言い分に呆れた。遠慮してドア付近に座り続けていたらしい。
「居てもいいよ」
「結局結婚しなかったけど……」
「……それはもうどーでもいいから!」
マリの私室での、少年とのやり取りを思い出し、顔が暑くなる。今更蒸し返さないでほしい。ヤケクソ気味にマリは少年に手を差し伸べた。
「夕食作りを手伝ってよ! どーせ暇なんでしょ!?」
彼はマリの手をマジマジと見ながら頷いた。戸惑うようにユックリと伸ばされる手。重ねてくれたそれをグイッと引っ張り、立ち上がらせる。
(デッカイ子供みたい。今までどうやってアメリカ社会で生きてこれたんだろ?)
彼に関しては不思議だらけだが、これから色々と知っていけばいいだろう。もう友好的に接すると決めたのだ。根気よく接してみよう。
少年の手をパッと手放し、付いて来るように言う。
「夕食作りって……なに?」
「え!? 世間知らずなの?」
「情報としては知っているけど、知ってる事と違った言い方をされると、結びつかなかったりする……。というか、野生生物を狩って、解体して、肉を焚き木で焼くんだよね? 同じ事をすればいい?」
「原始人かよ!」
公爵と話すのも、かみ合わず、辛かったが、この少年は輪をかけて話辛い。コッソリ疑っていたのだが、NASAに捕らえられていた宇宙人とかなんじゃないだろうか?
友好的に接すると決めたものの、マリの中に半分流れている大阪人の血が騒ぎ、ツッコミを入れたくなる。
深呼吸して気持ちを落ち着かせ、平静を装った。
「料理のやり方は私が教えてあげるから真面目に手伝ってよね」
「有難う……。実はマリさんの料理、今まで食べたどんな物より美味しかった。どうやって作ってるのか興味があったんだ……」
「……!?」
ニコリと笑う少年に驚愕する。そんな事を言われたら嬉しいに決まってる。でも彼の前で素直に喜ぶのはプライドが許さないので、表情が変わらない様に気をつけながら、軍人だった祖父の様に、「うむ!」と仰々しく頷くにとどめておいた。
二人でキッチンスペースに行く。マリは冷凍庫の中から凍ったオーク肉の塊を取り出した。それをだいたい100g程切り、残りを冷凍庫に戻す。切り取った肉を更に幾つかのブロックに分け、電子レンジに入れて解凍する。
「何を作るの……?」
ほんの少し楽しそうに、マリの作業を見ていた少年が問いかける。
「豚汁ならぬ、オーク汁を作るよ! 日本料理なんだ。食べると身体があったまるし、栄養満点!」
「へぇ……。日本料理に詳しいのか……」
「母さんが日本出身だから、色々作ってくれて……」
自分がハーフである事を打ち明けるのは、少し勇気が必要だった。純粋な白人である彼はどう思うのだろうか?
「両親の人種が違うと、二つの文化に触れられるのな? 楽しそう……」
嘘の無い表情だ。マリは彼を疑った事を反省した。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる