34 / 156
土の神殿の大神官
土の神殿の大神官③
しおりを挟む
「貴様には二度と会わぬと言ったはずだが」
大神官エイブラッドは氷の様に冷たい声色で公爵を拒絶する。対する公爵はどこ吹く風といった態度だ。
「もう十二年も前の事じゃない。そろそろ仲直りしよう。お互い大人なんだから」
「許すだと!? 出来るはずがない。貴様が彼女に惚れ薬など使わなければ今頃!」
「はぁ? 惚れ薬? 何の話だい?」
マリと試験体066をそっちのけにして、馬鹿みたいな話を続けそうな大人二人。内心呆れてしまう。だから二人の会話に割って入った。
「今そんな昔の話している場合じゃないから。レアネー市が魔人の手に堕ちてるんだよ!」
「なっ!? 魔人だと!?」
エイブラッドの青い瞳がこちらを向く。マリはその瞳を見ながら真剣な表情で頷いた。
「凄く、危険な状況!」
「そうそう。土の神殿に助けを求める為にここまで来たんだ。この女の子はマリ・ストロベリーフィールドちゃん。こっちのボンヤリした少年は試験体066君。二人とも異世界からこの世界へと移転して来たみたい」
「異世界から!? サラッと重要な事を言うな!」
「私はマリ・ストロベリーフィールド。短い間だと思うけど宜しくね」
「……宜しく」
マリ達が挨拶すると、エイブラッドは驚愕の表情のまま、「大神官だ。宜しく」と名乗った。
「異世界から来たというのは、本当なのか?」
「そうだけど?」
「そうか……。向こうから来た者は、この世界において特殊な役割を担っている事が多いと聞く。貴殿らはもうステータス鑑定等は済んでいるのか?」
エイブラッドが公爵と会話する様子から、頭がイカれているんじゃないかと疑っていたのだが、言葉を交わしてみると、結構まともな感じだ。
「私はレアネー市の冒険者ギルドで鑑定を受けたよ。こっちの白髪の男はカーナビの表示でしかステータスは見れてないな。勇者みたいなんだけど」
「ゆ……勇者!? もしかして一ヶ月前に異世界からこちらに来て、国王と謁見したのは君か!?」
「……俺は数日前に時空を渡った。貴方が言っているのは別の人物……」
「勇者が二人居るみたい!」
白髪の少年を、まるでゾンビかゴーストでも見るかの様に顔を歪めて見つめる大神官は、唇を戦慄かせ、声を振り絞った。
「……信じられん。勇者は約二十年周期で現れると聞くが、二人現れている……? 古文書によると、勇者が二人出現したのは千年程も昔。うぅむ……。勇者よ、後で俺の鑑定を受けてくれないか?」
「僕はただのコピーだし、勇者じゃないと思うけど……、まぁ、受けるだけなら……」
自己紹介の様子を黙って見つめていた公爵は、マリに意味深な笑みを向けた。
「マリちゃん。他人を盾にしちゃダメだよ。君は『選定者』だったよね? 勇者よりレアな存在だ」
「そう言われても、有り難みも分かんないし……」
この世界の仕組みがどうなってるのかサッパリ分からないのに、周りで騒がれても、困るしかないのだ。マリは一つため息をついた。
「なに!? この少女が選定者!? 一体どこまで驚けばいいのだ。貴様、一気に持ち込みすぎだ!」
「重なる時は重なるよねー」
「クソ! 取り敢えず、込み入った事情がありそうな異世界人の事は後回しだ! 魔人の状況を教えろ!!」
「お、漸く聞く気になってくれたか。良かった良かった」
公爵はニコニコ笑いながら、説明し始めた。
「魔人は、神への信仰心が薄く、理性が低めな獣人達を瘴気漬けにし、彼女達を使って力を蓄えていっていた様だよ。最近獣人達による殺人事件が相次いでいたんだけど、恐らく魔人が黒幕に居たとみている」
「なるほど。街に入った時は、取るに足らない魔族でも、エーテルを奪い続け、上級の魔族になった可能性もあるな」
「そうかもしれないね。経緯の事は、今は想像しか出来ないから何とも言えないな。それよりも、魔人の能力が問題なんだよ。困った事に、魅了の術を使う。あのスキルとエーテルを喰らう事は相性バツグンなんだ。術中にある者は喜んでエーテルを差し出し、死ぬだろうね」
二人の会話を聞いているうちに、魔人に捕まっているセバスちゃんが心配でたまらなくなっていた。
「エイブラッドさん。私の執事が魔人の餌になるかもしれないの。持ち金全部寄付してあげるから、手を貸してほしい!」
「だ、大神官の身の上では、貴女の頼みを全て聞くべきなのだろう……。しかし、簡単に頷く事は出来ない。レアネーはフレイティア最大の都市。しかも土の神の信仰を捨てている者が多数いると聞く。その者達は何百、いや、千人を超すかもしれない。その全てを掻い潜り、魔人を倒し、住人を浄化するのは……無理がある……」
「でも、冒険者ギルドのシルヴィアさんは、王都のSランクの冒険者の手を借りるって言ってた! 不可能じゃないよ!」
「だ、だが……。俺は……」
「小さい男になったね。エイブラッド。昔は無謀な事にも怯まず飛び込んで行ったのに。失敗を恐れ、この穴ぐらから出れないのか」
公爵の憐れむ様な眼差しに、エイブラッドは頭に被った巨大な帽子を投げ捨てた。
「黙れ! あの街の市長が貴様じゃなければ、もっと親身になれただろうな!」
(沸点低すぎだよ!)
マリはエイブラッドにガッカリした。これがニューヨークに住む者だったら、二度と会わないと思っただろう。
「あの街を放置したら……この神殿はただじゃ済まない……」
ボンヤリと壁を見ていた少年は、静かな声で話し出す。
「強大な力をつけた魔人は、王都だって脅かすだろう……。防ぐ努力をしなかった貴方を……信徒達はどう思うのかな……」
「勇者殿、では貴方も、魔人討伐に参加してくださるのか? その名にかけて」
「……やるよ」
窓から振り返った彼の、アメジストの瞳は諦めの色が浮かんでいた。
大神官エイブラッドは氷の様に冷たい声色で公爵を拒絶する。対する公爵はどこ吹く風といった態度だ。
「もう十二年も前の事じゃない。そろそろ仲直りしよう。お互い大人なんだから」
「許すだと!? 出来るはずがない。貴様が彼女に惚れ薬など使わなければ今頃!」
「はぁ? 惚れ薬? 何の話だい?」
マリと試験体066をそっちのけにして、馬鹿みたいな話を続けそうな大人二人。内心呆れてしまう。だから二人の会話に割って入った。
「今そんな昔の話している場合じゃないから。レアネー市が魔人の手に堕ちてるんだよ!」
「なっ!? 魔人だと!?」
エイブラッドの青い瞳がこちらを向く。マリはその瞳を見ながら真剣な表情で頷いた。
「凄く、危険な状況!」
「そうそう。土の神殿に助けを求める為にここまで来たんだ。この女の子はマリ・ストロベリーフィールドちゃん。こっちのボンヤリした少年は試験体066君。二人とも異世界からこの世界へと移転して来たみたい」
「異世界から!? サラッと重要な事を言うな!」
「私はマリ・ストロベリーフィールド。短い間だと思うけど宜しくね」
「……宜しく」
マリ達が挨拶すると、エイブラッドは驚愕の表情のまま、「大神官だ。宜しく」と名乗った。
「異世界から来たというのは、本当なのか?」
「そうだけど?」
「そうか……。向こうから来た者は、この世界において特殊な役割を担っている事が多いと聞く。貴殿らはもうステータス鑑定等は済んでいるのか?」
エイブラッドが公爵と会話する様子から、頭がイカれているんじゃないかと疑っていたのだが、言葉を交わしてみると、結構まともな感じだ。
「私はレアネー市の冒険者ギルドで鑑定を受けたよ。こっちの白髪の男はカーナビの表示でしかステータスは見れてないな。勇者みたいなんだけど」
「ゆ……勇者!? もしかして一ヶ月前に異世界からこちらに来て、国王と謁見したのは君か!?」
「……俺は数日前に時空を渡った。貴方が言っているのは別の人物……」
「勇者が二人居るみたい!」
白髪の少年を、まるでゾンビかゴーストでも見るかの様に顔を歪めて見つめる大神官は、唇を戦慄かせ、声を振り絞った。
「……信じられん。勇者は約二十年周期で現れると聞くが、二人現れている……? 古文書によると、勇者が二人出現したのは千年程も昔。うぅむ……。勇者よ、後で俺の鑑定を受けてくれないか?」
「僕はただのコピーだし、勇者じゃないと思うけど……、まぁ、受けるだけなら……」
自己紹介の様子を黙って見つめていた公爵は、マリに意味深な笑みを向けた。
「マリちゃん。他人を盾にしちゃダメだよ。君は『選定者』だったよね? 勇者よりレアな存在だ」
「そう言われても、有り難みも分かんないし……」
この世界の仕組みがどうなってるのかサッパリ分からないのに、周りで騒がれても、困るしかないのだ。マリは一つため息をついた。
「なに!? この少女が選定者!? 一体どこまで驚けばいいのだ。貴様、一気に持ち込みすぎだ!」
「重なる時は重なるよねー」
「クソ! 取り敢えず、込み入った事情がありそうな異世界人の事は後回しだ! 魔人の状況を教えろ!!」
「お、漸く聞く気になってくれたか。良かった良かった」
公爵はニコニコ笑いながら、説明し始めた。
「魔人は、神への信仰心が薄く、理性が低めな獣人達を瘴気漬けにし、彼女達を使って力を蓄えていっていた様だよ。最近獣人達による殺人事件が相次いでいたんだけど、恐らく魔人が黒幕に居たとみている」
「なるほど。街に入った時は、取るに足らない魔族でも、エーテルを奪い続け、上級の魔族になった可能性もあるな」
「そうかもしれないね。経緯の事は、今は想像しか出来ないから何とも言えないな。それよりも、魔人の能力が問題なんだよ。困った事に、魅了の術を使う。あのスキルとエーテルを喰らう事は相性バツグンなんだ。術中にある者は喜んでエーテルを差し出し、死ぬだろうね」
二人の会話を聞いているうちに、魔人に捕まっているセバスちゃんが心配でたまらなくなっていた。
「エイブラッドさん。私の執事が魔人の餌になるかもしれないの。持ち金全部寄付してあげるから、手を貸してほしい!」
「だ、大神官の身の上では、貴女の頼みを全て聞くべきなのだろう……。しかし、簡単に頷く事は出来ない。レアネーはフレイティア最大の都市。しかも土の神の信仰を捨てている者が多数いると聞く。その者達は何百、いや、千人を超すかもしれない。その全てを掻い潜り、魔人を倒し、住人を浄化するのは……無理がある……」
「でも、冒険者ギルドのシルヴィアさんは、王都のSランクの冒険者の手を借りるって言ってた! 不可能じゃないよ!」
「だ、だが……。俺は……」
「小さい男になったね。エイブラッド。昔は無謀な事にも怯まず飛び込んで行ったのに。失敗を恐れ、この穴ぐらから出れないのか」
公爵の憐れむ様な眼差しに、エイブラッドは頭に被った巨大な帽子を投げ捨てた。
「黙れ! あの街の市長が貴様じゃなければ、もっと親身になれただろうな!」
(沸点低すぎだよ!)
マリはエイブラッドにガッカリした。これがニューヨークに住む者だったら、二度と会わないと思っただろう。
「あの街を放置したら……この神殿はただじゃ済まない……」
ボンヤリと壁を見ていた少年は、静かな声で話し出す。
「強大な力をつけた魔人は、王都だって脅かすだろう……。防ぐ努力をしなかった貴方を……信徒達はどう思うのかな……」
「勇者殿、では貴方も、魔人討伐に参加してくださるのか? その名にかけて」
「……やるよ」
窓から振り返った彼の、アメジストの瞳は諦めの色が浮かんでいた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる