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レアネー市救出作戦
レアネー市救出作戦⑧
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ミーティングは夕食後にする流れになった。せっかくなので、マリはナスドの野営地に食材を持ち込み、一緒に夕食をとることにした。亀の甲羅団の五人と公爵とその従者、土の神殿一行や冒険者ギルドのシルヴィアを加え、合計三十六人という大所帯が一つ処に集まる。
マリは野外であり、大人数だからこそ、美味しく食べれるBBQを振る舞う事に決めた。
目と鼻の先のレアネー市内では、今も助けを待つ人々がいるが、気を遣って粗食にしたら、今度はこちらがまいってしまう。食べれる時に美味しく料理を食べ、戦いに備えたい。
野営地で焚いていた炎の上に網を置き、数日前に公爵に貰ったオーク肉の残りや、ソーセージ、冷凍していた牛肉等の肉類をトングを使ってドシドシ焼いていく。本当だったら野菜類も目の前で焼きたかったのだが、網の上に置くスペースが無く、仕方無しにフライパンの上に乗せて、試験体066の魔法の火で焼いてもらった。レアネーの市場のオヤジもやっていた、ファンタジー感溢れる調理法だ。
「これはオークの肉だな。タレが良く合ってメチャクチャウメーゼ! ちょっと待ってろ。ここに来る途中で狩ったコカトリスの肉をもってきてやるからよ!」
「やった!」
偵察中は、勝手な行動をとったマリに腹を立てていたナスドだったが、戻って来てからは引き摺らなかった。優秀なグループをまとめるリーダーなだけあって、器がデカイらしい。
「あぁ……神よ。感謝します。またマリお嬢様の手料理が食えるなんて!」
「手料理って程のモンじゃない。ミートガイのBBQソースに浸けて焼いてるだけ」
「それでもです! 一生ハンバーガーだけしか食えないと思って……。○ックが好きなはずなのに、憎くて、憎くて……」
涙を流しながらソーセージを齧るセバスちゃんの皿に、トウモロコシやニンジンを転がす。たった二、三日だけではあるが、ハンバーガーだけの偏食をしていた彼になるべく栄養をとってもらいたい。
「有難うございます!」
「どんどん食べなよ。……食べながらでいいんだけどさ、私と離れていた間、何があったか教えてくれない?」
魔人が現れた時、セバスちゃんは様子がおかしくなった。彼が魅了の術にかかっていたのは、魔法を全く知らないマリの目にも明らかにだった。それなのに、先程会うまでの間に自我を取り戻していた。何があったというのか。
「私はコルルさんの結婚式の時、どういう訳か、彼女の母親__魔人に恋してしまったかの様な感覚になったんです。熱に浮かされた様に、目を離す事も叶わず……、踏みつけてほしいと願った。ですが、暫く彼女を見ているうちに、急に冷めました。なんか違うな……と」
「ふぅ……ん? 違うって、どんな感じに?」
「彼女、離れて見ると非常に美しいんですけど、近くで見るとこう……体毛が濃くて、ボーボーで、白けました」
「え……。それだけで……?」
まぁ、言われてみると、この世界には脱毛サロンはないだろうし、多くのアメリカ人みたいにツルツルにしておくのは困難だろう。でもその位でドン引きするなんて、この男、訓練が足りてないんじゃないか?
男女間の価値観の相違により、微妙に気まずい雰囲気になった場を打ち破る者がいた。マリの隣に座る試験体066である。
「たぶん……この人。連日マリさんの料理を食べていたから、魅了の術が解けるのが早かったんだと思う……」
なるほど、価値観の問題ではなくて、マリの料理のお陰だったというわけだ。
「あらかじめ食べておくと、妙な術をかけられても悪化しないの?」
「……そんな気がする」
「私の料理って、凄い便利なんだな……。ってアンタ、さっきからあんまり食べてない!」
彼の皿を見ると、四分の一サイズのグラスジェムコーンが乗っているだけだ。彼の事だから、他人に遠慮して、肉を取りづらいのかもしれない。マリは彼の手から皿を奪い取り、トングで豪快に肉やソーセージを盛った。
「アンタ、今日はアボガドの皮むきとか、偵察とかして、結構動いてんだから、遠慮しないでしっかり食べなよ」
「……凄い量。でも有難う」
楽し気に笑う彼の手に皿を戻し、マリも自分の肉を食べる。オーク肉にピリ辛のBBQソースがよく合う。疲れてるのに、幾らでも食べられそうだ。
「いつの間に仲良くなったので?」
セバスちゃんは円らな目をパチパチさせながら、マリと白髪の少年を交互に見る。
「たまには変わった友人を作ってもいいかもって思っただけ」
「……僕達って友達なんだ?」
「はぁ!?」
なかなか衝撃的な言葉を返してくれる。呆然とするマリから、サッと視線を外すセバスちゃん。
気遣われるのがまた惨めだ。
「じゃぁ、私の事なんだと思ってたの? ちょっとガッカリ」
「ごめん……。でも友達が居ないから、よく分からなくて。……考える時間がほしい」
「あ、そう」
適当に頷けばいいのに、真面目すぎる。彼がジックリ考えた上で、やっぱり友達ではないと判断されたら、どう反応したらいいのだ。イライラした気持ちのまま、豪快に肉を食いちぎる。
「あーえーと……。話の続きをさせてもらいますね」
気まずい空気を変えたいのか、セバスちゃんが咳払いした。
「あの魔人、スキル鑑定が出来るようで、変わったスキルを持っていた俺に、力を披露する様に命じたんです。そしたら、俺が出したハンバーガーをえらく気に入ったみたいで……。めでたく食糧係に任命されましたよ。もーひたすら出し続けているとね。気を失うんです。拷問を受けてる様なもんです」
「魔力の使いすぎって、命に関わるらしいよ。アンタ殺されかけたんだよ」
「ヒェ!?」
便利すぎるスキルを持っていると、悪人に捕まった時に大変だ。セバスちゃんが気の毒で、彼の皿に牛肉を二枚追加してやった。
「皆、喜べ! コカトリスの肉の登場だぜ! 今度は俺たちの秘伝のタレで、肉を食わしてやるよ!」
ナスドが木の板に山盛りの肉を乗せ、現れた。威勢のいい彼の言葉に、歓声が上がる。
こんな時ではあるが、少しでも楽しんだ者の勝ちなのだ。
マリは野外であり、大人数だからこそ、美味しく食べれるBBQを振る舞う事に決めた。
目と鼻の先のレアネー市内では、今も助けを待つ人々がいるが、気を遣って粗食にしたら、今度はこちらがまいってしまう。食べれる時に美味しく料理を食べ、戦いに備えたい。
野営地で焚いていた炎の上に網を置き、数日前に公爵に貰ったオーク肉の残りや、ソーセージ、冷凍していた牛肉等の肉類をトングを使ってドシドシ焼いていく。本当だったら野菜類も目の前で焼きたかったのだが、網の上に置くスペースが無く、仕方無しにフライパンの上に乗せて、試験体066の魔法の火で焼いてもらった。レアネーの市場のオヤジもやっていた、ファンタジー感溢れる調理法だ。
「これはオークの肉だな。タレが良く合ってメチャクチャウメーゼ! ちょっと待ってろ。ここに来る途中で狩ったコカトリスの肉をもってきてやるからよ!」
「やった!」
偵察中は、勝手な行動をとったマリに腹を立てていたナスドだったが、戻って来てからは引き摺らなかった。優秀なグループをまとめるリーダーなだけあって、器がデカイらしい。
「あぁ……神よ。感謝します。またマリお嬢様の手料理が食えるなんて!」
「手料理って程のモンじゃない。ミートガイのBBQソースに浸けて焼いてるだけ」
「それでもです! 一生ハンバーガーだけしか食えないと思って……。○ックが好きなはずなのに、憎くて、憎くて……」
涙を流しながらソーセージを齧るセバスちゃんの皿に、トウモロコシやニンジンを転がす。たった二、三日だけではあるが、ハンバーガーだけの偏食をしていた彼になるべく栄養をとってもらいたい。
「有難うございます!」
「どんどん食べなよ。……食べながらでいいんだけどさ、私と離れていた間、何があったか教えてくれない?」
魔人が現れた時、セバスちゃんは様子がおかしくなった。彼が魅了の術にかかっていたのは、魔法を全く知らないマリの目にも明らかにだった。それなのに、先程会うまでの間に自我を取り戻していた。何があったというのか。
「私はコルルさんの結婚式の時、どういう訳か、彼女の母親__魔人に恋してしまったかの様な感覚になったんです。熱に浮かされた様に、目を離す事も叶わず……、踏みつけてほしいと願った。ですが、暫く彼女を見ているうちに、急に冷めました。なんか違うな……と」
「ふぅ……ん? 違うって、どんな感じに?」
「彼女、離れて見ると非常に美しいんですけど、近くで見るとこう……体毛が濃くて、ボーボーで、白けました」
「え……。それだけで……?」
まぁ、言われてみると、この世界には脱毛サロンはないだろうし、多くのアメリカ人みたいにツルツルにしておくのは困難だろう。でもその位でドン引きするなんて、この男、訓練が足りてないんじゃないか?
男女間の価値観の相違により、微妙に気まずい雰囲気になった場を打ち破る者がいた。マリの隣に座る試験体066である。
「たぶん……この人。連日マリさんの料理を食べていたから、魅了の術が解けるのが早かったんだと思う……」
なるほど、価値観の問題ではなくて、マリの料理のお陰だったというわけだ。
「あらかじめ食べておくと、妙な術をかけられても悪化しないの?」
「……そんな気がする」
「私の料理って、凄い便利なんだな……。ってアンタ、さっきからあんまり食べてない!」
彼の皿を見ると、四分の一サイズのグラスジェムコーンが乗っているだけだ。彼の事だから、他人に遠慮して、肉を取りづらいのかもしれない。マリは彼の手から皿を奪い取り、トングで豪快に肉やソーセージを盛った。
「アンタ、今日はアボガドの皮むきとか、偵察とかして、結構動いてんだから、遠慮しないでしっかり食べなよ」
「……凄い量。でも有難う」
楽し気に笑う彼の手に皿を戻し、マリも自分の肉を食べる。オーク肉にピリ辛のBBQソースがよく合う。疲れてるのに、幾らでも食べられそうだ。
「いつの間に仲良くなったので?」
セバスちゃんは円らな目をパチパチさせながら、マリと白髪の少年を交互に見る。
「たまには変わった友人を作ってもいいかもって思っただけ」
「……僕達って友達なんだ?」
「はぁ!?」
なかなか衝撃的な言葉を返してくれる。呆然とするマリから、サッと視線を外すセバスちゃん。
気遣われるのがまた惨めだ。
「じゃぁ、私の事なんだと思ってたの? ちょっとガッカリ」
「ごめん……。でも友達が居ないから、よく分からなくて。……考える時間がほしい」
「あ、そう」
適当に頷けばいいのに、真面目すぎる。彼がジックリ考えた上で、やっぱり友達ではないと判断されたら、どう反応したらいいのだ。イライラした気持ちのまま、豪快に肉を食いちぎる。
「あーえーと……。話の続きをさせてもらいますね」
気まずい空気を変えたいのか、セバスちゃんが咳払いした。
「あの魔人、スキル鑑定が出来るようで、変わったスキルを持っていた俺に、力を披露する様に命じたんです。そしたら、俺が出したハンバーガーをえらく気に入ったみたいで……。めでたく食糧係に任命されましたよ。もーひたすら出し続けているとね。気を失うんです。拷問を受けてる様なもんです」
「魔力の使いすぎって、命に関わるらしいよ。アンタ殺されかけたんだよ」
「ヒェ!?」
便利すぎるスキルを持っていると、悪人に捕まった時に大変だ。セバスちゃんが気の毒で、彼の皿に牛肉を二枚追加してやった。
「皆、喜べ! コカトリスの肉の登場だぜ! 今度は俺たちの秘伝のタレで、肉を食わしてやるよ!」
ナスドが木の板に山盛りの肉を乗せ、現れた。威勢のいい彼の言葉に、歓声が上がる。
こんな時ではあるが、少しでも楽しんだ者の勝ちなのだ。
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