米国名門令嬢と当代66番目の勇者は異世界でキャンプカー生活をする!~錬金術スキルで異世界を平和へ導く~

だるま 

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水の神殿で残る雑務

水の神殿で残る雑務①

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 ピコピコと電子音が聞こえ、意識が覚醒する。随分窮屈だし、何故か脇腹の辺りに硬い物が乗っている。目を開くと、見慣れた天井が見え、グレンは少々混乱した。
 カリュブディスの戦闘で全身がずぶ濡れになり、しかも魔力の使い過ぎで、氷の上に倒れ込んだ。意識を失うまでの間に、あまりの寒さに手足の感覚が無くなり、死を覚悟せざるをえなかった。
 だけど今、何故かキャンプカーの中に居る。自分は助かったのだろう。
 半分安堵し、半分落胆する。

「ぐぅ!! あぁ~~~吹っ飛ばされた! この髭オヤジめ!」

 グレンが横たわる場所の、やや下方からマリの声が聞こえる。身を起こし、周りの状況を確認すると、自分は毛布でグルグル巻きにされた状態でソファの上に寝かされていていた。

「あ! 漸く起きた!」

 グレンの腹付近に当てられていた、艶々とした薄茶色の髪が一度離れ、嬉しそうな表情の美少女がコチラを向く。何の意外性もなく、マリだった。彼女は床に直接座り、グレンの横腹をクッション代わりにして携帯ゲームを楽しんでいたようだ。
 就寝用のモコモコとした素材のパーカーを着ている姿は、小動物みたいで可愛い。この世界で会うどの女性も勝てないだろう。
 ウッカリ見惚れてしまい、反応が遅くなったのを不審に思われたのか、目の前で手の平が振られ、「おーい」と呼びかけられる。

「身体がキツいなら、まだ寝ててもいいよ。他の二人ももう寝ちゃってる」

「今、夜なんだ?」

「うん。今23時半」

 彼女の格好から予想はしていたが、時間の経過の早さに驚く。

「カリュブディスの浄化は無事に完了したよ。アンタ大活躍だったね。皆褒めてたよ」

「僕はただ誘導してただけ……。でも、無事に終わったなら良かった」

 記憶を辿る。あの時、カリュブディスは縮小していた。
 マリの料理に浄化の効果があるのは知っていたのだが、あそこまで鮮やかに形態を変化させるのは、初めて見た。彼女の能力の凄まじさを再認識せずにいられない……。

「あ! 寝る前にお腹に何か入れとかない? 昼も夜も食べてないし、朝までもたないでしょ」

 彼女にそう指摘されると、確かに腹の辺りが落ち着かない感覚だ。だが、この時間に働いてもらうのは申し訳ない。

「二食抜いたくらいじゃ死なない」

 グレンの返事が気に入らなかったのか、マリは口を尖らせ、「ちょっと待ってて」とキッチンスペースへと行ってしまった。

(僕の事は放置して、眠ってくれていいのに)

 自分も手伝おうと、床に立ち上がる。たったそれだけの動きでも身体がギシギシと悲鳴を上げ、厳しい。倒れ込む様にソファに座り、クッションに身を預ける。

(使う魔力の調整も出来ないとか……情けない……)

 この世界に来てから何度めかの無力感に、ため息をつく。
 それなりに戦闘しているのだが、出会うモンスターが、“弱い”か“かなり強い”かの二択なので、イマイチ実力が上がらないのが歯痒い。
 
 いつしか、キッチンスペースからは香ばしい匂いが漂ってきていた。これはたしか「ショウユ」という調味料だったはず。マリ達と旅する様になってから初めて知った日本の調味料の香りだ。

(和食作ってくれてるんだ)

 マリのレパートリーの広さには、驚くばかり。
 研究所で長年暮らしていたグレンは、固形栄養剤やサプリメント等で身体の状態をキープされていた。だから僅かな甘みや苦味しか知らなかった。
 そんな環境にウンザリしたから逃亡したのだ。
 そういう事情があったから、マリが作ってくれた粥の味には感動した。世の中にはこんな味を作り出せる人間がいたのかと。
 マリに会って、食事がただ命を維持する為だけでなく、人に楽しみをもたらすのだと知った。
 彼女の料理で、普通の人間に作り替えられていくような感覚だ。日々様々な感情が刺激される。

「お待たせ!」

 キッチンスペースからトレーを持って現れたマリは、クッションに沈むグレンの姿を見て、ギョッとした表情になった。テーブルの上にトレーを置き、グレンの額に手を伸ばしてくる。

「具合悪い?」

 自分の手と全く異なる、柔らかな感触が心地良いが、心配させたくもない。「大丈夫」と答え、モゾモゾと起き上がる。

 テーブルの上に置かれているのは、小さな土鍋だった。白飯でも炊いたのだろうかと、グレンは瞬きする。

「無理そうならちゃんと言ってよね」

 マリはそう言いながらミトンを手にはめ、「ジャジャーン!」と土鍋の蓋を外した。グツグツと煮えたった汁の中にはネギや春菊等の野菜と一緒にうどんが入れられていて、その上に卵が二つ乗せられている。「ショウユ」の香りは、この汁から放たれている。

「何て言う料理?」

「鍋焼きうどんって言うんだ。食べると身体があったまるよ」

 グレンの身体はもう室温で温まっているのだが、マリは更に料理で温めてやろうと考えているようだ。彼女は土鍋と一緒に運んで来た筒状の容器を逆さにして鍋の中に振りかける。うどんが薄っすらと赤いパウダーで染められ、少々辛そうだ。

「カレーうどん経験してるから知ってると思うけど、レンゲにちょっとずつ取り分けて食べて」

 彼女は説明し終えると床に転がるゲーム機を拾い、グレンの隣にピョンと座って、ゲームを再開した。グレンは彼女の無邪気な行動にクスリと笑い、華奢な肩に毛布をかける。

 左手にレンゲと、右手に箸を持ち、土鍋を覗き込むと、まだグツグツいっている。
 レンゲにうどんを少量乗せてみる。麺には卵の白身が僅かに絡まっていて、不思議な見た目だ。マジマジと観察してから口にレンゲを運び、食べる。

(あ……)

 熱々の麺は程よく噛みごたえが残り、甘塩っぱい味付けがちょうどいい。それを飲み込んでから、今度はレンゲに汁だけを掬い、飲んでみる。魚介の出汁がちゃんと感じられ、かなり美味しい。
 視線を感じ、マリの方を向くと、毛布に包まった状態で、ジッとこちらを伺っていた。グレンと目が合うと、シレッとした表情で目が逸らされる。

(可愛い)

 マリは研究所で良く見かけた野生のリスに似ている。
 可愛い見た目なのに、ガッツがある。
 親しくなると、グレンに近付くのに抵抗が無くなる様子もそっくりだ。

 とはいえ、料理の感想はちゃんと伝えないのは、彼女との関係にヒビが入りそうではある。

「凄い美味しい」

 聞き間違えの無いくらいキッチリとした発音で伝えると、マリは「当たり前じゃん。あ~また○リオが! もー馬鹿馬鹿!!」と、実に彼女らしく返してくれた。
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