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水の神殿で残る雑務
水の神殿で残る雑務④
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マリは塔を出て、昨日散歩中に見つけていたベンチへと向かう。後ろを振り返ると、藤色の髪の少女がとぼとぼと付いて来る。手を引かなくても、逃げようとしないのは、基本的に素直な性格だからだろう。
石を積み上げただけの簡素な階段を上り、見晴らしのいい高台に出る。
今日の海は随分と穏やかだ。
マリがピョンとベンチに腰掛け、カリュブディスも恐る恐るといった感じに座る。
冷たい風が吹き、二人の髪を乱す。
隣に座る少女の膝をチラリと見ると、その爪は意外にも綺麗な金色に染められていた。彼女は見られるのが嫌なのか、手を握りしめ、マリの視線から爪を隠した。
その様子に少々落胆しながらも、口を開く。
「海の中と、土の上、どっちが居心地いい?」
我ながらしょうもない質問だと思ったが、カリュブディスは真剣な表情で腕を組んだ。
「…………海」
長い沈黙の後の小さな声。彼女はちゃんと話せるらしい。
マリは会話が成立したことに安堵する。
「……ずっと…………海の中で……眠っていたかった。父上の揺り籠で…………。醜い私は、誰からも見られるべきじゃ……ない」
ポツリポツリと紡がれる言葉は随分ネガティブだ。
マリは改めて彼女の顔を見る。どこも醜くなんかない。それどころか、堂々と道を歩いたら、その辺の男が何十人も釣れそうなくらいに可憐だ。
「めっちゃ綺麗じゃん。私はアンタの見た目好き」
「……!?」
彼女は真っ赤になってマリを見つめる。いつまでも赤みが引かないそのホッペを見ていると、こっちまで照れてしまうので、ワザと咳払いして話題を変える。
「神界に行って、何して来たの?」
「神界…………生みの親に会った。……一緒に暮らさないかって……。……断った……。顔を見たくない」
「ふぅん」
水の神から聞いた彼女の過去を考えたら、嫌うのは当然かもしれない。
実の親に捨てられてしまうなんて、マリだったら死ぬまで呪う。
「……父上も、それがいいだろうと言った。でも…………、この世界は私にはまだ危険…………、だから……お前と共にあれと」
「うん。……んん!? どういう事!?」
聞き捨てならない事を言われた気がする。
彼女はマリの問いには答えず、茹で蛸の様に真っ赤なまま両の手を伸ばしてくる。
小さな手は、マリの右手を大切そうに握り込む。
冷水の様な感覚だ。
彼女の潤んだ眼差しは異性に向けるべきものだと思うのだが、その金色の瞳はヒタリとマリだけを映す。
「お前は……善良…………。父上に従う事にする。…………私を受け入れよ」
「何する気……?」
「お前は私を……、私はお前を……守る」
「ふぇっ!?」
少女の姿がグニャリと歪む。それと同時に、先日浴びた冷たい海水にもう一度浸る感覚になり、頭が混乱する。窒息するように苦しくて、落ち着くまで目をギュッと閉じた。
数十秒が経ち、漸く空気をうまく吸える様になった。目を開けると、さっきまで隣にいた少女の姿が消えてしまっていた。
「どこ行った……?」
辺りを見回してみても、それらしき姿はない。
先日無理やりアルコールを詰め込んだ事への意趣返しだったんだろうか?
モヤモヤしながら両手を組むと、爪の色がおかしいのに気がつく。何故か金色に染まっている。料理をするマリは、普段からネイルをしないのに、どういう事なのか。
その色がカリュブディスの爪の色にも似ている気がして、微妙に嫌な予感がしてくる。
(さっき、あの子何て言ってたっけ? 『私を受け入れよ』? いったいどういう……)
爪の表面を引っ掻いてみたりしていると、独特な足音が近付いて来るのに気がついた。ベンチから立ち上がり、そちらを見ると、水の神がコチラに向かって来ていた。マリを見上げ、ニンマリと笑う。
「あら。うまくいったみたいねぇ」
「……うまくいった?」
聞き間違えだろうか? マリは彼の言葉をちゃんと聞くために、走り寄る。
「カリュブディスに、オーパーツの機能が元通りになるまではお前と一体化しておいたらいいと、伝えておいたのよ」
「一体化!?」
「瘴気はあの子にとって、脅威なの。だけど、お前と共にある事で、あの子の身体に変化が起きるかもしれない。そしてお前はカリュブディスにその身を守ってもらえる。仲良くやんなさい」
水の神の話に、マリは愕然とする。神の子と一体化するだなんて、全く予想していなかった。というか、普通承諾を得てから実行するんじゃないだろうか。親子揃って言葉が足りなすぎる!
だんだん腹が立って来たマリは、水の神に食ってかかった。
「あのさぁ! 人の事なんだと思ってんの! 神だからって、勝手すぎ!!」
「うふ……。アタシの役に立てる者は少ないの。使ってもらった事を有り難く思いなさい。ねぇ、それより、カミラの石板は読んだ?」
石を積み上げただけの簡素な階段を上り、見晴らしのいい高台に出る。
今日の海は随分と穏やかだ。
マリがピョンとベンチに腰掛け、カリュブディスも恐る恐るといった感じに座る。
冷たい風が吹き、二人の髪を乱す。
隣に座る少女の膝をチラリと見ると、その爪は意外にも綺麗な金色に染められていた。彼女は見られるのが嫌なのか、手を握りしめ、マリの視線から爪を隠した。
その様子に少々落胆しながらも、口を開く。
「海の中と、土の上、どっちが居心地いい?」
我ながらしょうもない質問だと思ったが、カリュブディスは真剣な表情で腕を組んだ。
「…………海」
長い沈黙の後の小さな声。彼女はちゃんと話せるらしい。
マリは会話が成立したことに安堵する。
「……ずっと…………海の中で……眠っていたかった。父上の揺り籠で…………。醜い私は、誰からも見られるべきじゃ……ない」
ポツリポツリと紡がれる言葉は随分ネガティブだ。
マリは改めて彼女の顔を見る。どこも醜くなんかない。それどころか、堂々と道を歩いたら、その辺の男が何十人も釣れそうなくらいに可憐だ。
「めっちゃ綺麗じゃん。私はアンタの見た目好き」
「……!?」
彼女は真っ赤になってマリを見つめる。いつまでも赤みが引かないそのホッペを見ていると、こっちまで照れてしまうので、ワザと咳払いして話題を変える。
「神界に行って、何して来たの?」
「神界…………生みの親に会った。……一緒に暮らさないかって……。……断った……。顔を見たくない」
「ふぅん」
水の神から聞いた彼女の過去を考えたら、嫌うのは当然かもしれない。
実の親に捨てられてしまうなんて、マリだったら死ぬまで呪う。
「……父上も、それがいいだろうと言った。でも…………、この世界は私にはまだ危険…………、だから……お前と共にあれと」
「うん。……んん!? どういう事!?」
聞き捨てならない事を言われた気がする。
彼女はマリの問いには答えず、茹で蛸の様に真っ赤なまま両の手を伸ばしてくる。
小さな手は、マリの右手を大切そうに握り込む。
冷水の様な感覚だ。
彼女の潤んだ眼差しは異性に向けるべきものだと思うのだが、その金色の瞳はヒタリとマリだけを映す。
「お前は……善良…………。父上に従う事にする。…………私を受け入れよ」
「何する気……?」
「お前は私を……、私はお前を……守る」
「ふぇっ!?」
少女の姿がグニャリと歪む。それと同時に、先日浴びた冷たい海水にもう一度浸る感覚になり、頭が混乱する。窒息するように苦しくて、落ち着くまで目をギュッと閉じた。
数十秒が経ち、漸く空気をうまく吸える様になった。目を開けると、さっきまで隣にいた少女の姿が消えてしまっていた。
「どこ行った……?」
辺りを見回してみても、それらしき姿はない。
先日無理やりアルコールを詰め込んだ事への意趣返しだったんだろうか?
モヤモヤしながら両手を組むと、爪の色がおかしいのに気がつく。何故か金色に染まっている。料理をするマリは、普段からネイルをしないのに、どういう事なのか。
その色がカリュブディスの爪の色にも似ている気がして、微妙に嫌な予感がしてくる。
(さっき、あの子何て言ってたっけ? 『私を受け入れよ』? いったいどういう……)
爪の表面を引っ掻いてみたりしていると、独特な足音が近付いて来るのに気がついた。ベンチから立ち上がり、そちらを見ると、水の神がコチラに向かって来ていた。マリを見上げ、ニンマリと笑う。
「あら。うまくいったみたいねぇ」
「……うまくいった?」
聞き間違えだろうか? マリは彼の言葉をちゃんと聞くために、走り寄る。
「カリュブディスに、オーパーツの機能が元通りになるまではお前と一体化しておいたらいいと、伝えておいたのよ」
「一体化!?」
「瘴気はあの子にとって、脅威なの。だけど、お前と共にある事で、あの子の身体に変化が起きるかもしれない。そしてお前はカリュブディスにその身を守ってもらえる。仲良くやんなさい」
水の神の話に、マリは愕然とする。神の子と一体化するだなんて、全く予想していなかった。というか、普通承諾を得てから実行するんじゃないだろうか。親子揃って言葉が足りなすぎる!
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